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59話。アンジェラとの決着

 父上が光の粒子となって消滅していく。

 僕はそれを呆然と見つめた。


 アンジェラは、父上はこの世に未練があって戦いたがっていた、と言っていた。自分はその背中を押しただけだと。

 

「シグルド様は、アベル様の成長を見届けたかったのですね」


 ティファがやって来て、告げた。


「生前。アベル様に剣を直接、教えられなかったのが、残念だとおっしゃっていました……」


「そうか……」


 だから、満足して天に昇っていったんだな。

 父上の魂が、今度こそ迷わないように僕は祈りを捧げた。


「アベル……傷の手当てをするね」


 リディアが寄ってきて、僕の背中に手を当てた。注ぎ込まれた回復魔法が、身体の痛みを取り去っていく。


「私も祈るわ。お父様の安らかな眠りを……」


「ありがとう。リディア」


 大聖女の祈りを受ければ、もう父上がアンデッド化することはないだろう。


 できれば、もっと父上と話がしたかったけれど。これ以上の奇跡を望んだら、きっとバチが当たるだろうな。


「嘘っ……私の最強の騎士がっ。シグルドが……!」


 その時、アンデッドの馬に乗ったアンジェラが、呆然自失とした様子でやって来た。


「これで、あなたの自慢の三騎士はすべて、アベル様に破れましたね」


「なぜ、それを……?」


 ティファの言葉に、アンジェラは表情を強張らせる。


「三騎士に指定したアンデッドの能力を3倍に引き上げ、弱点属性の耐性も与える。それが、あなたのスキルの力なのでしょ?

 知ってしまえば、なんということはありません。バフ・マスターの劣化版ではありませんか!」


「確かにそうね! シグルド様にドラゴンゾンビ。強力なアンデッドを騎士にしてこそ、真価を発揮する力だわ。

 シグルド様クラスの存在なんて、そうそういないし。もう、あなたなんて怖くないわ!」


 リディアも強気で言い放った。


 【死霊使い(ネクロマンサー)】の強さとは、支配するアンデッドの強さによって決まる。


 アンジェラは攻撃系の暗黒魔法も習得しているが、もう僕たちの敵ではない。


「アンジェラ。降伏して魔物の軍勢を撤退させろ。そうすれば、命までは取らない」


「……やさしいのね。でも私に敗北は許されないの」

 

 アンジェラは懐から、何か赤い宝石のような物を取り出した。


「勝ち目が無いなら。あなた達、全員、道連れにするだけよ」


「アベル様……! あれは強力な魔法爆弾です!」


 ティファの鋭い叫び。魔法爆弾は城壁を壊するのに使う新型の攻城兵器だ。それを至近距離で使うとは……

 まさかアンジェラは自爆するつもりか?


「【敏捷性】を限界突破!」


 そう直感した僕は、アンジェラに向けて疾風となって突進する。

 

「【筋力】を限界突破!」


 アンジェラの宝石を奪い取って、空に向かって放り投げた。

 その瞬間、宝石が爆発し、すさまじい爆風が大地を叩いた。


「きゃう!?」


 僕たちは、吹き飛ばされて地面を転がる。

 リディアもティファも、うめいてはいるが怪我をした様子は無かった。


 それは尻もちをついたアンジェラも同じだった。


「まさか、最後の切り札も通用しないなんて……」


「ちょっと、アンジェラ。私たちごと自爆しようなんて、どういうつもり!?」


 リディアが立ち上がって、アンジェラに詰め寄った。


「せっかくアベルが、降伏すれば命までは取らないって、言ってあげてるんでしょうが!?」


「……交渉の余地は無いということです、リディア様。アンジェラ王女はここで斬りましょう」


 ティファが瞳に怒りの火を灯す。


「ティファ、待て。アンジェラ、自爆してまで、勝利にこだわる理由はなんだ?」


 アンジェラを倒すのは、もはや簡単だ。それなら降伏してもらった方が、ありがたい。


 魔物の軍勢はアンジェラを倒したところで、好き勝手に暴れるだけだ。


 無秩序化した3万もの魔物の討伐は困難だ。こちらも大きな被害を受けて、フォルガナに付け入るすきを与えかねない。


 できればアンジェラの命令で、魔物の軍勢を撤退させた方が得策だった。


「……同じことなのよ。アーデルハイドの攻略に失敗したら、私は無能としてお父様に処刑されるわ。

 私は実験的に生まれた半魔族。使えないなら消されるだけよ」


「なんですって?」


 自嘲気味な笑みを浮かべるアンジェラに、リディアは面食らう。


「そうしたら、お母様も廃棄処分にされる。私は何としても、あなた達の命を奪わなければならないの」


 アンジェラは立ち上がって、戦う姿勢を見せた。


「さぁ、続けましょう。ラストワルツよ」


「はあっ!? お母様のため? あなたバカじゃないの!? あなたのお母様が、あなたが死ぬことなんか、望んでいると思う!?」


「な、なにを……?」


 リディアはアンジェラの腕を掴んで、【解呪ディスペル】の魔法を使った。

 アンジェラが発動しようとしていた暗黒魔法が、霧散して消える。


「おい、リディア!」


 危険極まりない行動に、僕はリディアを制止しようとしたが、彼女は構わず続けた。


「あなたのお母様は、あなたに生きていて欲しいと思っているハズだわ。それにあなたが、私たちを巻き添えにして死んだところで、お母様が無事のままでいられる保証なんて無いでしょう!?」


「アンジェラ。キミのお母さんは魔族の女性で、フォルガナの王宮にずっと幽閉されているんだろう?

 キミがいなくなったら、それこそ処分されてしまうんじゃないか?」

 

 フォルガナ王がアンジェラの母親を閉じ込めて生かしているのは、アンジェラに言うことを聞かせるためだろう。


「それは……」


 アンジェラが動揺を見せた。その点には思い至っていたが、他に手立てが無かったのだろう。


「僕はこれ以上、血を流すのを望んでいない。魔物の軍勢を撤退させるのなら、キミの母親を取り戻す交渉をすると約束する。

 それでもうフォルガナには加担せず、親子ふたりで仲良く暮らしたらどうだ?」


 関係者全員が得をする道という奴だ。


「えっ? ……それは本気で言っているの? 私のお母様を助けてくれるって。

 私はシグルドを……あなたのお父様をアンデッドにして使っていたのよ?

 この国を滅ぼそうとしていたのよ?」


「そのおかげで、父上と再会できた訳だし。3万もの魔物とやり合うのは、正直、骨が折れる。

 とりあえず判断するのは、僕がどうやってキミのお母さんを助けるつもりか、その策を聞いてからにしてもらえないか?」


 アンジェラは、こくんと頷いた。

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