48話。バフ・マスター、フォルガナ軍を罠にはめる
ゴォォォオン!
僕の放ったファイヤーボールが、石橋を吹き飛ばした。
「一撃ですか……さすがです」
騎乗したティファが、緊張した面持ちで告げる。
「これでフォルガナ軍には、僕たちが川岸にいることが伝わったハズだ」
派手な爆音を立てて橋を壊したからな。
イブたちが上流で予定通り、堤防を作ってくれたらしく、川の水嵩は下がってきている。
ちょうど膝に水がかかる程度の水位しかない。いつもなら、胸まで浸かるほどの水量があった。
これならフォルガナ軍は、僕たちめがけて、川を渡って来るはずだ。
「すごい! アベル団長のお力があれば、勝ち目はあります!」
ルーンナイツの少女騎士たちから歓声が上がるも、彼女たちの表情は固かった。
たった500人で、1万5000人の敵軍と戦うとなれば当然だろう。逃げ出さないだけでも大したモノだと言える。
「アベル様は、なぜそうまで勇敢でいらしゃるのですか……?」
僕の後に控えた少女が、控え目に尋ねてきた。
「なぜって。バラン団長に滝から突き落とされたり、とにかく敵に突撃させられたりしたおかげかな」
バラン団長は、気合と根性が大事だと繰り返し言っていた。
まったく理解できなかったが、おかげで度胸だけはついたと思う。
ブラックナイツにいた経験は無駄ではなかった。
「僕が先頭にいれば、敵は僕に攻撃を集中してくる。みんなの被害は最小限になるはずだ。恐れず戦ってくれ!」
「はいっ! アベル様と共に戦えることを光栄に思います!」
僕の激にルーンナイツの士気が上がるのを感じた。
「みんな、今回は初級魔法【雷撃】しか、使わなくていい。バフ・マスターで強化されているなら、十分通用するハズだ」
「はい!」
練度不足なルーンナイツでは、複雑な指示は実行できない。
使う魔法も初級魔法ひとつに限定した。難易度の高い魔法は、精神状態が不安定になりやすい戦場では失敗しやすい。
自分が何をすれば良いか、ハッキリしていた方が混乱しなくてすむ。
その時、鬨の声と共に、フォルガナの軍勢が姿を見せた。
先頭は騎馬隊が固めている。後衛には、魔法使いの部隊が続いているようだ。
「まさかとは思ったが、そこにいるのは、次期、アーデルハイド王か!?」
敵の総大将ゼルギウスと思わしき男が、僕に呼びかけてきた。
「いかにもその通り! この橋のように粉砕されたくなければ、さっさとお帰り願おうか!」
「フハハハッ! 小娘どもを集めて川遊びでもしておったか!? この程度の兵力で、前線に立つとは誠に愚かなり!」
フォルガナの騎馬隊は、そのままの勢いで突撃してくる。
罠があるにしても、兵力差でいかようにと押し潰せると判断したのだろう。
「ティファ。イブたちに合図を……【雷撃】一斉発射!」
「ふん! そんな素人魔法なんぞ!」
号令と共に、ルーンナイツから雷の初級魔法が飛ぶ。
フォルガナ軍は、後衛の魔法使いたちが、すぐさま魔法障壁を展開してこれを防ぐ構えを見せたが……
「なにっ!?」
僕たちはフォルガナ軍ではなく、その周囲の水面に雷撃を撃ち込んだ。
水中を走った電流に感電して、敵の騎馬隊が転倒する。これは魔法障壁では防げない。
「小癪な! 地形を利用したということか」
バフ・マスターで魔力強化された雷撃によって、敵兵は次々に失神した。川の中で気絶すれば、それは死に繋がる。
僕が【雷撃】を放つと、大勢の敵兵が一斉に白目を剥いて倒れる。この魔法は道すがら練習して、何とか使えるようになっていた。
「アベル様! 後退しましょう」
「逃がすかぁ! 者ども押し潰せ!」
だが、数の暴力で押し寄せる敵すべてを倒すことはできない。
敵から無数の攻撃魔法が飛んで来て、ルーンナイツに被害が出た。
真っ向からの魔法の撃ち合いとなれば、数で劣るこちらが圧倒的に不利だ。
「退け! 退け!」
頃合いを見て、僕はルーンナイツに後退を命じた。僕たちは全員、騎乗しており、いつでも逃げられる態勢はできている。
案の定、敵将ゼルギウスを先頭に、フォルガナの騎馬隊が目を血走らせて追ってきた。
攻撃魔法によって、僕たちは背中を撃たれる。
「くぅううう!?」
ルーンナイツはバフ・マスターで魔法防御力を強化されているとはいえ、相手は手練だ。
少女騎士たちから、苦痛の悲鳴が上がる。
「ガハハハッ! まるで狩りだ。七面鳥撃ちだな!」
勝利を確信した敵指揮官の高笑いが響いた。
「かかった!」
その時、上流から音を立てて、水が怒涛となって押し寄せてきた。
イブがこちらの上げた狼煙の合図を見て、堤防を決壊させたのだ。
「まさか、水攻めだと!?」
川を渡る途中だったフォルガナ軍が、激流に押し流されていく。
川を渡って、僕たちに追撃を仕掛けてきた2000近い騎馬隊と、後続の部隊が分断される結果となった。
これで戦況は500対2000だ。
「全軍、反転! 攻勢に出るぞ!」
水嵩が増して、敵の後続は川を渡れなくなったが、これは一時的なものだ。水量が減れば、無理矢理でも渡河してくるだろう。
このすきに敵将の首を取れなければ、僕たちの勝ちはない。
それに、もし敵軍にアンジェラがいたら、必ず何かしかけてくる。すべては時間との勝負だ。
僕はゼルギウスに向けて突撃した。
「『鉄壁』と名高きゼルギウス将軍! その首、僕がもらい受ける!」
「まさか、王太子自らがこのような危険な賭けに出るとは……おもしろい!」
僕と敵将の一騎打ちが始まった。
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