47話。【イブSIDE】剣聖、バフ・マスターの策を実行する
剣聖の少女イブは300名のブラックナイツを率いて、川の上流にやって来ていた。
アベルから授けられた作戦を実行するためだ。
「ここが良い。さあ、土嚢を積み上げて堤防を作る!」
イブの号令に、鎧を脱いだ騎士たちが、川に入って堤防を作り出す。
「急いで! これは時間との勝負。うまくいったらルーンナイツとの合コンをセッティングしてあげるとのアベル殿からのお達し」
「うぉおおお! マジっすか!? がんばるっす!」
「新生ブラックナイツ、最高です!」
若い騎士たちが、鬼のような勢いで土嚢を川に積み上げていく。
彼らは全員、バフ・マスターでステータスを10倍に強化されていた。筋力、体力、敏捷性が4桁に達した彼らの作業効率は、人間技を超えていた。
なにより、美少女たちと合コンできるという欲望パワーが、ブラックナイツに限界以上の力を与えていた。
「……すごい。これなら間に合いそう」
イブは安堵の息を吐く。
フォルガナ軍1万5000の兵は、夕方には王国の西を流れる川に差し掛かることが予想された。
その時に、川の流れを堰き止めて貯めた水を一気に放出することで、水攻めを行う作戦だ。
もっとも、これだけでフォルガナ軍を壊滅することはできない。
敵軍が川を渡っている最中に、水流を増して敵軍を分断し、敵指揮官を討つのが狙いだ。
敵の総大将は、『鉄壁』の異名を取る猛将ゼルギウス。彼は高い防御力を活かして先陣に立って戦うタイプの将軍だ。
わずか500名の少女たちで構成されたルーンナイツの先頭に、次期国王のアベルがいたら、迷わず突撃してくると予想できた。
「敵の性格も考慮した見事な作戦」
ゼルギウスはバランほど単純ではないだろうが、それでもアベル自らが囮になるなら、間違いなく釣れるだろう。
アベルの勇敢さと、冷静な知略には頭が下がる。
ふつう大軍に二箇所から攻め込まれたりしたら、パニックになってしまうモノだ。
危機的状況においてこそ、その人間の真価は問われるのである。
バランなどは窮地に陥ったら、部下を見捨てて逃げ出そうとした。
「アベル殿のような英雄の下で働けるのは武人冥利に尽きる」
「誠でごさいますな。あのお方は、まさしくシグルド様の再来」
副団長に指名した古参の騎士が賛同した。
「この年まで生き長らえてきたかいが、ございましたわい」
「うん」
イブはシグルドがアンデッドにされて、アンジェラ王女の騎士となっている事実を聞かされていたので、複雑な気分だ。
できれば、シグルドを崇拝するこの純朴な老騎士には真実を知って欲しくないが……
そんな甘いことも言っていられないだろう。
それにイブは、かつて及ばなかったシグルドと再び剣を交えてみたいという欲求があった。
高みを目指す彼女にとって、それはあがらえない気持ちである。
「イブ団長! 堤防ができました!」
2時間もしないうちに、堤防が完成した。水がどんどん貯まり、下流の水嵩が引いていく。
「うん。みんなご苦労さま。
数名を残して、これから森まで移動。そこで、休息を取る。後は合図を待つだけ」
騎士たちは川から上がって、休む間もなく騎乗した。
ブラックナイツは、合図が来たら堤防を崩し、騎馬突撃で敵の側面を突く作戦だ。それまでは姿を隠し、力を蓄えておかねばならない。
待ち伏せのためのポイントに到着すると騎士たちは、さすがに疲れたのか、鎧を脱いで休み出した。
「合図でございますぞ!」
しばらくて狼煙が上がった。
フォルガナとの決戦が始まろうとしていた。
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