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42話。魔法王国フォルガナの襲来

「ブラックナイツを僕の指揮下に? それは願ってもないことだけど……」


「バランになら遠慮する必要はない。

 国王陛下から正式に私をブラックナイツの団長にするという辞令が来た。もしバランが釈放されても、彼は団長に復帰できない」


 剣聖の少女イブは、なにやら疲れた様子で溜め息をついた。


「ブラックナイツは想像以上に劣悪な組織だった。トップがアホだと、部下がいかに優秀でもダメだというお手本。

 私も兵法にはそれほど明るくないが、バランの無能さは目を覆いたくなるレベル……」


「お疲れ様です。短い間とはいえ、苦労されましたね。よくわかります」


 同じブラックナイツの副団長だったティファが、しみじみと告げる。


「アベル殿は、英雄シグルド殿の息子。兵法や戦術にも通じていると、ティファから聞いた。

 私は今まで一介の武芸者だった。いきなり300人の騎士団の指揮を任させれても、御せる自信がない。

 バランよりはマシだと思うが……」


 イブはいきなりのスピード出世に戸惑っている様子だった。副団長の経験をもっと積んでから、団長になるのが理想だったのだろう。


「イブなら、立派に指揮官が務まると思うけどな。僕も父上に教わったり本で学んだだけで、まだ経験不足だから。買いかぶられても困る」


「いや、2日前にフォルガナの王女が仕掛けてきた計略を防いだのは見事だった。ブラックナイツの騎士から裏切り者を出して申し訳ない……

 アベル殿は武力だけでなく、頭も切れる」


「よしてくれ。運が悪ければ、ヤラれていたのはこっちだった」

 

 あれは本当に危なかった。

 アンジェラとの対決にリディアを同行させたのも、危険な賭けだったと思う。


「そう……だが、アベル殿が私より優れているのは明白。

 私の判断ミスで大勢の部下を死なせることになったらと思うと。正直、恐ろしい。アベル殿の元でなら、安心」


 イブは小さく身震いした。

 剣士として敵の前に立つのと、指揮官として重責を負うのとでは、感じる恐怖の質がまったく異なる。


 僕も判断ミスは恐ろしい。

 父上から教育を受けていなかったら、ルーンナイツの団長など、とても務まらなかっただろう。


「バフ・マスターの加護を受ければ、ブラックナイツは再び最強騎士団に返り咲くことができます。

 ルーンナイツは未だ練度不足。前衛にも不安を抱えています。イブ殿が指揮下に入っていただけるなら、私としても大歓迎です」


 ティファが笑顔で頷く。


「ありがとう。ブラックナイツの騎士が、アベル殿とリディア王女の命を狙ったと聞いて……信用されないのでないかと思った」


 それを気にして、態度が遠慮がちだったのか。


「ブラックナイツに、他にフォルガナの調略を受けている者がいないか調べる必要があるけどね」


「話を聞いて、それはすでに行っている。

 だが、魔法的な影響を受けているかはさすがにわからない。

 アンジェラ王女だったか? 人間を高位アンデッドに転生させる呪いを使うとか。ルーンナイツにこの手のことがわかる人員がいたら、貸して欲しい」


 イブは深刻な顔をしていた。


「無自覚な裏切り者がいる危険性だな?」


「そう。それが、もっとも恐ろしい……」


 もしアンジェラに魔法をかけられた自覚が無い者がいたら、戦場で突然、リッチや吸血鬼になって襲ってくる恐れがある。


 ゼノ先輩らは、自分たちが吸血鬼になる呪いをかけられていたとは自覚していなかったフシがあった。


 同じことをアンジェラが他の者にしていない保証はない。


 裏切り者がいるかも知れないという状況は、軍の団結を阻害する。

 もし背中を狙われたらと思うと、安心して戦えない。


「対策はあるんだけど……リディアならアンジェラの魔法を解除できる」


「問題はリディア様の負担が大きすぎることですね。アンジェラ王女の魔法は特殊すぎて……他の者では見破ることも、解除することもできません」


 ルーンナイツは団員が増えて500人。ブラックナイツも含めると800人だ。


 この全員に【解呪ディスペル】の魔法をかけて回ってもらうとなると……最低でも5日はかかるだろう。


 すでに50人ほどに【解呪ディスペル】をかけてもらっているが。

 リディアには王女としての公務もあるで、全員に【解呪ディスペル】をかけるのは、時間がかかりそうだった。


 その時、伝令役の少女騎士が、慌てふためいた様子で駆け込んで来た。


「し、失礼しますぅ! 大変です! 魔法王国フォルガナの軍隊、約1万5千が国境のミスリル鉱山を占拠! そのまま侵攻してきています!

 さらに北の魔王領から、ゴブリンとオークの混声軍。こちらは約3万の大軍が押し寄せています。アベル様は、すぐに城に参上せよとの国王陛下からのご命令です!」


 僕は仰天した。


 アンジェラは、こちらの態勢が整う前に、早くも次の手を打ってきたらしい。

お読みいただきありがとうございます。

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