30話。【ティファSIDE】ティファ、愛するアベルのために最強の騎士と対決する
敵国の王女アンジェラを追って、ティファは月夜の王都を駆けていた。
すべては、この世でもっとも愛するアベルのためだ。
アンジェラは配下の者と合流するつもりかと思っていたが、意外なことに一向にその気配は無かった。
どういうことかしら?
仮にもフォルガナの王女なら、護衛の人間がいるハズだが……
やがて人気の全くない墓地に差し掛かった時、アンジェラが立ち止まった。
「こんばんわ。ティファ・フィクサリオ。私に何かご用かしら?」
アンジェラが振り向いて、気品のある笑顔を向けてくる。
ティファの尾行には、とっくに気がついていたらしい。
もっとも一対一でアンジェラと対峙できるのなら、望むところだ。
「私が用があるのは、あなたではなく。そちらの黒衣の騎士殿です」
アンジェラに隣に立つアンデッドの騎士ゼファーを、ティファは睨みつける。
ティファの最大の目的は、この黒衣の騎士の正体を見極めることだった。
そして、もし自分の直感が正しければ……アベルに気づかれる前に、何を犠牲にしてもこの騎士を倒さねばならない。
「ずいぶんと悪趣味なことをなさるのですね。フォルガナの王女は……!」
「あら。気づいてらしたのね。それで、懐かしいご主人様に会いたくて、やって来られたの?」
「いいえ。私の目的は、アベル様を苦しめる敵を排除することです。例え、この命に代えても!」
ティファは腰の剣に手をやる。かつて、自分を家族として迎えてくれた師シグルドから与えられたミスリルの剣だ。
「バフ・マスターの力を得れば、彼に勝てると思ったのかしら。なら楽しませてくださる?」
アンジェラの騎士ゼファーが前に出る。
もう一度、目にすることで確信が持てた。
隙のない足運び。その動きは手本として、ティファがずっと追いかけて来たものだ。
「シグルド様は、私が天に還してさしあげます!」
ティファは抜刀と同時に、剣に炎の魔法を付与、一気に振り抜く。
「鳳凰剣!」
剣に絡みつく炎が、翼を広げた鳳凰のような形に見える秘剣だ。
だが、ティファの斬撃は、同じ鳳凰剣に弾かれた。
「きゃうっ!?」
しかも、鳳凰の姿は相手の方が、はるかに雄大だった。
その攻防で痛感する。
「やはり……!」
鳳凰剣の使い手がいるとしたら、自分の他にひとりしかいない。
ティファの魔法剣の師匠であり、アベルの父であるシグルドだ。
アンジェラは3年前に戦死した英雄シグルドをアンデッドにして、使役していたのである。
「養父であり、師でもある方に平気で剣を向けるのね。クスッ、そうまでしてアベルを守りたいの? 彼はあなたなんか見ていない。リディア王女に夢中だというのにね」
「……な、なにを?」
胸の内を突くアンジェラの言葉に、ティファは動揺した。
「あなたたちのことは調べさせていただいたわ。将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。あなたを、まず私のお友達に加えるためにね」
「シグルド様を見せたのは……まさか、私を誘い出すためだったと?」
「ええっ。そうしたら、ひとりで私の足取りを追って来てくれるんじゃないかと思って」
アンジェラの手のひらの上で、踊らされていた?
ティファは大地が崩れ落ちていくような錯覚を感じた。
「あなたを殺してお友達にするのもステキだけど。私の秘術を受け入れ、高位アンデッドに転生する道もあるわ。
どうかしら? 吸血鬼になって、リディア王女を殺し、愛しいあの人を手に入れてみない? 脇役の人生にお別れして、永遠に幸せに生きることができるわ」
「……なっ!」
ティファは息を飲む。それは甘美な誘いだった。
アベルはティファを異性としては見てくれなかった。
結局、想いを伝えることができないまま歳月が流れ、アベルはリディア王女の婚約者となった。
ティファにできたのは、アベルたちを祝福するフリをして、彼らの結婚を2年後に遅らせたくらいだ。
「ふ、ふざけないで下さい。アベル様をお助けするのが私の幸せです!」
ティファは一瞬の迷いを断ち切り、決然と叫んだ。
8年前、エルフの村を口減らしで追放された彼女は、森で行き倒れていたところをアベルに救われた。
その後、魔法を重視していた先進的なシグルド卿のはからいでベオルブ伯爵家の養子として迎えられた。
シグルドに目をかけられ、過分な扱いを受けたことへの嫉妬もあったのだろう。
新しい生活の場でも、ハーフエルフの娘だと、周りの人間から爪弾きにされることが多かった。
そんな時、アベルが庇ってくれた。
『大丈夫だ。もしティファを泣かす奴がいたら、僕がぶっ飛ばしてやるからな!』
ティファはその一言で救われた。
最強の騎士シグルドこそ英雄だと、人々はこぞって称えた。だが、ティファにとっての英雄は8年前からただひとり、アベルだけだった。
例え外れスキルの持ち主だろうと、シグルドのように強くなかったとしても、それが何だというのだろう。
そんなモノより、もっと大切なモノを彼は持っている。
「例え伴侶として、かたわらに立つことができなくても……騎士として、あの方の剣として、かたわらに立ち続けます。
私がアベル様を裏切ることは絶対にありません!」
ティファは腰を落として剣を構えた。
かつて、一度も勝てなかった師シグルドであったが、3年間の研鑽と、何よりバフ・マスターの加護がある。
「勝負です。シグルド様っ!」
少女の覚悟の叫びが響いた。
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