29話。バフ・マスター、地上最強の剣技を自分のモノとする
リディアが僕の腕に手を当てて、解毒の魔法をかけてくれる。
「か、かなり厄介な毒みたい。完全に抜くには時間がかかりそうだわ」
彼女は泣きそうな顔になっていた。
僕は壁にもたれかかりながら、応える。
「悪い。先輩たちの様子がおかしいのに気づいていたのに……もっと警戒すべきだった」
「ううん。誉れ高きブラックナイツの騎士が敵に寝返っているなんて。予想もつかなかったもの」
「……いや、予想してしかるべきだった。バフ・マスターの弱点はこちらに敵意を持っている人間にまで、バフをかけてしまえることなんだ。フォルガナがそれに気づけば、必ず寝返り工作を仕掛けてくると、予想できたハズだったのに」
僕は歯噛みした。
「これじゃリディアを守る近衛騎士団長、失格だ」
ルーンナイツの少女たちに、近衛騎士の自覚が足らないと注意をしたが、僕自身にも油断があった。
僕はまだまだ英雄と称えられた父上には及ばないらしい。
「そんなことない! アベルがいてくれなかったら、私はとっくに死んでいたのよ。あなたは最高の騎士だわ」
リディアが、ギュッと僕の手を握って、励ましてくれた。
「そう言えば、パーティ会場でのバランの様子はおかしかったわね。あなたに忠誠を誓うのをためらう素振りを見せたりして……
アンジェラと顔を合わせないように出ていったようにも見えたわ」
「まさか、バラン団長が今回の件に絡んでいると?」
「アイツ。部下を見捨てて逃げ出そうとした処分がまだだったけど……まさか、アンジェラ王女を手引きしたとか? 明日になったら呼び出して、トコトン追求してやるわ」
リディアが怖い顔をして告げた。
ブラックナイツから裏切り者を出したのだ。例え、今回の襲撃とは無関係だったとしても、バラン団長には重い処分が下るだろう。
「ひぐぅああああっ!?」
その時、僕がタックルを食らわせて気絶させた騎士が、突然、胸を押さえて苦しみだした。
「きゃあ! なっ、なに!?」
騎士の全身からドス黒い瘴気が立ち昇っている。
「な、何か危険な呪いをかけられているみたいだぞ。リディア、【解呪】だ!」
「えっ、でもアベルの治療がまだ……」
「僕は後回しで良いから、早く!」
リディアの神聖魔法【解呪】は、暗黒魔法の効果を打ち消すことができる。
アンジェラ王女が、リディアの【聖女】を天敵と言った理由はこれだ。
神聖魔法は【聖女】にしか使えない。
「わかったわ!【解呪】!」
神聖な輝きが降り注ぐと、騎士は痙攣をとめて、ぐったりした。
その身から溢れ出ていた瘴気も消え失せる。
「な、なんだったのかしら?」
僕たちは安堵の息をつくが、もうひとりゼノがいたことに思い至った。
グォオオオオ!
およそ人間とは思えない咆哮を上げて、ゼノがぶち抜いた壁から姿を見せる。
その身体は筋肉が大きく膨れ上がり、全身から黒いオーラを撒き散らしていた。
「まっ、まさか、ここ、これって……!」
リディアが恐怖に顔を歪める。
「人間を生きたまま高位アンデッド、吸血鬼に転生させる秘術。【吸血鬼化】!?」
「人間を吸血鬼に転生って……【解呪】で元に戻せないか!?」
「無理よ! もう転生は終わってしまってるみたい」
「くそぅ!」
僕はふらつく身体に鞭を打って立ち上がる。
おそらく剣をまともに振れるのは一度だけだ。
今日の昼間に5000回近く行った素振りを思い出す。
大陸最強の騎士と謳われた父上の上段斬りだ。
神剣グラムを抜いて構える。
「おお、おんな。処女の生き血!」
ゼノが乱杭歯の生えた口を開けて、リディアに飛びかかって来た。
人の領域を超越したスピードだった。
「アベル!」
人間は極限まで追い詰められると、身体が最適な動きをするという。この時、僕の中で、歯車が噛み合ったような感覚があった。
僕の振った剣は音さえ置き去りにして、ゼノの身体を断ち切った。
「ああっ……すまねぇ」
ゼノは短い悲鳴を上げた後に、全身が砂となって崩れた。
ゼノ先輩……
感傷に浸りそうになるが、まだ終わりじゃない。
「リディア、僕の治療を頼む。アンジェラを甘く見ていた。ここまでの策を練っていたとすると……多分、ティファが危ない」
アンジェラはティファの尾行を読んで、罠を張っているハズだ。
バフ・マスターで最強レベルにまで強化されているからと、安心はできない。
「りょうかいよ! 彼女を助けに行きましょう!」
リディアが力強く頷いた。
―――――――
吸血鬼の真祖を倒しました。
経験値を獲得しました!
名 前:アベル・ベオルブ
レベル:22(UP!)
体 力: 5543 ⇒ 5896(UP!)
筋 力: 8421 ⇒ 8732(UP!)
防御力: 6647 ⇒ 6941(UP!)
魔 防: 6005 ⇒ 6225(UP!)
魔 力: 7132 ⇒ 7385(UP!)
敏 捷: 5429 ⇒ 5660(UP!)
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