27話。バフ・マスター、かつての意地悪な先輩から平伏される
「アベル様、私はアンジェラ王女を尾行したいと思います。彼女を放置すれば、何をしでかすかわかりませんし、気になることがありますので……」
ティファが僕に耳打ちしてきた。
確かにアンジェラの足取りを追い、できれば監視下に置いておきたいところではある。
これまでフォルガナの手の者がどこに潜伏しているか、尻尾すら掴めなかったが、相手からわざわざ出向いてくれたんだ。
「ひとりで大丈夫か?」
「はい。アベル様の【バフ・マスター】の加護のおかげで、私の魔力は5000を、魔法防御力は4000を突破しています。
例え、あちらにどれほどの魔法使いが控えていようとも、魔法戦闘で遅れを取ることはありません」
ティファは自信に満ちた顔であったが、不安は残る。
こちらには、アンジェラに対抗できる魔法使いはティファしかいない。
彼女ひとりに危険な大役を任せてしまうことになる。
「できれば味方を何人かつけてやりたいけど。アンジェラに殺されたら、アンデッドにされてしまうからな……」
こちらの仲間が死んだ分だけ、敵が増える。【不死者の暴走】の討伐で、体験したことだ。
【死霊使い(ネクロマンサー)】アンジェラに数で対抗するのは、危険極まりない。
「むしろ、ひとりの方が良いです。ルーンナイツのメンバーは未だ訓練不足。いかに【バフ・マスター】で強化されていようと、あの姫君の相手は荷が重すぎます」
言いながら、ティファは身にまとった赤いドレスの裾を引き裂き、動きやすい格好になった。
白い太ももがあらわになって、何となく目のやり場に困る。
「もし少しでも危険だと判断したら、尾行を中止してすぐに逃げてくれ。絶対に無理はするなよ」
「はい。では、行って参ります」
ティファは頷くと、疾風のような勢いでアンジェラを追いかけていった。
「この後、婚約指輪の交換のセレモニーがあったんだけど……そんな雰囲気じゃなくなちゃったわね」
リディアがしょんぼりと肩を落としている。
フォルガナとの対決に向けて気炎を吐く武官などもいて、会場は騒然としていた。
「そうだな。残念だけど、もうお開きにした方が良さそうだ。
ティファが追跡してくれているけど、アンジェラがまだ何か仕掛けてくるかも知れないし。今夜は僕がリディアを夜通し護衛するよ」
「それって、一緒に寝るっていうこと!?」
「寝室の前で、一晩中、見張りをするってこと」
目を輝かせてくるリディアに、僕はため息をつく。
「ええっ〜! 昔は良く一緒にお昼寝したでしょう?」
「はいはい。とにかく、寝室まで送るから」
僕は小姓を呼んで、ルーンナイツの少女騎士たち数名をリディアの寝室に呼ぶように告げた。
部屋の中は、同性の女の子たちにガードしてもらう。
「これからはもっとリディアの護衛を増員した方が良いな。ルーンナイツの人員も増やして……」
「その前に湯浴みをしたいんだけど。アベルに背中を流してもらいたいなぁ、なんてっ」
「ぶっ!? ティファとも約束したけど、結婚するまで、そういったことはするつもりはないからね」
「ぶぅ〜。婚約したんだから、それくらい良いと思うんだけど。アベルは真面目なんだから」
頬をかわいらしく膨らませて、リディアが腕を絡めてくる。
小姓には、浴場にもルーンナイツの護衛を配置するように告げた。
僕がリディアを連れて退出しようとすると、駆け寄って来る者がふたりいた。
ブラックナイツで先輩騎士だったゼノらだ。
「アベル様! バラン団長より、リディア王女殿下とアベル様の護衛を仰せつかっております! ご同行させていただきたく存じます」
ブラックナイツにいた頃は、ゼノは僕にとにかく尊大な態度を取っていたので、腰の低さに驚いてしまう。
アベル様なんて『様』付けで呼ばれるのは初めてだ。
「パン買って来い!」なんて、つまらない雑用で、さんざん顎で使われていたからな。
僕は伯爵位だったが、ブラックナイツでは剣の腕が序列の全てだった。
「バラン団長は、急用ができたとかで帰って行ったけど……」
若干、不自然な指示に思えた。
リディアの護衛はルーンナイツの仕事だ。
追加の護衛を派遣してくれたということは、バラン団長は、途中でアンジェラの襲来を知ったのだろうか。
それにしてもタイミングが早すぎる。
「わかりました、ゼノ先輩。よろしく頼みます」
とはいえゼノは剣術大会で4位の成績を取った強者だ。
リディアの安全のためには、彼らにも護衛についてもらった方が良い。
「はっ! 身命を賭して、遂行いたします」
僕が許可すると、ゼノらはその場で平伏した。
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