23話。【バランSIDE】バラン団長、バフ・マスターに忠誠を誓わせられる
「アベルに忠誠を誓えだと!?」
バランは国王の言葉に愕然とした。
「アベル・ベオルブ伯爵をワシの後継者。次期国王とする。異議がある者は、この場にて申し出でよ!」
無論、国王の決定に、異論を述べることができる者などいない。
ひざまずいて、頭を垂れるのみだ。
「我らに異議はございません! 魔法王国フォルガナの脅威が高まっている現在、最良の選択かと存じます!」
「誠に、ご英断でございます!」
宰相ら国の重鎮たちが、大声で賛意を表する。
他の貴族たちも、次々に支持を表明した。
「それではアベルよ。みなに言葉を」
「はっ!」
アベルが国王の隣に立つ。
「アベル・ベオルブ伯爵です。この度、ルーンナイツ、ブラックナイツの力を借りて、アンデッドの討伐に成功し、リディア王女殿下の婚約者となる栄誉を得ました。
僕のスキル『バフ・マスター』は、3000人の全ステータスを10倍にアップさせる力です。
この力で王女殿下と、この国を守って行く所存でありますので、どうか御指導ごべんたつのほどよろしくお願い致します」
アベルが頭を下げると、万雷の拍手が鳴り響いた。
「アーデルハイドの軍神アベル様、ばんざい!」
「我らが王太子殿下!」
会場内で拍手をしていないのは、バランくらいなものだった。
そんなバランに、周囲が不審の目を向けてくる。
「バラン殿……?」
国王の決定に賛同を示さないなど、家臣として有り得ないことだ。
仕方なく、手を叩いているフリをする。
それだけでも、身を焼くような屈辱だった。
「では、ひとりずつ前に出て、我が息子に忠誠を誓うが良い」
「はっ!」
貴族たちが先を争って、アベルの前に出て平伏する。
次期国王に、真っ先に忠誠を見せることで、覚えを良くしようという目論見だ。
「次期国王陛下に、忠誠を捧げます!」
「アベル王太子殿下! 私はあなた様の手足となって働くことを誓います!」
「うむうむ!」
国王が満足そうに頷いている。
「どうかみなさん、未熟な僕を導いてください。いえ、冗談とかではなく……」
アベルが緊張した面持ちで、貴族たちと握手を交していた。
落ちこぼれが、すっかり次期国王気取りのようだ。
「バラン? あなたもアベルに忠誠を誓いなさい」
リディア王女が一向に動こうとしないバランに声をかけてきた。
会場の注目がバランに向けられる。
「バラン・オースティン殿は、なぜ動こうとしないのだ……?」
「まさか、国王陛下に叛意がお有りなのか?」
このままでは立場が悪くなる。
刺客を放ち、どうせアベルの命は今夜限りなのだ。
バランは意を決して、アベルの前に進み出てた。
「……アベル王太子殿下に忠誠を誓います!」
ヤケクソで叫んで返事も聞かぬまま、踵を返した。
本来は王太子に対して、忠誠の証として剣を捧げねはならなかったが、頭を軽く下げるだけにした。
「あっ、バラン団長。どちらへ?」
「バラン! 我が夫に対して無礼ですよ!」
アベルが困惑し、リディア王女の叱責が飛ぶ。
「ブラックナイツの団長たるお方が、王太子殿下に剣を捧げない?」
貴族たちからも訝しむ声が上がった。
「軍務に関わる急用ができました故に、失礼いたす!」
バランは聞く耳を持たずに、その場を後にした。
これ以上、この場にいるなど我慢がならなかった。
この態度が、後日バランをさらなる窮地に追い込むことになるとは、彼はこの時、思いもしていなかった。
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