21話。【バランSIDE】バラン団長、貴族たちからの賞賛をすべてアベルに奪われる
「という訳で、我がブラックナイツが【不死者の暴走】を見事、討伐したのだ!」
宮廷で開かれた祝勝会で、バランは自分の手柄話に明け暮れていた。
「はぁ……アベル殿がアンデッドの頭であるリッチを倒し、たったおひとりで敵の半数近くを壊滅させたと聞き及びましたが?」
「ブラックナイツが突撃して、ヤツらを散々に打ち倒したところに、遅れてアベルがやって来たのだ!
リッチの討伐は……今回はアベルに花を持たせてやったにすぎぬ!」
アンデッド軍団の討伐は、アベルと彼の率いるルーンナイツの活躍のおかげだったが、バランの頭の中では、自分の手柄に変換されていた。
バランは不満だった。
いつもなら、自分の周りにはおべんちゃらを言う貴族や、華やかに着飾った淑女たちが群がってくるのだが、今日はひとりしかいない。
それ以外の者は、みんなバランの側に寄ろうともしていなかった。
「誉れ高きオースティン侯爵家も堕ちたものよな……」
「しっ! 声が高い!」
ヒソヒソと噂をし合う貴族たちは、バランを見限り、アベルにどうやって取り入ろうかという算段を巡らせているようだった。
「ブラックナイツがあの体たらくとは……今後の取り入る先は、やはり王女殿下の婚約者となられたアベル殿」
「騎士の国アーデルハイドが魔法に頼ることになるのは口惜しいですが……シグルド卿の再来とも呼ばれるお方となれば……」
「アベル殿に贈り物をしたいのですが、好みなどご存知の方はおられませんかな?」
「残念ながらアベル殿に関しては、シグルド卿のご子息ということしか、わかっておらず……」
「なんでもアベル殿は、国王陛下から領地と金貨1万を褒美として示されながらも、民のために使ってくれと固辞されたとか」
「ほう! なんとも清廉なお方ですな!? しかし、そうなると賄賂などは……」
おのれ! おのれ!
聞き耳を立てていたバランは歯ぎしりする。
バランがいかに声高に自分の手柄を叫ぼうとも、見向きもされなかった。
度重なる敗北が、彼の信用を失わせていたのである。
「ああっ!? アベル様とリディア王女殿下がお見えになりましたぞ!」
主役の登場に、その場が沸いた。
「なに!? バラン殿、失礼。お話はまた後ほど……」
バランと話していた貴族が、我先へとアベルの元に向かっていく。
バランはその場に、ぽっつんとひとりで残された。
「おお! これはアベル殿! この度の勝利、誠におめでとうございます! いやはや、軍神とは貴殿のことですな!」
「アベル殿こそ、我が国の救世主! アベル殿がおられれば、魔物も魔法王国フォルガナも恐れるに足りません!」
「獅子の子は、やはり獅子でございますね! 今夜はぜひ、お話をうかがいたく!」
貴族たちがアベルを口々に褒めそやす。
「リディア王女殿下、ご婚約おめでとうございます!」
「ええ!? もうみんな耳が早すぎるわよ!」
リディア王女の照れた声が聞こえて来た。
バランは王女の愛も、貴族たちからの賞賛も、すべてアベルに奪われた。
バランにとって、これ程の屈辱は生まれて初めてだった。
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