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19話。バラン団長、バカな悪巧みを敵国に利用されてしまう

 バラン団長の執務室を出た3人の騎士たちは、お互いに顔を見合わせた。


 ゼノは、そのうちのひとりである。


 バラン団長の腰巾着として生きてきたゼノであったが、今回の命令を実行するのは気が重かった。


 何しろ、王女殿下に剣を向けろというのだ。王家に仕える騎士として、もっとも恥ずべき裏切り行為だった。


 アベルの暗殺も気が進まない。彼には命を救われた恩がある。


 そもそもフォルガナが計略を仕掛けてきているというのに、内輪揉めなどしている場合だろうか?


「もうバラン団長について行くのも、ここらが潮時かも知れないな」


「おい、ゼノ。降りるっていうのかよ?」


「密命を放り出したりしたら、俺たちがバラン団長に消されるぞ!」


 バランは王家に連なる名門侯爵家の出身だ。

 その気になれば、法を捻じ曲げることも簡単にできる。


 密命を放棄したら、それこそ魔法王国フォルガナに寝返ったなどと、罪を着せられて処断されるに違いない。


「あんなヤツについていったのが間違いだったということか……」


 ゼノのボヤキに、他のふたりが頷きを返す。


「はぁ。シグルド様がご存命ならな」


「アベルがあんな、すげえヤツだとわかっていたらアベルについたんだが」


「……俺たち、アイツを思いっきりイジメていたからな」


 ゼノたちは、アベルを外れスキル持ちの落ちこぼれだとバカにしていた。

 今さら、アベルの陣営に加わりたくても無理な相談である。


「こんにちは。ブラックナイツの騎士様がた」


 ゼノたちに声をかけてくる者がいた。

 腰まで届く銀髪、赤い瞳。年の頃、15歳くらいの儚げな美少女だ。


「……なんだ。お嬢ちゃん?」


「私はアンジェラ。あなたたちは、魔法王国フォルガナに寝返って、リディア王女殿下を襲撃する相談をしてらしたのよね?」


 ゼノたちに衝撃が走った。

 そんな他人に聞こえるほど、大声で話していたつもりはない。そもそも、そこには触れないように細心の注意を払っていた。


「びっくりさせてしまって、ごめんなさい。あなたたちの団長のお部屋を魔法で盗聴して得た情報よ。いろいろと楽しませていただいたわ」


「お前。まさかフォルガナの間者スパイか!?」


 こんな少女が? という思いがあったがゼノたちは、腰の剣に手をやった。


「この情報をアーデルハイドの王宮に持ち込めば、あなたたちはまず打首よね? 理由はどうあれ、王女殿下に剣を向けようとしたのだもの」


「ぐっ!」


 例え少女であっても容赦はできない。すみやかにその口を封じなければ、ゼノたちは破滅だった。


 ゼノはアンジェラに向けて剣を振り下ろす。斬撃は見えない壁に阻まれて弾かれた。


「なっ!? なんだ、これ……?」


「【対物魔法障壁アンチ・マテリアルシェル】よ。残念だけど、私に剣は通用しないわ」


 少女の手から黒い雷が放たれ、仲間のひとりが黒焦げになる。彼は音を立てて地面に倒れた。


「今の魔法は……!」


 一撃で仲間を倒した攻撃力もさることながら、今の魔法はリッチが使ったモノと同じだった。


 さらに驚いたことに、完全に事切れたと思われた仲間が起き上がった。


 生きていたのではない。


 これは昨日のあの地獄の戦場で、何度も目撃した現象だった。


「ふふふっ、うれしい。これで、この人も私のお友達ね」

 

 アンデッドと化した騎士に、アンジェラはうれしそうな笑顔を向ける。

 人を殺したことにも。アンデッドにしたことにも微塵も罪悪感を覚えていないようだった。


「こ、こいつ【死霊使い(ネクロマンサー)】か!」


「はぁ!? ってことは、まさかこんなガキが、【不死者の暴走(アンデッド・スタンピード)】を引き起こした張本人かよ!」


 ゼノたちは、思わず逃げ腰になる。

 だが、逃げた瞬間、背中を撃たれて殺される確信があった。


「あなたたちも私のお友達にしてあげたいのだけど、それじゃ困るの。アンデッドは王宮には入れないしね?」


「な、何が望みだ! 要求は何だ!?」


 ゼノは生き残りたい一心で叫んだ。

 アンデッドにだけは、なりたくなかった。アンデッドになった者は、死後も永遠に続く苦痛に苛まれるという。


「話が早くて助かるわ。お願いは簡単。フォルガナの刺客としてリディア王女と、その婚約者アベルを暗殺して欲しいの。

 あなたたちのおバカな団長が用意した策では無理だけど。大丈夫。ちゃんと私がバックアップしてあげるわ」


 アンジェラの要求にゼノたちは、首を縦に振るより他なかった。

お読みいただきありがとうございます。

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