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16話。バフ・マスター、国王から王女を嫁に貰って欲しいと言われる

 僕は王城に到着する。リディアとティファらと一緒に国王陛下の待つ、謁見の間に通された。

 

「アベルよ。お主には、いくら感謝してもしきれぬ。お主の活躍がなければ、この国は滅んでいたかも知れぬ。本当にありがとう」


 王座から立ち上がった国王陛下が僕に深々と頭を下げた。

 国王陛下は、口髭を生やした恰幅の良い男性だった。


「褒美として領地を授けたいと思うが受け取ってくれるか? オースティン領を削って、そなたの領地としよう」


「ええっ!? ありがたいお言葉ですが。アンデッドの軍団に勝てたのは、リディア王女殿下やティファ、ルーンナイツのみんなのおかげです。

 ブラックナイツにも協力してもらいましたし、バラン団長のオースティン領をいただく訳には……」


 僕は慌てて辞退した。

 オースティン領は、バラン団長の父上が統治する王国でもっとも肥沃な土地だ。


「ほう、そうか。では金はどうかな? 金貨1万枚を報奨として与えよう」


「金貨1万枚ですか!?」


 僕のブラックナイツ時代の月給が金貨1枚だった。カツカツながら、なんとか生活できるお金だった。

 その1万倍となると、もはや僕には理解が追いつかない大金だ。


「申し訳ありません。ルーンナイツの団長として、すでにかなりの俸給を約束されています。そのような大金をいただいても持て余してしまいます。

 できれば、そのお金は今回のアンデッドの発生で、被害を受けた村々の復興に使っていただければと……」


「ふむ……なんとも無欲よな」


 国王陛下は感じ入ったようにうめいた。


「それでは我が娘、リディアを嫁にもらってはくれぬか?」 


「お、お父様……!」


 それまで黙っていたリディアが、びっくり仰天して叫ぶ。


 僕もあまりに意外な申し出に、頭が真っ白になってしまった。


「アベルよ。魔法王国フォルガナの連中が、ワシのひとり娘リディアを狙って来た。なぜか、わかるか?」


「それは……リディア王女殿下が暗殺されれば、泥沼の戦争が避けられないだけでなく。我が国で王位継承争いが起こるからだと思います」


 国王陛下は子宝に恵まれず、子供はリディアしかいなかった。

 アーデルハイド王国の弱点のひとつである。


「ほう。父に似て聡明であるな。その通り。王家の分家筋にあたるオースティン侯爵家などが名乗りを上げ、次期国王の座を巡って貴族同士が争い、国内の統制が取れなくなる恐れがある」


「フォルガナとの戦争中に、国内に火種を抱えては魔法技術で劣る我が国に勝ち目はないかと……」


 僕な慎重に言葉を選びながら告げた。


 歴史を紐解けば、外敵によってのみ滅ぼされた国は意外と少ない。

 内憂外患といって、国が乱れることで抵抗力を失い、敵に倒されてしまうのが国家の常だった。


 フォルガナは僕たちの国に王位継承争いを起こし、さらには魔物どもをけしかけて、十分に力を削いだ上で攻めてくる腹積もりだろう。


 僕は外れスキル【バフ・マスター】のせいでまともに戦えなくなったため、父上の勧めで、歴史書や兵法書を読み漁っていたおかげで、奴らの狙いについてピンと来た。


「その通り。では、どうすればこの問題が解決できると思うかな?」


「それは……リディア王女殿下が婚姻され、そのお相手を王太子とすることかと思います」


 そうすれば、例えリディアが暗殺されても、王位継承争いが勃発することが防げる。


「そうだ。そして、それは若き英雄であるお主こそ相応しい。お主ほどの強者なら、むざむざ刺客に殺されることなど有り得ぬしな。我らの希望の象徴となってくれるだろう」


「やったぁ! うれしいっ! 私はアベルと結婚できるのね! お父様大好きよ! ありがとう!」


 リディアが僕に抱きついてくる。


「ふふふっ。お主たちは将来を誓い合った仲と聞いておったのでな。何も問題あるまい?」


「はい!」


 リディアが元気良く返事した。

 僕は急展開に、完全に置いてけぼりだった。


 将来を誓い合ったのは、まだ6歳かそこらの話だったのだが? 何か変なふうに国王陛下に話が伝わっているようだった。


 もちろんリディアと結婚できるのは、うれしい。


 思えば、僕がバフ・マスターのスキルを鍛えようと思ったのは、子供心にリディアを守れる立派な騎士になりたかったからだ。


 何度も挫折しかけたけど、父上やティファに励まされて、ここまでスキルを成長させることができた。


 でも、それって僕が次期、国王ということだよね?


 ま、まるで実感がわかない。


「ふつつかな嫁ですが、どうか末永くよろしくお願いします。旦那様」


 リディアが僕の手を握って、頭を下げる。

 国王陛下も満足そうな顔をしていた。


「し、しかし国王陛下。王女殿下もアベル様も16歳。我が国で、結婚ができる成人年齢である18歳に達しておりませんが」


 ティファが何やら慌てた様子で口を挟んで来た。


「ふむ、そうよな……」


 国王陛下が思案顔になる。


「出過ぎた進言をお許しください。王家が法をないがしろにしたと受け取られるのは、さけるべきかと愚考いたします」


 ティファはかなり踏み込んだ発言をした。

 いつもの彼女なら、こんな陛下への批判と思われかねない危険な発言はしないと思うが……?


「おい、ティファ……!」


 ティファの袖を引っ張るが、発言を撤回しようとはしなかった。


「ではアベルはリディアの婚約者としよう。正式な結婚は2年後だが、王太子として現時点から第一王位継承権があるものとする。

 どうかなアベルよ。この国を守るために、どうか我が願いを聞き届けてはくれぬか?

 こればかりは、辞退されるとワシもリディアも困ってしまうぞ」


 そう言って国王陛下は豪快に笑った。

 国王陛下にここまで言われては、ノーとは言えない。


「わかりました。このお話、ありがたくお受けいたします」


「ありがたい。お主のような英雄を王家に迎えられて我が国は安泰だ。ワシも枕を高くして眠れるわい。

 リディアをよろしく頼むぞ、我が息子よ」


 国王陛下は、肩の荷が降りたような安心した顔つきになった。

お読みいただきありがとうございます。

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[気になる点]  この作品に限らず、王女の婿が王太子になる展開が時折 見られますが、本来は王家直系の男児でないと王太子には なれない気がします。  実際の所どうなんでしょう?  歴史的に見て、王女の…
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