14話。バラン団長、王女より失態を怒られる
「バラン!【不死者の暴走】に無策に突撃し、ブラックナイツを全滅寸前まで追い込み。
あまつさえ、部下を見捨てて逃げ出そうとは恥を知りなさい!」
「なんとっ。王女殿下……!」
バラン団長がリディアに反論しようとすると、ティファから叱責が飛んだ。
「バラン団長! 王女殿下の御前ですよ。控えてください」
「……ははっ!」
バラン団長は不服そうであったが、片膝をついて臣下の礼を取った。
「リディア王女殿下。こたびの先行は、王国を守らんとする我が忠誠心からの行動でございます。
それに部下を見捨てたのではありませぬ。最強の騎士である私が生還することこそ、王国の利益となると、当然の結論に達したまで」
堂々と自分の正当性を主張するバラン団長に、リディアは呆気に取られていた。
バラン団長は自分に非があるとは、まったく思っていないようだ。
ブラックナイツ、ルーンナイツの騎士たちもバラン団長の態度に、冷ややかな目を向けている。
「そもそも、剣術大会優勝者であるこの私に神剣グラムを下賜していただければ。アンデッドの軍団など簡単に蹴散らしてご覧に入れました」
「あなたは、まさか……私が神剣グラムをアベルに渡したから、ブラックナイツが敗北したなどというのですか?」
「しかり。今からでも遅くは、ありませぬ。神剣グラムを正統なる持ち主である私にお与えいただきますよう!」
敗北をリディアに責任転嫁するような発言だった。
これは、さすがにマズいのでは……?
「神剣グラムの正統なる持ち主は、アベル・ベオルブです! 彼はこそ我が国に必要な英雄です」
リディアが一喝した。
「例え、あなたが神剣グラムを携えていようと、リッチには勝てなかったでしょう。頭を冷やして反省しなさい!
あなたの処罰は追って伝えます!」
「……はっ」
バラン団長は頭を下げたが、納得していない気持ちがありありだった。
「バラン団長。どんな武将も運悪く戦いに敗れることがあります。これからは、共に王国を守っていきましょう」
「なんだと!? 小童が!」
僕がバラン団長を励ますと、なぜかキツく睨まれた。
な、何か気に障るようなことを言ってしまっただろうか?
「さすがアベル殿。器が大きい」
「誠に将にふさわしきお方です」
剣聖イブが感服したように告げる。大勢の騎士たちが頷いた。
「バラン団長。あなたの先程からの態度は、リディア王女殿下に対して不敬ですよ」
「ふん。王女殿下の近衛となって、随分と偉くなったようだなハーフエルフ?」
たしなめるティファに対して、バラン団長は敵意のこもった目を向ける。
「今回の敗北は、我が配下の者どもが、たるんでいたのが原因だ。より厳しい訓練を課して、鍛え直してやる! 気合いと根性が足りんのだ!」
「……はぁ。そんな訓練に意味はないと申し上げたハズですが……滝から突き落としたりして。あなたの自己満足に付き合わさせる身にもなってください。
今まで死人が出なかったのはアベル様の【バフ・マスター】のおかげであったのが、わかりませんか?」
ティファの忠告を聞いたブラックナイツの面々が色めき立った。
それはつまり、今後のバラン団長の訓練では、死人が出るかも知れないということだ。
僕自身も、ブラックナイツの非常識極まりない訓練を思い出して、ゾッとする。
気合いと根性を身に付けるために、何の意味があるのか、重武装で階段をうさぎ跳びさせられたりした。
あれは地獄だったな……
「王女殿下! 後生でございます! ブラックナイツを辞めさせてください!」
「俺も! 俺も! 他の騎士団への編入をお願いします!」
「死にたくないんです!」
「こんなブラック騎士団は嫌だぁ!」
リディアに対して、ブラックナイツの騎士たちが次々に、辞職を申し出た。
中には泣きながら、土下座している者もいる。
「ええっ!? ちょっとみんな……」
リディアが困惑している。
彼女は軍の統括者ではないからな。
「貴様ら、何を言っているか!?」
「ふう……この騎士団を立て直すのは困難。王女殿下、とりあえずバランを謹慎処分にしてもらえると助かる。できれば早めに解任を」
剣聖イブが、ため息をついた。
◇
大量の戦死者に加えて辞職する者が相次いで、この日でブラックナイツは、300名近くまでに減ってしまった。
バランには、後日、厳しい処分が下ることが決まった。
しかし、バランは今回のことを反省するどころか逆恨みし、トンデモナイ行動に出るのである。
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