13話。バフ・マスター、剣聖に肩を並べて戦いたいといわれる
「あなた達、残念だけど……
ルーンナイツに入るためには、2つ条件があります。ひとつは、魔力のステータスが200以上であること。もうひとつは女性であることよ。
あなた達の中で、これを満たす者はいないでしょ?」
ティファの呼びかけに、ブラックナイツの騎士たちが青ざめた。
ブラックナイツは、筋骨たくましい男所帯だ。
「ティファ副団長。それじゃ、俺たちはルーンナイツには入れないと?」
「そうよ」
にべもない言葉に、彼らはがっくりと肩を落とす。
「私にはルーンナイツに入る資格がある?」
黒髪の美少女が、僕の前に出てきて尋ねた。
「キミは剣聖として名高いイブ殿だよね?」
「そうだけど。未だ修行中の身で、あなたほどの剣士から剣聖と呼ばれるのは、きまりが悪い。敬称も必要ない。ただのイブで結構」
見れはイブは、刀身が反った東方の剣を腰に下げていた。彼女は東方の国の出身らしい。
「ルーンナイツは、前衛が弱い。もちろん、イブが来てくれるなら大歓迎だ。ティファも良いだろ?」
「はい! もちろんです。イブ殿、なにとぞ、よろしくお願いします」
ティファが頭を下げる。
「ならん! 貴様は我がブラックナイツの副団長となったのだぞ! この俺の許しもなく、そんな勝手が許されるか!?」
バラン団長が、激高してイブに掴みかかった。
イブはそれをひょいとかわして、バラン団長に足払いをかける。団長はその場に、無様に転がった。
「バランは私に、アベル殿はルーンナイツに出向しているだけ。所属は、未だにブラックナイツのままだと聞いたけど、本当?」
「どこから、そんな話が……? 僕は団長からクビにされたのだけど?」
「やっぱり。嘘をついて、私を引き留めた」
イブは心底蔑んだ目で、バラン団長を見下ろす。
「ぐぅっ!」
「でも安心して欲しい。私はルーンナイツには入らない」
意外なイブの言葉に、バラン団長は立ち上がって勝ち誇ったような顔になった。
「ハッハッハ! 当然だ! こんな落ちこぼれが率いる軟弱な騎士団より、我が栄光のブラックナイツの方が、剣聖殿にはふさわしかろう!」
「私は直属の部下を率いて、ルーンナイツの盾となる前衛役を担いたいと思う。
ルーンナイツが出撃する際は、声をかけて欲しい。アベル殿の戦いを近くでもっと拝見したい。それに、この者たちも無能に直接指揮されたら、かわいそうだから」
「……それって、どういう?」
僕が聞き返すと、イブは意味有りげに微笑んだ。
バラン団長な呆気に取られている。
「私はブラックナイツの団長を目指す。そして、アベル殿と肩を並べて戦場に立つつもり。何より、バカ上官の下にいれば、想像を絶する窮地に追い込まれる。私の剣を磨くには最高の環境」
「ハッハッハ! 確かに、イブ様がいてくだされば、バラン団長の元でも、なんとか生き残れる希望が持てますな!」
「剣聖様が、俺たちの団長に! もしそうなってくれたら、ブラックナイツはもう一度、栄光を取り戻せるんじゃないか!?」
「若き英雄アベル殿の前衛役として、戦う。フフフッ、これは年甲斐もなく滾ってきましたわい」
イブの方針に、ブラックナイツの面々は喝采を上げた。
「なにを……なにをたわけたことを!? 剣聖とはいえ、その女は異国人! 名門であるオースティン侯爵家の俺以外にブラックナイツの団長にふさわしい者など、おらぬわ!」
「それは違うのじゃなくて? バラン・オースティン。あなたはこともあろうに、部下を見捨てて逃げようとしていましたよね?」
それまで黙ってやり取りを見ていたリディアが、威厳のある声で告げた。
「指揮官としても、騎士としても、あるまじき行為。第一王女リディア・リィ・アーデルハイドが、その所業をしかと見届けましたよ!」
バラン団長の顔が真っ青に染まった。
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