12話。バフ・マスター、ブラックナイツの騎士たちから配下にして欲しいと懇願される
「うぉおおおお! 勝った! 生き残ったぞ!」
勝ちどきが上がる。
統率者を失ったアンデッド軍団を、その後、一体残らず滅ぼすことができた。
これで村々や王都が襲われる心配も無くなった。
「ああっ! 危なかった。もしブラックナイツが全滅してアンデッド化していたら、この国は終わっていたわ。
これも全部、アベルのおかげね!」
リディアが人目もはばからずに抱きついてくる。
思わずドギマギてしまう。
「い、いや、勝てたのは、みんなのおかげだよ。特にリディアの活躍はすごかった。さすがは聖女だな」
リッチにかけらた毒も、リディアの魔法で治療してもらった。
「えっへん! 私も参戦して正解だったでしょ!」
リディアは輝くような笑顔を見せた。
「王女殿下。家臣たちの前ですので、す、少しはご自重を」
ティファが、リディアを僕から引き剥がす。
「ええっ! なんでよ?」
「なんでも何も。はしたないですよ!」
正論にリディアは唇を尖らせる。
勝利の余韻に浸っていたいが、僕には、まだやることがあった。ブラックナイツに対して告げる。
「ルーンナイツには、回復魔法の使い手もいる。負傷者は治療を受けて欲しい!」
「はい! 負傷者のみなさんはこちらへ」
回復魔法小隊の小隊長が、ブラックナイツを手招きした。
「おおっ。ありがたい! まさに戦場の天使だな」
「えっ!? こんなかわいい娘たちに、治療してもらえるんですか!」
同時に、僕はブラックナイツにかけたバフを解除する。
「ち、力がっ……俺たちのステータスがまた10分の1に!?」
「これはっ……アベル殿! 我らのバフを解除したのは。その、やはり、もはや仲間ではないという……」
父上の代からの古参の騎士が、言いにくそうに声をかけてくる。
「そういう訳じゃなくて。僕のこの力は効果人数が最大3000人と決まっている。僕は救援に訪れた先で、苦戦している味方や、魔物に襲われている人がいたら、バフをかけて助けてやりたいと思うんだ。
だから、悪いけど、普段からバフをかけるのは、ルーンナイツだけにしたいと思う」
「さすが、ご立派です。弱きを助けるために力を使う。まさしくアベル様こそ、騎士の鑑!」
ティファが感動した面持ちで告げた。
「そ、それではアベル殿! 拙者を貴殿のルーンナイツに編入させてはいただけぬか!? 見たところ、女子ばかりで前衛に不安がござろう」
「それでしたら、ぜひ私も! ルーンナイツへの参加を希望いたします!」
「アベル! 同期のよしみで、俺をそっちに加えてくれよ! なっ!?」
ブラックナイツの騎士たちが、僕の前に殺到し、口々に僕の配下にして欲しいと頼みこんで来た。
中には、大して親しくもないのに『俺はアベルのマブダチだぞ!』などと叫んでいる調子の奴もいる。
「貴様ら何を言っているか!? 我が栄光のブラックナイツを辞して、アベルの元に行くだと!?」
バラン団長が、信じられないといった顔で怒鳴った。
「『馬鹿な指揮官、敵より怖い』。という格言がございましてな団長。
かれこれ、これで5連敗。しかも今回の敗北は、あわや我が国の崩壊に繋がる失態でしたぞ!
さすがに愛想がつきましたわい。無駄死はごめんこうむります」
古参の騎士が、呆れ果てたように告げる。彼にブラックナイツの騎士たちが、次々に賛同した。
「自分だけ助かろうとする指揮官について行きたいヤツなんぞ、いるわけねぇだろ!」
「俺たちは捨て駒じゃない! こんなブラック職場なんて、こっちから願い下げだ!」
「そうだ、そうだ! こんな無能な団長の下で、無駄死になんて絶対にゴメンだ!」
若い騎士たちからも賛同の声があがった。
「ブラックナイツなんて、辞めてやる!」
彼らの中には、栄光のブラックナイツの象徴である黒い鎧を脱ぎ捨て、その場に叩きつける者もいた。
「き、貴様らっ!」
バラン団長の顔が怒りに真っ赤になった。
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