えぴそうど、その8〜女勇者は暴れん坊
「あら、ここは異世界なの?」
女性は辺りを興味深げに見回す。
「ようこそ勇者様。わたしは従者のタマちゃんです。」
「はじめまして、タマちゃん。私はカーリーよ。」
タマちゃんはホッとしていた。こんどこそまともそうだ。
引き締まった体、前世はアスリートだったのかな。おまけに美人だ。
神様、グッジョブ!
「勇者カーリー様、この世界の住人は魔王シヴァによって苦しめられています。私と一緒に魔王を倒すたびに出ましょう。」
「ふーん、わかったわ。ようはそのシヴァってのを殺ればいいのね。」
カーリーの眼がキラリと光った・・・ように見えた。
気のせいだろう・・。
「ところで、勇者カーリー様、いい身体してますねえ。」
タマちゃん、その発言はセクハラだ。
「前世ではどんなお仕事をされてたのですか?」
カーリーはいたずらっぽく笑った。
「なんだと思う?あててごらんなさい。」
「スポーツ選手ですよね。テニスか何かですか?」
「体を動かす仕事だけど違うわよ。フランスの外人部隊に10年ほどいたの。」
「へえ、エトランゼですか。」
タマちゃんは菓子職人と勘違いした。
「職人も体力勝負なんですねえ。得意なものはなんでしたか?」
「そうねえ、手榴弾の扱いは上手だったわよ。」
「そうなんですねえ。パイナップルパイとか美味しそうですね。」
「原子爆弾も扱ったわよ。」
タマちゃんは(よく理解せず)喜んだ。
「それ、こんど作ってくださいよ。味わってみたい。」
カーリーは眉間にシワをよせた。
「本当にそんなもの味わってみたいの。あなた変わってるわねえ。」
そのとき、部屋にハエが飛び込んできた。
ブーン、ブーンと不快な羽音が室内に響いた。
カーリーの表情が鬼のように変わり、ベッドの下からサブマシンガンを取り出しぶっ放す。
って、それどうやって持ってきたんだ?
「このクソバエやろ〜〜〜〜、ぶっ殺す!」
ダダダダッと乾いた音が辺りに響き、四方八方は穴だらけになった。
もちろん、お約束通りタマちゃんも穴だらけである。
「あああああ・・・・勇者さまああ。」
ブーン、ブーン・・・・・
「おどりゃ、まだ生きてたか。」
カーリーはベルトにぶら下げた手榴弾の信管を引き抜き窓から飛び出た。
ちゅどどどど〜〜〜ん
凄まじい爆音とともに家はこっぱみじんに吹き飛ぶ。
「ふう、ようやくハエのやろう、死にやがったか。」
瓦礫の中からタマちゃんが現れた。
「何するんですかああ。死ぬかと思いましたよ。」
いや、普通死んでるけど・・・。
「すまんすまん、まあ、気にするな。私も気にしないし。」
タマちゃんはがくっと肩を落とした。
今回もまた、前途多難か・・・・・。
そんなタマちゃんの予想を裏切り、勇者カーリーは着々とレベル上げに成功する。
あっという間に最強レベルに到達した。
でも、相変わらず二人だけ・・・・。
僧侶が現れた。
カーリーは剣で突き刺す、僧侶は死んでしまった。
タマちゃんは叫ぶ
「勇者さま〜、何するんですかあ。」
カーリーは照れ笑いをしながら頭をぽりぽりとかく。
「いやあ、ついうっかり。」
戦士が現れた。
カーリーは素手で殴った。戦士は死んでしまった。
「勇者さま〜。」
「いや、ついうっかり。」
不死者が現れた。
カーリーは手榴弾を口にほうりこんだ。不死者はバラバラになった。
「いや、ついうっかり。」
「それはいいんですけど・・・。」
こんな調子で仲間ができないまま、魔王城にやってきた。
満身創痍のタマちゃんが言った。
「勇者様、頼みますから私ごと吹っ飛ばすのはやめてくださいね。今回は爆弾禁止です。」
カーリは、胸を張った。
「私がそんなヘマをするわけなかろう。」
タマちゃんは両腕をぐるぐる振り回しながら怒った。
「何回、私が吹き飛ばされたと思ってるんですか。命がいくらあっても足りませんよ。」
「ちぇ、つまんないの」
勇者の鎧の下にキラリと光るものがあるのをタマちゃんは見逃さなかった。
「ちょ、ちょっと待ったあ。その鎧脱いでください。」
「いやん、タマちゃんったらエッチねえ。」
「見えてるんですよ。また手榴弾持ってるでしょ。」
「テヘッ!」
カーリーはぺろりと舌を出した。
「そんなことしても誤魔化されませんって。」
そんなこんなでやっとのことで魔王シヴァの元にたどり着いた。
魔王シヴァはクールに微笑む。
「うつくしい勇者よ、ようこそこの魔王城へ。」
「あら、いい男。あなた、私と付き合わない?」
「え?」
「ええ〜〜〜??」
魔王とタマちゃんは同時に声をあげた。
勇者は手を合わせてタマちゃんを拝む。
「ごめんねえ、タマちゃん。私この人気に入っちゃった。この悪魔的な雰囲気、タイプなの。」
いや、そりゃ魔王ですから。
タマちゃんの叫びが魔王城にこだました。
「勇者さまあ。」
それから魔王と勇者は末長く幸せにくらしましたとさ。
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
って、そんなわけあるかあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
それから数年後、町外れにある小さな小屋に魔王がやってきた。
「タマちゃ〜ん、助けてよおお。またうちのやつがさあ。」
魔王の頰は腫れ上がっていた。
「魔王さん、またですか。もうこれで666回目ですよ。」
タマちゃんは渋茶を魔王に出した。魔王は涙を流しながら渋茶をすする。
「ちょっとしたことでマシンガンをぶっ放すんで、すっかり部下の魔物たちも怯えちゃってねえ。」
「しっかりしなさい、それでも魔王ですか。」
魔王は泣き崩れた。
タマちゃんは思った。
魔王はたしかに気の毒だが、そのおかげで世界は平和になっている。
逃げた魔物たちも勇者を反面教師にして、人間と仲良くやっている。
これはこれで、良かったのかもしれないな。