えぴそうど、その7〜ゆうちゃちゃまとタマちゃん
昼下がりの公園で子供達が遊んでいる。
ママたちは近所の噂話で忙しく子供達のほうを見ていない。
怪しげな男が子供達を見ていた。
「まあ、あれでええか。」
男は子供に近づき声をかけた。
「ぼく、おいしいお菓子あげるからおっちゃんと一緒にええとこ行かへんか。」
「ユウサマサオ 3さいです。」
従者のタマちゃんは頭を抱え込む。
「またかあああ。」
最初はヒキコモリ、次はオタク、今度はとうとう・・・。
タマちゃんは思った。これは神様の嫌がらせだ。そうだ、そうしか考えられない。
「ちょっと、タマちゃん人聞きの悪いこと考えんといて。」
空の上から声が響く。神様だ。
タマちゃんは涙目で神様に訴える。
「神様、あんまりですう。なんで毎回毎回こんな勇者ばっかり採用するんですかあ。」
神様は視線をそらしたが、空の上なのでタマちゃんには見えない。
「だってさあ、アメリカの神様のところの勇者なんかハンマー持って戦ってるしさあ。」
「あれは北欧神話のパクリですって。」
「隣国の神様のところの勇者なんかロボットにのって戦っているし」
「あれも、悪質なパクリですよ。」
「うちもなんか変わったことしたくってさあ。」
「せめて不死身で強い勇者にしてくださいよ。」
神様の声が少しウキウキした。
「あ、じゃあ、こうしようか。次の勇者は不死身のゾンビに。」
「それはサガでやってください。」
「じゃあ、自衛隊を勇者に。」
「それも別のところでやってます。ていうか、あれ、あなたじゃなかったんですね。」
「あれはアキバの神様や。わしは知らん。」
「そもそも神様って何人いるんですか。」
「ヤオヨロズっていうから800万人くらいかなあ。辺境担当やからよくわからんけど。」
「もうちょっとましな神様にチェンジしてくれません。あと、給料ももうすこし・・・・。」
「あ、ごめん。ちょっと今からデートなんよ。あとはよろしく。」
神様の声は聞こえなくなった。
タマちゃんは腕組みをしながら深いため息をつく。
そんなタマちゃんの気持ちも知らずに勇者ちゃまはニコニコ笑っている。
「勇者様、あなたは魔王を倒しに行かないといけません。わかりますか?」
マサオは無邪気な表情で首をかしげる。
「あのお、まおうってなんですかあ。」
タマちゃんは頭を抱え込む。困った、そこからかあ。
「あのね、魔王って・・・・、みんなを困らす悪い鬼ですよ。」
マサオはしばらく考えて、やっと理解した。
「じゃあ、おばあちゃんを倒しにいくんだ。」
「なんでおばあちゃんなんですか。」
「だって、ママがいつもオニババアだっていっているよ。」
「それは嫁姑のもめごと・・・・、そもそもおばあちゃんは異世界にはいないですよ。」
マサオは悲しそうな表情で指をくわえる。
「じゃあ、まおうってなに?」
「ん〜とですね。すっごくおおきくて、すっごく強くて、すごく怖い人。」
「それって保育園の先生よりこわい?」
「はい。ずっとこわいです。」
マサオは涙目になった。
「いやだあ、こわいのいやだあ、おうち帰る〜。」
タマちゃんはあわてふたいめいてマサオの頭を撫でながらなだめた。
「だいじょうぶでちゅよ〜、わるい魔王はこのタマちゃんが懲らしめてあげますからああ。」
泣き疲れてマサオは寝てしまった。
タマちゃんは肩を落とす。
次の日、タマちゃんは勇者マサオとともに魔物退治にでかけた。
天気は快晴、家には旗がひるがえっている。
よく見るとおねしょをした布団を干しているだけだった。
狼男と出会った。
まだ、マサオを戦わせるわけにもいかない。
まずはレベルをあげないと。
タマちゃんはそこらじゅうを咬まれてボロボロになりながらもなんとか狼男を倒した。
「ゆ、勇者様。最後のとどめをさしてください。」
「とどめってなあに?」
「こいつにその剣をぐさっと突き刺すんですよ。」
マサオは泣き出した。
「いやだ〜、血が出るのこわい〜。」
「何言ってるんですか、はやく。あ〜、逃げちゃった。」
タマちゃんは地面に顔から倒れ伏した。
このままでは魔王を倒す前に自分が倒されてしまう。なんとかしなきゃ。
そうして1年が過ぎた。
マサオは勇者として大きく成長・・・・するといってもまだ4歳児だ。
ウイザードや武闘家といった仲間もできた。といっても勇者の年齢に合わせて皆子供だが。
ゴブリンの集団が現れた。
タマちゃんは地面にお絵かきをしている勇者マサオに代わって号令をかける。
「みんな、あいつらを倒したらチョコレート買ってあげるぞ〜。」
「お〜」
「・・・・・」
ウイザードは水の魔法を使った。
「え〜ん、え〜ん。」
大粒の涙があふれた、ってそれって泣いているだけじゃない?
武闘家は足を高くあげて・・・・・・”白鳥の湖”。を踊った。
それって舞踏じゃない?
タマちゃんはやけくそになって一人でゴブリンの群れに突っ込む。
がんばれ、タマちゃん。HPが残り少ないぞ。
さらに1年が経ち、勇者マサオは5歳になった。
そろそろ魔王を倒さないと義務教育がはじまってしまう。
タマちゃんの活躍もあり、なぜか魔王城にたどりつくことができた。
勇者マサオとその一行は、わくわくしながら魔王の前にたつ。
魔王たちはチバの某レジャー施設のキャラクターに化けていた。
魔王城もシ○デ○○城そっくりな美しいお城である。
勇者マサオは剣を抜き、魔王に斬りつける。
「まおう、え〜い。」
相変わらず語彙は少ない勇者マサオだった。タマちゃん、ちゃんと言葉をおしえてやれよ。
「うわぁ、やられたあ。」
魔王は大げさなジェスチャーで倒れこみ、ボンッという音とともに消滅した。
「わ〜い、やっつけたあ・・・・・。」
タマちゃんはホッとした。
「魔王が子供好きで助かった・・・・・。」
これで勇者マサオの冒険はおしまい。あとはギルドに行って申請書を書いて神様に持っていくだけ。
そうすればマサオは地上に戻れるし、タマちゃんも次の勇者がやってくるまで休暇を取れる。
タマちゃんは独りつぶやく。
「魔王の方に転職しようかなあ・・・・・・。」
そっちもブラック職場だと思いますが。