えぴそうど、その6〜魔王の憂鬱
え〜、このたびの不祥事を受け、組織改革を行うことにしました。つきましては魔王城という名称を改めましてマジックキングキャッスルといたします。
「バカにしおって・・・・・。」
魔王は怒って殺人光線を目から撒き散らす。
配下の魔物たちは柱の陰に隠れておそるおそる尋ねた。
「魔王様、何をそんなにお怒りなんですか。」
「わしに対するネットへの中傷の書き込みだ。」
部下たちは意外な言葉に困った。
「はっ?」
「魔王様、ネットなんか見てたんだ。」
「そういえば、萌えゲーがどうとか・・。」
魔王はジロリとあたりを見回す。
「この中に・・・・裏切り者がいる。」
「お恐れながら魔王様、我ら魔物たちは、魔王様を裏切るようなものはおりません。」
「いや、これは間違いなくお前たちの誰かの書き込みじゃ。みてみろ。」
魔王は書き込みを魔物たちに見せる。
名無しの魔物:魔王様の居城は地獄のような環境だ。
「いや、天国だとおかしいでしょ?」
名無しの魔物:魔王様はモンスター上司だ
「それ、ほめ言葉では?」
名無しの魔物:魔王様は口が臭い
「あ、それは俺も思った。」
ついに魔王はかんしゃくを起こした。
「今日から我が魔王城はブラック職場の汚名を返上し、ホワイト職場にするぞ。」
部下たちは右往左往した。
「おいおい、魔王様、また思いつきで変なこと言い始めたぞ。」
そんな部下たちの心配を裏切ることなく。魔王は声高らかに宣言する。
「これから、魔王城はうきうきハッピー夢の国になるのだ。」
外部からコンサルタントを招き、ホワイト魔王城計画は実行された。
そして、3年後。
勇者マサオと従者のタマちゃんは魔王城にやってきた。
「勇者様、なんかお城が白いんですけど。花もいっぱい咲いているし。」
「騙されるなタマちゃん。これはきっと何か罠が仕掛けられているに違いない。」
勇者マサオは門の前に立った。
ギギギギギ・・・・、ではなく。某コンビニと同じ音楽が流れ、門が自動的に開いた。
中には魔物たちが・・・・満面の笑みを浮かべて立っていた。
「いらっしゃいませ。魔王城へようこそ。」
「え??はい??」
ひるむ勇者をタマちゃんがはげます。
「勇者様〜がんばれ〜。」
「ありがとう、タマちゃん。私は勇者マサオ、人々を苦しめる魔王を倒しにきた。いざ勝負だ。」
「はい、魔王征伐ですね。お持ち帰りですか。こちらで征伐ですか?」
「はっ?ここで征伐するに決まってるだろうが。」
「一緒に、ドラゴンはいかがですか。」
「あ、いやちょっとそれはきついので魔王だけで。」
「オーダー入ります。魔王征伐単品です。」
奥から強そうな魔物が出てくる。
勇者マサオは一歩もひかず、立ち向かう。
「お前が魔王か?」
その魔物は答える。
「本日はご来城ありがとうございます。私、本日勇者様の担当をいたします、小魔王のポポと申します。」
勇者マサオは剣を抜いた。
「なるほど、この門を通りたいなら俺を倒していけということだな。」
魔物はにこやかに微笑みながら言った。
「いえいえ、違います。あいにく魔王様は休暇中でして。」
勇者マサオは困惑した。
「魔王倒さないと終わらないので、そこをなんとか。」
小魔王ポポはにこやかに応じる。
「勇者様、その点はご心配なく。私は魔王のそっくりさんですので。どのような征伐でもご依頼ください。証拠写真の方も撮影いたしますので。」
勇者マサオは嘆く。
「それでは詐欺じゃないか。」
突然、大きな鐘の音が鳴り響いた。
すると魔物たちが一斉に勇者マサオの方に突進してくる。
「タマちゃん、やつら総攻撃を仕掛けてくきたぞ。」
「勇者様、頑張って戦いましょう。私も頑張ります。」
「ってなんで逃げるんだ〜〜。」
魔物たちは門に向かって殺到し・・・・通り過ぎていった。
小魔王ポポは申し訳なさそうに説明する。
「本日は13日のスーパープレミアムフライデーでして、皆帰りました。」
勇者マサオはポポに質問する。
「あのお、魔王って人々を苦しめるのが仕事ですよね。その辺のお仕事は今も?」
「さようでございましたねえ・・・・。」
ポポはなにか懐かしむように答えた。
「今は魔王様の方針で、村のゴミ拾いにお年寄りの介護に不良冒険者の取り締まりなど、住民に好かれる魔王城をめざしております。」
「魔物たちから不満がでませんか。」
「人間社会でもそうでしょう?偉い人の言葉にはおかしいなと思っていても従いますよね。」
「ううむ。」
「私たちは魔王様の社畜ですから・・・・・。魔王が白といったらカラスも白いです。」
「すいません。勇者ですが実際はフリーターなのでそのあたりのことはわかりません。」
「おまけに魔王様が金銀財宝を全部仮想通貨に変えたら大暴落しまして・・・・。」
「それは大損でしたねえ。」
「もう3ヶ月も給料が出てません。部下からの不満は全部私に・・・・・・。」
ポポは泣き出した。
「魔物さんも大変ですねえ。」
「勇者様お願いです。魔王を倒してください。」
「いや、なんか私が悪者になりそうなのでやめときます。」
帰り道、勇者マサオはタマちゃんに言った。
「ポポって小魔王、なんだかかわいそうだったね。」
タマちゃんは沈む夕日を見ながら返事をする。
「彼らは彼らで魔王に全部責任を押し付けているだけですよ。言われた通りにするのが楽ですから。」
「まあ、結局どっちもどっちなんだろうねえ。」
「で、勇者様、これからどうします。」
「どうしようか、魔王を倒すことしか考えてなかったしなあ。」
「まあ私は勇者様についていくだけですから。」
結局自分たちも魔王とかわらないなとマサオは思った。