えぴそうど、その4〜時代遅れ
気がつくと、俺たちの居場所は無くなっていた。
昔はよかった。子供たちは親に俺たちの冒険を聞かせてもらい、勧善懲悪と言う考えを学んだ。
でも、今、俺たちのこと顧みるものはいない。
昔々、遥か昔。まだ人が神話と一緒に生きていた時代。
神々の支配する森のはずれに
オキナとオーナというエルフの夫婦が住んでいたそうだ。
ふたりとも1000歳になるがまだまだ元気で若々しく
オキナは弓で獣を狩り。オーナは川辺で魔法の訓練をしていたそうな。
ある日のこと、オーナが川辺でいつも通り炎系の魔法を試していたところ
川の上流から大きな禁断の果実が流れてきた。
妻が魔法で果実を吹き飛ばしたところ、中から黒焦げの赤ん坊が出てきた。
赤ん坊はそれでもピンピンしており、エルフは仕方なく育てることにした。
ピーチボーイと名付けられたその子はあっという間に大きくなった。
ある日のこと、ピーチボーイはオキナとオーナに言った。
「僕は勇者です。悪い魔王を倒してきます。」
そしてピーチボーイは旅に出た。
旅の途中でピーチボーイは狼男と赤龍、そしてゴーレムのタマちゃんをパーティの仲間とし
雑魚モンスターを倒しながらレベル上げをして魔王城にたどり着いた。
ピーチボーイは魔王とその配下のゴブリンの攻撃に悩まされたが
聖剣クサナギの力で最後には魔王を打ち滅ぼした。
かくして魔王の脅威はさり、この国には永遠の平和が訪れ
人々は勇者ピーチボーイを称えた。
って、ちが〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜う!!
町外れにある小さな酒場で、二人の男が、イカの刺身で酒を飲んでいた。
背中に桃のマークがついた鎧を着た、一人の男が大声をあげる。
「なんで俺がピーチボーイなんだよ!!お供が竜と狼とロボットってチートすぎるっしょ。」
「まあ、そういうなよ。時代は変わったんだ、桃太郎。俺たちも変わらんとなあ。」
男はさらに文句を言う。
「でもさあ、竜炎吐くでしょ。全部焼けちゃうわけよ。狼、月関係なく返信するし。タマちゃんなんてさあ。」
一気に酒を煽る。
「破壊光線でみんな倒しちって、俺ってそこにいただけだよ〜。ヒーローなのに。」
背中に”亀”という漢字のはいった道着を着た男が桃太郎に酒を注ぎながら言う。
「桃太郎、お前はまだいいよ。せいぜいヒットした漫画がアニメ化されたら残念になりましたレベルだから。」
そういって道着の袖を引っ張る。
「俺なんか、亀にまたがって竜宮城で乙姫に拳法を習って、世界一の格闘家になるとか。白い煙浴びたらスーパーなんとかに変身するって設定だし。」
「おい、それってなんか玉を集める話じゃ・・・・・・。」
地響きとともに居酒屋のドアが蹴破られ、黒づくめの衣装に兜を被った男が熊にまたがり入ってきた。
「よお、遅れてすまん。」
二人は声を揃えていう。
「お前・・・・・・・・誰だ?????」
「俺だよ、俺、金太郎だよ・」
「いや、金太郎ってぽっちゃり系だし。」
黒づくめの男はマッチョであった、
「おれもよくわからんのよ。なんかいつの間にか弟のいる設定になってるし。いくとこいくとこ、あぶない雑魚キャラが出てくるし。」
浦島太郎が気の毒そうに言う。
「お前もあれだな・・・、無理やり作者に変えられたんだな。」
三人の男たちは酒を飲みながら語り合う。
「昔は良かったなあ、悪い鬼を倒してめでたし、めでたし。」
「俺はまあ、老人にもならないし悪いことばかりではないぞ。」
「わが生涯に一片の悔いなし!」
「いや、だから違うでしょう。」
桃太郎がぽつりという。
「今の子供たちは、異世界ものばかり。俺たちのことなんかわすれちゃったんだろうな。」
「そうですね。エルフとかドゥワーフとか、北欧神話にまけちゃいましたねえ。」
そこへ、ゴーレムのタマちゃんが、ガシャンガシャンと入ってきた。
「あ、桃太郎様〜。探してたんですよ。」
「どうした、タマちゃん。」
「ああ、浦島太郎さんに金太郎さんもいらっしゃった。ちょどよかった、3人にお話があるんです。」
「おお、タマちゃん。久しぶり。で、話って何?」
「いやあ、神様がね。三人にぜひやってほしいことがあるって。」
「どうせまた、魔王やら悪魔を倒せって言う話だろ。おれたちは日本の英雄なんだぞ。」
「だから、今度は純日本産ですって。」
「とかなんとか言っておいてカプセルに閉じ込めて、バトルするとか。」
「やだなあ、被害妄想強すぎますよお。」
「そうか、じゃあ、話だけでも聞くとするか・・・・・。」
電車が空を走り、俺は主人公に憑依する。
「俺、参上!」
結局、特撮ものだった・・・・・・・・・・。