えぴそうど、その1〜睡眠不足の勇者様
幼稚園の頃は英語にピアノにサッカーに空手と習い事ばかり。小学校になったら中学受験だと勉強ばかり。なんとか合格したら次は大学受験だと睡眠時間も削り毎日毎日勉強勉強・・・・。このまま社会人になっても仕事仕事って。
15歳にして僕は本当に疲れてしまった。
試験勉強疲れで死んだように眠ったと思ったら本当に死んじゃったようだ。
気がつくと、僕は転生して勇者になっていた。
従者のタマちゃんが僕に言った。
「選ばれし勇者、マサオ様。魔王がこの世界を滅ぼそうとしております。さあ、冒険の旅に出かけましょう。」
すごく、ありがちの話・・・。僕は旅をして仲間を作って苦労の末、魔王を倒すんだ。
「僕、いいや。めんどうだもん。」
と言って僕はベッドに潜り込んだ。
「ちょ、ちょっと勇者様〜こまるんですけど〜〜〜」
タマちゃんは半泣きで僕に言った。
そんなタマちゃんを少しかわいそうに思ったが、睡魔には勝てなかった。魔王より睡魔の方が僕には怖い。
次の日も、その次の日も僕は眠っていた。
たまに起きるのは食事とトイレと風呂だけ。
タマちゃんは毎日僕を説得するが、この生活を変える気は無い。
ある日、お姫様がきた。
僕の好きなアイドルグループのセンターの子にそっくりの美人だ。
「勇者マサオ様。私を助けてくださいまし。」と姫は言った。
「魔王が私たちの国を襲い、国を滅ぼされたくなかったら私を嫁によこせというのです。」
と姫は泣き崩れた。
僕は一瞬同情しかけたが、ふと思った。
魔王を倒してお姫様と一緒になって、王様になってめでたしめでたしなんだろうか?
魔王に気に入られるお姫様ってやっぱり気がきついんじゃないか?
一生、お姫様の尻にひかれる婿養子生活なんていやだ・・・。
「魔王も以外といいやつかもしれないよ。きっとお似合いのカップルだよ。」
その瞬間ほっぺたをはられて目から火花が出た。
お姫様はプンプン怒って帰っていった。
「よかった〜、危うく罠にかかるところだった。」
「いや、ちがうでしょ〜〜〜」と情けない顔でタマちゃんがいう。
僕は無視してまた眠った。
それからもひっきりなしに人がやってきた。
村人達、騎士、魔術師、僧侶・・・・。
皆、僕を説得しにきて、最後はあきれたり怒ったりして帰っていった。
そんなある日、地震のような足音とともに魔王が訪ねてきた。
「勇者マサルとはおまえかあ〜〜〜」
魔王は大音量で叫んだ。
「そうだけど、声もうちょっと小さく話してくれない?近所迷惑だし。」
近所なんかいないじゃないかとぶつぶつ文句をいいながらも、魔王は普通の声で話を続けた。
「勇者よ、いつになったらわしを倒しに来るのじゃ。まてどくらせどやってこんからこっちからきたわい。」
「さあ、かかってくるがよい!返り討ちにしてくれよう・・・」
そう叫ぶと魔王は身体中から炎を吹き出し・・・・
「あ、間に合ってますから。」と僕は扉をしめた。
「勇者様あ〜魔王さんがせっかく遠路はるばるきてくださったんですよお。」
なげくたまちゃんのことはほっておいて僕はまたベッドに潜り込む。
コンコン・・・・。ノックの音がした。
たまちゃんが扉をあける。余計なことをする従者だ。
そこには普通のサイズになった魔王が困り顔で立っていた。
「いや、本当にこまるんですけどお。あなたに倒されるの私の仕事ですし。」
「だってめんどうでしょ。僕、気にしないしどうぞ好きにやっておいてください。」
「上がねえ・・・」と魔王は泣きそうな顔で言った。
「ちゃんとやられてこないとボーナスでないんですよ。だからね、そこをなんとか。」
僕は少しかわいそうになってきた。
「じゃあ、やられたことにすればいいじゃん。僕は黙っているし。」
ちょっと考えて、しぶしぶ魔王は承知した。
そしてそれからも僕は眠り続けた。
ご飯はタマちゃんが作ってくれるし受験勉強もないし働く必要もない。
こんな楽な生活はない。
そして100年経った。ぼくは歳をとらないらしい。
ある日、僕は子供が落とした本を拾った。
本の題名は「勇者マサオと魔王の戦い」だった。
持って帰ってベッドの中で読んだ。
ごくありきたりの勇者の物語だった。
一話読み切りのショートショートです。
次回は魔王様の就職活動編・・・・・・・。
涙なくしては語れない感動の駄作。金麦が泣いた。
メモとハンカチのご用意を。