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旅支度を終えた2人は出発前にギルドに寄る。
事の発端はギルドの依頼、報告しない訳にいかないと律儀なリョウと、仕方なくそれに付き合うロシエラ。
剣霊は、今は剣の中だ。
「ラファエラ嬢。ギルドマスターは居るか?」
「あ、ロシエラさん!お久しぶり!マスターなら2階に居ると思いますよ?」
「行っても構わぬか?」
「どうぞどうぞ。今は暇してると思いますから~」
俺も片手を軽く挙げラファエラちゃんに挨拶。
そのままロシエラに着いて行こうとする……
『結婚の報告ですか?』
と小声で聞いてきた。
今、彼女と結婚して子供なんか出来た日にゃあ、どんだけ世界の破滅を目の当たりにするやら……
〈妄想ケース1〉
『パパ~キャッチボールしよう~メテオストライク!』
『パパ~あたしもお手玉一緒して~テラファイア~×10~』
『ウギャーーーー!!』
『リョウ、子守りは剣霊に任せて手伝ってくれ。召喚魔法でちと黄泉の世界樹の葉を10枚ほど』
『まてまてまて!俺、今、子供に殺されかけてるよね?避けたら大陸消し飛ぶよね?』
『なに、大陸の1つや2つ消えても、私の研究に何一つ影響はない』
『どんだけ~~~』
…………。
ブルルっ!無理!容姿が極上でも、地獄しか想像できない!
「ラファエラちゃん……報告は報告でも、依頼の報告だから。この前の」
「な~んだ、残念……」
君は恋話のつもりかもしれないけど……こっちは命に関わるからね?
もう俺、歳とらないらしいけど……死ぬ時は死ぬのよ?もう少し生きたいからね?俺。
「また、失礼な事を考えてなかったか?」
「イイエ、メッソウもナイ。」
「ならいいがな。
ところでマスターにはどう報告するのだ?」
「それは会ってのお楽しみ」
「リョウも中々いい性格になってきたな」
「自覚はあるよ。
だが、全部あいつとあいつの持ち主の所為だがな」
こんなひねくれ大人に成るつもりは、なかったんだけどな……
ギルド2階、マスター室。
ノックをする。
『開いてるぞ。入ってくれ』
返事があったから素直に入る。
ロシエラの部屋ほどではないが、結構散らかっている。そのほとんどは処理済みの報告書達。整理は出来ないが、仕事はする……と言った感じか?
「リョウとロシエラか。二人揃ってどうした?結婚の報告か?」
「デジャブ!!」
「マスターの目から見ても似合うと思うか?
私もリョウがA級以上に稼げるようになったら直ぐに結婚していいと思っている」
「マスター、俺のギルドカードをB級で止まるように改造してくれ」
「相変わらず仲がええのお。で、何しに来た?
まさか本当に結婚の報告じゃあるまい?」
「ああ。この前、暁の隠し部屋の依頼受けたんだが……その結果を報告しに来た。
聞きたいか?」
「断る」
「じゃ話すぞ。最下層に……」
「待て待て!儂は断ると言ったんだぞ?何故話す?」
「断ったからだ。利益や権力、何かしら良くない事を頭に過らせたら飛び付くように聞きたがる。
けど、即答で断った。
ロシエラと2人で来た時点である程度予想しただろ?普通じゃないんだろうなぁって」
「……ああ。
ギルドマスターにわざわざ『聞きたいか?』と言う時点で、聞かない方が幸せな類いの話なのだろう事はな」
「だから、マスターにも道連れになって貰う。
剣霊!」
『はい、なんでしょう』
「以上だ。マスター」
「なっ!なんじゃ?それは……
さすがに儂でも理解できる……一個人、いや、人間ごときにどうこうできる代物じゃ無いことくらいはな……
儂は片田舎のギルドの長、ランクもB級止まりで権力もさはどもっとらん。
強いて言えば、そこのロシエラのおかげでここラテラのギルドは魔法や魔道具の取り扱い数が世界10指に入る。
その程度のギルドじゃ……」
「別にマスターに何かして貰うつもりはないよ。
ただ、現状を知って、これから起こるであろう事を見ていて欲しい」
「……何があった?」
「ここアトラスの最高神と至高神は大部前に死んでいて不在。従ってファリラスの陣営が力を増した」
「……これから何が起こる?」
「この剣霊の力で……
剣霊かファリラスを至高(世界)神にする」
「『え?……ええええ?!!!』」
「「お前が驚くな!剣霊!」」
「邪神ファリラスが至高神に……」
「そこは訂正しておこう。ファリラスは愛と自由の神だ。
愛深き故に憎悪を認め許し、自由だからこそ暗黒神・邪神の存在を受け入れた。兄は秩序を重んじたが、弟は自由を愛した。
自由は大地母神より病を受け入れず健康である自由を認め、戦神より敗北を受け入れず勝利を愛した。
民にとってファリラスは必ずしも悪神ではない」
「……ファリラス聖書の一説か。確かに一般人にとってファリラスは必ずしも悪神ではないな」
「マスターも世界の歴史を知っている口か?」
「一応、ドワーフにも創世の伝承は伝わっとる。
しかしじゃな……儂らドワーフは鍛冶仕事に深く関わっとる種族じゃ。大地母神信仰が根強いからの……さすがに自分の信じている神より癒しの力がある神を受け入れるのは抵抗がある」
「まぁ、事実だから仕方あるまい。ファリラス神官の状態異常に対する癒しはアトラス一なのは周知の事実」
「……2人ともいいか?
色々思うところはあると思うが、俺はファリラスに一票だ。
所詮、この剣霊は外様だ。ファリラスより受け入れ難いと踏んでいる。違うか?」
「まぁ、そうじゃな……」
「私は剣霊押しなのたがな……」
「ロシエラは研究対象が神になった方が面白いだけだろ?」
「それ以外に理由は必要か?まぁ、ファリラスでも研究の自由は認められそうだがな……なんと言っても古代魔法を生み出した魔法帝国はファリラスの加護の元、発展したらしいからな」
「また新事実が出て来たな……その辺も含めて道中、ご高説願うよ」
「ん?どこかに行くのか?」
「ああ、それも報告しとくよ。C級試験を受けるついでにファリラス陣営の視察に行って来るよ」
「おお!ようやっと受ける気になったか!
王都には大部前に推薦状は送ってある。期限はきっとらんから、いつでも受けるといい」
「準備がいいな……そんなに俺をC級にしたかったのか?」
「何を言っとる!優秀な人材に適正な報酬を払いたいのにランクが邪魔しとったんじゃ!
戦闘能力はC下位かもしれんが、それ以外はB級上位じゃ!B級だった儂の見立てだ、そうハズレてもおるまい」
「そうだぞ?【漂流者】なだけあって一般常識はちと難有りだったが、冒険者としての知識は私以上だ。
更にそいつのおかげで戦闘能力も私以上になっているだろう?」
「なんじゃと!ロシエラ以上?!推薦状をA級に変更せねば!」
「まてまてまて!持ち上げ過ぎだ!お前ら!
まだ、C級にもなってないのに戦闘能力だけでA級推薦はまずいだろ!」
どんだけ俺(人外)とマッドサイエンティストをくっ付けたいんだ?ここの連中は!
〈妄想ケース2〉
『リョウ、レッサーデーモンの群れはこちらでなんとかする』
『ああ、グレーターデーモンは俺が仕留める』
『コアだけじゃなく、外皮の素材も欲しい。できるだけ傷を付けないでもらいたい』
『愚問だな。A級がそれくらい出来ないはずないだろう?』
『そうであったな、愛しの旦那様』
………。
おや?案外悪くないか?
『『パパ~遊んで~』』
『あ!お前ら!それはオモチャじゃ……』
『『高~い、高~い……ドーーン!』』
『『あ……』』
……やっぱダメだわ。
ちょっと普通のA級冒険者を思い浮かべたけど、普通になりきれないらしい……
「リョウは失礼な想像しか出来ないのか?」
「ソンナコトハ、ナイとオモウヨ」