8
「リョウは勘違いしているようだから説明しておく。
まぁ、アトラス市民でも把握している者は少ないのだがな」
ん?冗談じゃ無かったのか?
「どういうことだ?」
「本来、ファリラスは邪神などではない。……自由神なのだよ」
「ほう!愛と自由の使者ですかい!」
某ロケット団みたいだな。
「至高神などと大層な名前で呼ばれとるファリイスも、実は法と秩序の神でな。
ファリラスとは双子の兄弟だ」
「俺の鑑定でも、そこまでは言ってなかったな……」
「うむ、これは創世の頃の伝承でな……エルフやファリラス神殿等、一部の人間にしか知られていない」
またもや新事実発覚……チート能力、マッドサイエンティストに負ける。
「なるほどな……ファリイス側にとっちゃ、自由……
勝手気儘に行動されたらたまったもんじゃないからな」
「うむ、為政者達にとってファリイスの教えは本当に都合が良くてな。
ファリラスの自由思想は邪魔な存在となる」
「で、国々の長い歴史の中で、いつの間にかファリイスは至高神、ファリラスは邪神とされたと」
「概ねそのような感じだな。正確には暗黒神等を経て、現在の邪神の長となったのだがな」
「聖書や世界の歴史の話は追々聞くとして、何故ファリラスに味方しようと?」
「リョウは自分の考えを自己完結させて、言葉足らずのまま話を進めることが多く、会話を理解するのにコツがいる。
……最高神とファリイス、どちらもいないのだろう?現在」
「あ、すまん。
言ってなかったっけ?わりいわりい。
そうなんだ。どっちも居なくて、ファリラスの勢力が増したって言ってた」
俺のうっかりさん!
ロシエラさんはジト目で見てますが……お茶に口を付けごまかしましょう。
うん、このお茶美味しいです。
「……それでこの剣の持ち主はバランスをとる為、過剰とも言えるリソースをお前に与えたと言う事だな」
「そうそう。だからちょっとムカついてる」
激オコぷんぷん丸です!(死語)
「ならばこその意趣返しだ。
ファリラスは至高神の兄弟なんだ。責任もって治めてもらおうではないか。このアトラスを」
「大丈夫か?
方法云々は別として、アトラスの皆は納得いくか?」
俺なら無理だぞ?
昨日まで敵です!って言ってたのを、今日から味方だから仲良くしましょうっての。
「それも含めて頑張ってもらおうではないか、ファリラス自由神様に。
とはいえ、無策で提案した訳ではないぞ。
ついでにいえば保険まである」
「保険?」
「そうだ。さっきから部屋の隅で床に『の』の字を書いている、あれだ」
「あー納得。
本人曰く、世界神並みの力はあるそうだよ」
「決まりだな。」
『え?何か?』
「「ふ、ふ、ふ。こっちの話だ」」
~…~…
今、俺は旅支度をしている。C級試験を受けるという名目のもとに、ファリラス陣営の視察へ行く為だ。
元々、C級の受験資格は持っていた俺。10年も冒険者をやっていたんだ、昇級に必要な依頼の達成や素材提出は済んでいる。
ただそれに、自分が納得いくだけの実力が追っついていなかっただけだ。
ってことで、ロシエラと相談の上、敵地に直接乗り込むこととなった。
余談だが、相談中、剣霊のスペックが異常に鬱陶しかった。
しょうがないから、ロシエラ先生監修のもと、力の制限を掛けさせて頂くことになった。
勿論、剣霊さんは笑顔で快諾してくれた。
(当然、俺のボックスを開けて『2度と出さないぞ?』と言った後だけど……そこは気にしちゃいけない)
まずは下処理の確認。
ロシエラ先生曰く、所有権は自分、所持・使用はロシエラが行う、という方法は大変有効だ!とのこと。
部屋を見つけた時、勢いで自分の剣にしてしまったが、処理は間違っていなかったことに安堵する。
次に【漂流者】のみ使用可能になっている制限をどう克服するか。
これをどうにかしないと、ロシエラの研究材料に出来ない。
かといって、所有権譲渡は同じ【漂流者】にしか出来ないらしい(出来てたら新たな邪神を誕生させてたかも……)ので、杖や固い棒以外の使い道を模索。
結果、俺の付与魔法と彼女の付与魔法を駆使し、どうにか魔力と知識の引き出しに成功。
そう言う事で、ロシエラ先生の研究、古代魔法に関しては9割方終了してしまったとのこと。
いっそ、その研究成果をひっ提げてS級冒険者とか建国の王にでもなればいいのに……
研究の鬼は、目の前に最大最良の研究対象(剣霊さんだよね?こっち見てるけど……)が在るから死ぬまで研究者であると言い放った。
この世界にノーベル賞があったら3回は受賞出来るよ、あんた。
「準備はいいか?研究に必要なモンはバンバン剣霊様に持たせてくれ」
「わかっている。既に2部屋分の資料と素材を渡している。
しかしなんだな……ボックスと言うのは便利だな」
「確かにな。空間だけでなく、中の時間や温度まで調節出来るからな」
『本来、ボックスは時間と空間だけ調節可能なのですが……』
「「は?!」」
『はい……温度も調節させて頂きます……』
剣霊さんには今回、荷物持ちという大役を担ってもらう。
ボックスも転移も俺自身使用可能なのだが、道中一切そのような力を使うつもりはない。
そして、研究対象(2体)が移動するのに、研究者が来ないはずがなく、研究資料と共に一緒に来てくれるそうだ。
非常に助かる。
なんてったって、人外2体のストッパー役がいないと何が起こるかわからない。(そのストッパー役もマッドサイエンティストっていう……この世界大丈夫か?)
かくして、とんでも3人による世直し(間違ってはないよな?)の旅が始まりました。
……その前にギルドに報告だな。……なんて報告しよ……。