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「まぁ……状況整理の為にも中に入ってくれ。
茶ぐらいは出すぞ?」
「すまないな。俺も完全に状況を把握しているってわけじゃないんで助かる」
この際、神や悪魔に力を借りるより、マッドサイエンティストに力を借りた方がましな気がする。
案内されるまま家の中へ。
いつ来てもロシエラの家の中は雑然としているな(知らない人が見たらゴミ屋敷……)。
本人はどこに何があるのか完全に把握しているらしいから、きちんと整理整頓されている……と思い込んでるようだ。
まぁ、そこは敢えて突っ込まないけど。
「失礼なことを考えてはいないか?これでも片付けの余地があることぐらいは理解しているぞ?」
『余地どころでは無いような……』
「「黙れ!」」
『はい……』
「で、リョウよ。
そいつは“何”だ?明らかに人知を超えた存在だと思うのだが?」
「その辺も含めて最初から説明しようと思う。
先に言っとくと、そいつはその剣“そのもの”だ」
「なるほどな……」
目は至って真面目なのだが、口角は口が裂けんばかりに吊り上がっているのがわかる。
絵で描いたとしたら、とっても綺麗な三日月形をしていただろう。
そして剣霊の顔色は、青空や南国の海より真っ青なブルー。
絵で表現したら顔と背景が縦線オンリーの姿かな?
~…~…
とりあえず何も隠すこともないので、ギルドで調査依頼を受けた辺りからの一部始終を話した。
神様や武器性能の事はともかく、魔法に関してはロシエラに1日の長がある。付け焼き刃で覚えた自分なんかがあーだこーだ考えるよりマシだろう。
「話はだいたい理解した。
ぶっちゃけ私もそいつら同様、リョウを利用しようとしていた側の人間だ。
ここアトラスに於いて【漂流者】とは、それほどなまでに特別な存在なのだよ。
……特に為政者や、私みたいな研究者にとってはな」
「だろうな。
俺が無能でなかったら、疾うの昔にモルモットだったろうよ」
「だからまず先に謝っておこう。すまない」
「いや、それはいいんだ。俺も研究者ならそうしただろうからな。
それよりも問題は、これからどうするかだ……
ぶっちゃけ現時点で、俺は単独で世界を滅ぼせるぐらいの力がある。
……何の為だ?理解に苦しむ」
「私も魔法以外の事はそれほど詳しくは無い。
それでもいいのなら私の推測を話そうと思うが……いいか?」
「もちろん」
「まず、ここの神が裏切ってこの世界は神が居ない状態が続いたと聞いたが、合ってるか?」
「ああ」
「でもな、大地母神や戦神等の加護や神聖魔法は何の問題もなく使えていたぞ?その期間」
「そう言えばそうか……」
「邪神ですら真面目に活動していた。従って裏切ったのは至高神か、その上の存在……最高神辺りなのだろう」
「なるほどな……」
やはりロシエラに相談して正解だったな。自分ではそこまで頭が回らない。
何せ俺の知識は極端だ。地球で学生時代に得た知識と、冒険者として積み重ねてきた経験のみ。
この世界にそういう神が居るという事はさっき知ったばかりだし、その神様がどう思われてるとか何してるとか全く考えもしなかった。
実は、チート能力【鑑定】を使えばロシエラと同等の知識を引き出せたりする。
しかし、その使いどころが今一わからない上、余計な一言がいちいち付いて来て読み難い(それも語尾がニャーニャーしていて無性に腹が立つ)。
なので、しばらくは生活魔法以外は使わない予定だ(そも、その生活魔法ですらチートに変わってしまった感が否めない……)。
「神、それも私達の生活に密着していない、上の方の存在は、生態系のバランスを考えるのが仕事だ。
しかし、そいつが居なくとも、それ以外が通常通り活動していたら、早々バランスなど崩れん」
「そうだな。国(会社)のトップが変わっても、その部下達(専務や課長等)や一般市民(ヒラ社員)がちゃんと活動してたら、早々には崩れ(倒産し)ないな」
「しかし、綻びや想定外の事態と言うものは必ずと言っていいほど起こるものだ」
「なるほどな……その抑止力、ないし解決する為と言うことか……」
「そうだ。私の鑑定はレベルが常識的なところで止まっているから詳しく調べられないが……
一度、見てみるがいい。世界のバランスを」
「……気が引けるけど
世界のバランスを鑑定……」
世界のバランス:
やっと気付いたニャ?
今、アトラスはファリラス(邪神)の勢力が優勢の状態ニャ。
原因はアトラス最高神とその右腕ファリイスが神界戦争で戦死し(排除され)たからニャ。 こういった話にはお決まりの『勇者』が登場して、魔王なり邪神なりを倒すってテンプレートがあったりするんだがニャ……
アトラスのアホ、領地管理だけは常識的でニャ~勇者や魔王といった極端な力を持った奴を存在させて無いんニャ。
だから、ファリイス側もファリラス側も現地の住民が頑張ってバランスをとるしかないニャ。
しかし、ファリイスがアトラスのとばっちりで戦死(事故死)したから、僕が介入するまでの間に真面目に仕事してたファリラス側の勢力が力を増したって感じニャ。
因みに、5大神のファリラス以外は至高神側と思われているが、皆、別々に活動する同等の存在ニャ。
だからニャ、例えばファリラス側の勢力と戦争するとする。
すると面白いことに戦神マリスはどちらにも力を貸すし、大地母神マーフはどちらも癒す。
至極当然だが、至極面倒な状況ニャ。
そこで登場するのが世界のスパイス、【漂流者】ニャ。神が直接介入出来ない分のリソースを流し込める便利な存在。それを……
ブチ!
強制遮断する。
想像通りの展開に腹が立ってくる。
俺は神の道具じゃない。
「ロッシ……お前の予想通りだ。予想通り過ぎて、尚更従いたくなくなった」
「まぁ、そうなるな。
私も強制的に何かしろと言われたら……即、お断りだ。
何より森の掟にうんざりして、エルフなのに研究者をしている時点でわかっていると思うが」
「ああ、俺もそうだ。
元々、他人にあーだこーだ言われるのが嫌で冒険者をやってるようなもんだ」
そう、生きていくだけなら、国やら何やらの庇護化に入れば良かったのだ。【漂流者】なのだから。
それをしなかったのは自由に生きたかったから。
自分で生きたかったから。
「俺は自由に生きる。神の思惑なんぞ知ったことか。なんならファリラスの味方をしても構わない」
「……なるほどな。それも悪くない」
え?嘘だよね?
冗談だよ?いくらなんでも邪神の味方はしないよ?