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 ここは中級者向けダンジョン、黄昏の迷宮(推奨レベルC以上)。



 臨時パーティーを組んでいる相方のラリィがモンスター達を追い込んで行くのを横目で確認。

 俺は紫煙を吐き出しつつ、片付けたモンスター供を解体、素材の回収をしていく。

 咥わえているのは認識阻害の効果を持つ葉巻型の道具。本来は設置型なのだが、吸ってみたら意外に美味しかったので、だいぶ前から煙草代わりに吸っている。



「リョウ!そっちにスライムが逃げた!」


「了ー解!」


 俺は素早く剣を抜き、向かって来た化け物のウィークポイント、うねうねの中心に狙いを定め突き立てる。


「やったか!?」


「それフラグ~」


 案の定、刺さる寸前に分裂したらしく、動かなくなったうねうねの後ろから新たなうねうねが表れ酸性の水鉄砲を炸裂。


「リョウ!!」


「……大丈夫。ちょっと新調した鎧が斑模様になっただけ……」


「……御愁傷様」



 そんな会話をしながらも、きっちりトドメを刺す事を怠らない。

 そして素材の回収も怠らない。


 何てったって、10年選手の『冒険者』だからな。



 そう、俺は冒険者だ。

 冒険者……トレジャーハンターやモンスターハンター達の総称。所謂なんでも屋。


 自分の身1つで大金を稼ぎ出す戦闘のプロフェッショナル。

 ただ、傭兵と違い戦闘面だけではなく、倒したモンスターの素材、採取した植物や鉱物、武器防具や魔道具等、多岐に渡る知識が要求される。


 そんな冒険者と言う職業を10年近くやっている訳だが……てんでランクが上がらない。


 ランクとは強さのパラメーターで、SやAが上で、最も下はF。


 このランク制、ミシュランの星なんかと同じ感じで分かり易いって事で、職業や業種、建物、国、モンスターやその他難易度なんかを表すのにも使われてる。

 例えば『あの国の過ごし易さはSS級だ!』とか、『こんな作業、Gランク以下だよ』とか、実際に使われてるランク、S~F以外を使ってその難易度を強調したりする訳だ。




 それはそれでいいんだが……が!ランクが上がらん!



 とりあえず誰でも登録できる『戦士』で登録してあるんだけど……

 力も高く無ければ、素早さも無い!

 職業による恩恵皆無だよね?これ?

 これで10年よ?わかる?



 まぁ、慣れっていうか……コツ?みたいな物は理解したんで、それなりに食べて行けるレベルにはなったけど……



「よし!今日はこれぐらいでいいな。リョウ、ありがとな」


「いいって、いいって。どうせ暁がメンテ中で暇してたから」


「お、そうか?じゃ奢るからこのあと飲もうぜ?」


 ん?なんかこのあと約束してような……ま、いいか!

「オーケー。報告もあるからギルドでいいよな?」


「もちろんだ!

久々に大漁だったからな~」



 喜んで貰えて何よりだ。回復系の煙草を咥え、マッチで火を点ける。

 やっぱりこっちの方がメンソールっぽくて好きだな。




 所変わってギルド兼酒場。

 ラリィは安酒の代名詞エール酒をジョッキで注文、俺は余り飲めないんで葡萄酒のジュース割りにつまみ多めで注文。

 早朝からダンジョンに潜って早々に帰って来たから今は昼過ぎぐらい。

 グダグダと世間話をしてたら身の上話に……


「……で、今はギルドの下っぱ冒険者。万年D級戦士と言う訳だ」


「そうなんだよね~最初はそれなりに仕事覚えてサクサクFからDに上がったんだけどな……」


「まぁ、そこから上に行けりゃ上級冒険者になってるわな。D級……欲を言えばC級有れば食っては行けるし」


「なんだよね~頑張っちゃいるんだけど……

 何分地力が着いて行かない……」


「それでも採集系依頼や雑務系依頼はそこいらの中級冒険者よりかなり上手く出来るんだ。

 そのうちC級やB級にサクッと上がるだろうさぁ」



「……だといいんだけどね~」




 俺は斉木(さいき) (りょう)。又の名をシティハンタ……じゃないです。

 サエバじゃなくてサイキなんで……


 って、あっちじゃ多少ウケてたんだけどなぁ~こっちじゃ誰も知らないからなぁ~。



 そうなんです。


 ここ、日本じゃないんです、多分。

 しかも地球かどうかも怪しいっていう……


 アトラス島(大陸?)って所で、しかも魔法やら魔物やらが居ちゃったり、あっちゃったりして……



 地球じゃねぇだろ!って突っ込まれそうだけど……

 だけどね?

 ここには、浮き輪で海を渡って来たのよ?

 信じられない事に。



 それは、就職してしばらくたった、ある夏の日……


 学生時代の友達と海の近くでキャンプしていた自分。

 そして、まだまだ若かった僕達は、海水浴をすることに。


 僕は浮き輪でプカプカ。

 気が付いたら見たことのない島へ到着。


 しかも自分だけ……


 おかしいでしょ!

 一緒に浮いてたブンさんやグッチーはどこさ!?

 流れ着くのが運命だったとしても……せめて巻き添えが居てもいいんじゃないですかね!?


 はぁ……


 こんな事なら退学になって実家に帰りずらいとか言わずに素直に帰っときゃよかった……

 まさかこんなところで危険な肉体労働系に就職することになるとは……



「リョウ、ちょっといいか?」


「ん?どした?」


「……ん?どした?じゃない!

 今日は私の研究の手伝いをする予定であっただろう。

 まったく……低賃金労働者が昼間から酒場で管を巻いてるとは、いいご身分だな」



 彼女はロシエラ・ライヴラル。

 クラスは魔術師で錬金術や言語学なんかにも精通した所謂“研究者”。

 こんな田舎町に似つかわしくない生粋のエリートさんだ。



「別にサボってた訳じゃないぞ?俺の唯一のホームグラウンド“暁の迷宮(ダンジョン)”が定期メンテナンスで入れないからだなぁ……」

「なら、早くこちらに来ればいいだろう。

 別に給金を払うと言っているのだから」

「はいはい、わかりました。行けばいいんでしょ?行けば。

……たまの休日ぐらい、仲間と触れ合ったってバチは当たんないでしょ……」


「普段の休みなら別に構わん。

 情報収集も冒険者の仕事の1つだからな。

 しかし今日は私という先約が有るのだ。程々に切り上げてこい」


「ヘイヘイ」


「いつもいつもオシドリ夫婦だねぇ。

 いつんなったらくっ着くんだい?」


「ラリィ……俺達はそういう」「期待して待っておれ。高給取りになったら即嫁ぐ」「ちょっ、おま」


「はいはい、ごちそうさま。こっちはお腹いっぱいだぁ。

 リョウも頑張って早くCなりBなりに上がって年貢を納めるんだな」


「だ~か~ら……って、仮にそうなったって年貢が高過ぎてA級(人外)やS級(伝説)になったって足りやしないと思うぞ?」


「ちげーねぇー」


「じゃ、またな」


「ああ」



 首根っこを掴まれながら(実際に)居酒屋・食堂兼ギルドを後にする。


 彼女は、研究者ではあるが冒険者の資格も持っている。魔法使いなので当然と言えば当然なのだが……クラスはC級。

 研究や学会発表など様々な所へ行かなければならない関係上、中級冒険者の資格が最低限必要だった。

 彼女の能力からすればB級・A級でもおかしくないのだが……B級以上は試験時間がかなり長くなる為、そんな時間があったら研究に費やす!との事らしい。


 別に彼女が特別な訳じゃなく、研究職の人達はだいたい似たり寄ったりで冒険者クラスを上げてない場合が多い。

 バトルメイジや冒険大好き魔法使い、宮廷魔術師じゃない限り、魔法使いはC・B止まりが常識だ。



「リョウ……いつまで引き摺られているつもりだ?

 たいして疲れないとはいえ、魔力を使うのだ。そろそろ自力で歩かないと死体にして軽くしてから運ぶぞ?」


「悪い悪い。つい楽だったから……って、止め!本気で消し炭にして運ぼうとしないで!」

 仕方ない……自力で歩くか……



悪ふざけしながらも無事、ロシエラの研究所兼自宅に到着しました。



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