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私と手紙とあなた  作者: lithium
2/2

新たな日常

 私は朝から元気な鳥の囀りを耳に目を開けた。まだ寝たい。寝たりない。うーん。何か大事なことがあったような…

 「はっ!今何時?」

慌てて時計を見る。すぐに時間が分かるようデジタル時計にしておいたのが功を奏したのだろうか、今が何時で、どの位面倒なことになったのか、寝ぼけた頭が即座に理解した。

 「ギリギリセーフ…」

私はチャイムと同時に着席した。危うく遅刻するところだった。


 「はぁ、とんだ災難だったよぉ。」

お昼ご飯の唐揚げを口に頬張りながらため息をつく。

「しっかし珍しいね。桜華が遅刻だなんて。」

学級委員長の蛍が有るまじき勘違いを炸裂する。

「してないしてない。未遂よ未遂。」

私は誤解を解くために二回繰り返した。

彼女も私を小ばかにするように二度繰り返した。

「そうかいそうかい。未遂ね未遂。」

彼女は正直者で八方美人でもないことから、クラスからの信頼は厚い。しかしながらどの人間にも難点はある。彼女で言うところの「勘違いしやすい」のような。

 「そういえば聞いてくれる?」

私は意を決してそう告げ、お茶で喉と唇を潤した。

「最近、謎の手紙が毎日届くんだよね。」

彼女なら正直な対応をしてくれる。そう信じて相談を持ち掛けた。

「謎の手紙?抽象的過ぎてよくわからないのだけど。」

彼女は首を傾げ、当然の疑問を投げかけた。

「具体的にね…。いうならば"指令書"的な物かな。」

私はできるだけわかりやすく謎の手紙の内容を伝えた。

「"指令書"?うーん。具体的なんだろうけどやっぱりわからないな。」

そう言われてしまった私は、これまであったことを洗い浚い話した。

 「一つ言えること。結局のところ桜華はその手紙のことどう思ってるの?迷惑?それとも…暇つぶし?桜華がその手紙に対してどう思っているかで私の返答も変わる。そこんとこどうなの桜華?」

どう思っている…か。一回迷惑であることを伝えはしたが、結局付き合っている。私の表面的な感覚としては「少し迷惑」ではあるのだが、自分のこれまでの行動を鑑みるとそうであるとは言い切れない。結果として楽しんでいるのだろうか。何も無い日々へのスパイスとして感じているのだろうか。

「少し迷惑かな…。でも、普遍的な日常が少し楽しく、少し刺激的になるスパイスみたいに感じている節もある。うーん。何とも言えないかな。」

「そう…。だったら飽きるまで付き合ってやったら?差出人もそれが本望だろうし。」

彼女は急に悪い女みたいなことを口走ったが、まさに正論である。

「蛍がそう言うんだったらそうするかな。実際、その手紙を楽しんでいるんだし。」

「それにしても差出人はどうやって桜華の反応を見ているのかな?聞いた感じ返事は出していないようだし。」

聡い彼女は核心に迫る疑問を投げつけてきた。その件については私は考えないことにしている。考えただけで恐ろしい。

「そうなんだよ。未だに謎なんだよねぇ。」


 郵便ポストの前に立つ。ここであることを思い出した。

「結局"力"は手に入らなかったな。仮説は違っていたのか。」

ため息を吐きながら郵便ポストを開ける。そこには見慣れた封筒が一つ入っていた。

―なるほどその力を欲するのか。…

「…ではその力を授けてやろう。」

私がこの文章を読み終えた刹那、目の前が一瞬明るくなった。

「うっ」

ゆっくりと瞼を開く。目の前には郵便ポスト。周囲を見渡す。そこにはいつもと変わらない風景が広がっていた。何が起きたのか。もしかして...

「"力"を授かっちゃった?」

 授かったはいいものの"力"の引き出し方が分からない。踏ん張っても疲れるだけ。これは困ったな。せっかく授かったのだから発揮してみたいものなのだが。

 結局"力"を発揮することなく自室に足を踏み入れた。

 ―おーい

どこからともなく少女の声がした。はっきりと聞こえなかったから多分幻聴なのだろう。疲れているんだな私。

―おーーい

うんうん。疲れているんだよ私。こんなに幻聴が聞こえたことはないもの。今日は早く床に就くとするかな。

 ―ねえ、無視しないでよ。

否定したいのだが、認めざるを得ない。これは幻聴ではなく、実際に声をかけられているようだ。反応していいのかな?反応したらあの世に連れていかれるとかないよね…?

「なんですか?」

しかしまたもや好奇心に勝つことはできず返事をしてしまった。生きていることを切に願う。

―ふう。やっと反応してくれたよ。

謎の声は私が反応したことに安心している。機嫌を損なうことの無いように接する必要があるようだ。

 「ご用件は何ですか?」

―君が素性を知りたいと願ったから無理して話しかけているんだよ。

まさかこれが"力"?私の仮説はあっていたということ?

―そうそう、そういうこと。

―何を知りたい?30分くらいしかここにはいられないからね。

「わ、わかりました。」

 私は謎の声、もとい手紙の差出人に様々な質問をした。

 彼女によると、彼女はこの世の存在ではなく、別の世界のものらしい。この世と連絡を取ることはできるのだが、とても体力を使うため、終始元気がなかった。唐突に質問を要求されたため、頭の中での精査に時間がかかり多くのことを聞き出せなかった。

 「最後に一つ、いいですか?」

―何だい?まだ私は持ちそうだけど。

「…あなたはなぜ、私に手紙を送るのですか?」

これが私の一番聞きたかったこと。一番大事な質問は最後にするもんだと誰かが言っていた気がする。当の少女からの返信が来ない。言いにくいことだったのだろうか。悪いことをしてしまったかもしれない。

 ―…。やっぱり、それを知りたかったんだね。

異世界間の通信での疲労はあるのだろうが、そのせいではない疲労が感じられる。

―一緒に会話をしてくれる存在が私にはいないの。いつもいつも独りきり。私の周りには何も寄ってこない。唯一寄ってくるものは、人の恐怖心だけ。…理由は簡単よ。私は「危険」な存在。私と関わったものは…。いいえ、なんでもないわ。でも大丈夫。あなたに危害を加えるつもりはない。あなたは、私と会話してくれるただ一つの存在。大事なものに傷をつけるなんて無粋なこと私にはできない。

―これで…いい?私があなたに手紙を送る理由、わかってくれた?

なんて重いんだ。いたずらだと決めつけていた私を消し去りたい。私だってほとんど孤独。彼女の気持ちが分かるなんて簡単には言えないけど、彼女と私は似た者同士な気がしてくる。

「ありがとうございます。」

―敬語なんて使わなくていいよ。せっかくのお友達なのによそよそしくてへんだよ。

「うん。そうだよね。お手紙、楽しみにしてるからね。」

―ありがとう。またこうやってお話しできる日が来ることを祈っているよ。

 そう言い残し彼女の声は消えた。初めて声を交わしたはずなのに、どこか懐かしさを感じた。ただの勘でしかないけど、彼女は悪い人ではないはず。でも…。

「「危険」ってどういうことなんだろう…。」

彼女は、「私は「危険」な存在」と言った。でも、私に危害を加えるつもりはないって言ってはいたし…。そこまで気にすることじゃないのかな。


 彼女と会話してから一週間が経過した。彼女からの手紙は欠かさず毎日届いている。果たして、この手紙はどういうシステムで私の家の郵便ポストに投函されているのだろうか。思うに、この疑問は一生解決しないであろう。

 彼女からの手紙は今までとは異なり、彼女の日記と化していた。この手紙に対する返答は、心の中で発言すればいいらしい。ちゃんとそれを反映させたものになっている。

 さらに、毎日何かしらの"力"を得られるようになった。いくつか発揮してみた感覚では"力"は一日一回限りで、再び付与するにはまた願う必要があるようだ。また、「人が次何を言うかわかる力」や「店員さんが毎回「ポイントカードはお持ちですか?」を聞き忘れる力」のように、得られる"力"の幅も広い。


 「今日は何が書いてあるかな?」

私には彼女が異世界人であることが信じられない。どう見たって、彼女の日記の内容は普通の少女のようなものになっている。"異世界人"と名乗る地球人、と白状されても違和感がないほどだ。(もっとも、異世界が必ず地球の生活とかけ離れているとは限らないのだが。)

 ―今日は、年に一度のお祭りの日。この日だけは、パパが外出を許可してくれる。今年はどんな催し物があるんだろう。

―「なんで君は日本語が使えるの?」って?私は「言葉」に興味があってね。いろいろな国の言葉を勉強するのが楽しみなんだ。日本語もその一つ。私の母語に似ていて、使っていて楽しいんだ。

 そういえば昨日、ふと心の中でこの疑問がわいたな。あの子は語学が好きなのか。日本語が好きなのも納得がいく。私の趣味も語学だから、これでやっと共通点が見つかった。

 私はそこで異変に気が付いた。いつもなら同封されている筈の私のイラストが入っていないのだ。お祭りだったから忘れていたのか?そんな簡単な理由ではないと、私の勘がその時告げた。


 「桜華、一緒にお昼食べない?」

蛍はいつもの調子で私を誘う。蛍が誘わなければ一人で食べるから断る理由はない。

 「そういえば桜華、あの手紙どうなったの?」

蛍がいきなり答えにくい質問をしてくる。

「まぁ、一応続いてるけど。」

「あっそう。」

自分から聞いてきたくせにしょっぱい反応をしてくる。

 「なんか進展あった?」

言ってしまえば進展しかなかったのだが、この人はそれを信じてくれるのだろうか。

「あることにはあるけど…。」

「へぇー。なになに?」

蛍は想像の約二倍の食いつきを見せた。さてはこの質問がしたかったのだな。

 「一番大きな進展としては、差出人が少女だったってことかな。」

私にとってこれが一番大きなことであった。これが男だったらすぐに縁を切っていたはずだ。

「そうだったんだ。何だか意外。男だと思ってた。」

やはり誰しもが男だと考えるものらしい。

「それだったら、桜花の部屋が盗撮されていても安心だね。」

「へ?何言ってんの蛍。」

確かに私の部屋を監視していないとあり得ない挙動が多い。まあ、男よりはましか。

「少女は少女でなんかあれだけどね。」

今日の蛍はなんだかおかしい。いや、いつもおかしいのだが、その度合いはいつもの感じではない。

「なんかあれって何?」

「え?あれだよあれ。…やっぱやめとくわ。」

「口に出すことが憚れることなら言わなくてもいいけど、気になる。」

「知らぬが仏ってやつよ。」

知らぬが仏か。大抵の場合蛍が言うことは当を得ている。憚れること…。あの子が言っていた「危険」と何か関係があるのか。

 「で、あとは何かあるの?」

「特には無いかな。まあ、差出人が悪い人そうじゃなくて良かった。」

ほかにもあったのだが、彼女には負担が多き過ぎる。

「根拠のない判断は危険よ?」

「根拠ね…。強いて言うなら私の勘?」

「まあ、頑張って。」

蛍はそう言って彼女の席に座った。人間の勘というものは侮れない。彼女のためにもそう思っておこう。


お疲れ様です。

溜まっていたので連続で投稿させていただきました。lithiumです。

今回は何を書きますかね…

では、私の小説のスタンス(?)についてお話します。

小説を書く上で、ストーリーの生み出し方は人それぞれです。

私は、頭の中に勝手に流れている映像を言語化しているだけなので、突拍子も無かったり、意味が分からない挙動をすることがあります。多分読者の方々も気づいているものと思っております。

緻密な設定をする人には憧れます。私がそんなことをしたら、書く度に設定集を確認しなくちゃいけなくなるので向いていないのです。忘れっぽいので。

そのため、作中での設定がガバガバになってしまい違和感を感じることが多々あるかと…。

まぁそこを含めて私流の作品でございます。違和感に目くじらを立てずに読むことを推奨します。

いちいち違和感やミスを気にしていると、楽しめるものも楽しめないですし。私も人間ですしおすし。

なんだか長くなってしまったのでここらへんで失礼させていただきます。

(前回書いた締めの言葉をド忘れしてしまった…)

…See you then!


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