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もらとりある  作者: 酒多 狂吉
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そのろく

 ――私は一体何をするために生まれてきたのかしら。それは分からないけれどそれを探さなくては不可ないような気はしていた。ずっと。前から。でもどんな生活をしてみたッててんでそれは解らん。見えてこん。ちッとも面白くない。ツマラン。じゃあ生きるのはツマランこと? その割りに何処へ行っても愉しそうな人たちがゐる。普通を普通に享受して普通に愉快にやっている風に見える。あれは隣の芝が青く見えるだけ? いや、きっと違う。あれらは私が見ていないところだって愉しく過ごしているに違いない。羨ましい。見ていられない。なにをどうしたらそんなに面白可笑しく暮らせますか? そんなこと訊けやしない。尤も、訊いたところで、だ。

 きっと命を授かったのは神様の気まぐれで、べつだん意味など無かったに違いない。でも、だったら、どうして生きていかれる? なにを思って、なにを指標にして、私は生きてゆけた? 神様など真面目に信じちゃいないけれど、もしそんなのがゐたとして、きっとそれは私たちの信仰するべきようなものじゃぜんぜんなくて、我が侭で、底意地が悪くて、私利私慾にまみれてて、屑で、平等に就いて考えたことなどなくて、醜漢で醜女で、不真面目で、凡そ褒められるところのすッかりない奴に違いない。

 ああ、そっくりそのまま誰かに成り代わってみたい。誰かの真似をして、真似をし通して生きてゆけたら、それは滑稽ではあるけれど、本人は、本人だけは、仕合せかもしれない。それで好かったのに。追随者、結構。猿真似、結構。大ファン、結構。結構結構。で、そんなことも出来ない個体はどうするのが正解なんだろう。第一、誰が正解だの不正解だの決めてくれるんだろう。何処に正義があって何処に悪党がゐて、で、それが一体なんなんだ。しらんしらん。わからんわからん。なんもわからん。ツマラン。

 なんの為の二五年だったのかしら。無駄に飯を食って糞をして生殖の真似事をしただけの、たったそれだけの二五年かしら。阿呆らし。こんなことならトコトンやりたいことだけやって生きれば好かった。——

 ——やりたいこと。はて、私のやりたいこととは、それは一体なんだったのかしら。それで何故、やりたいことをせずに暮らしてきたのかしら。そもそも、やりたいことと向き合ってみたことはあったっけ。じぶんがしたがっていることを肯定してやったことは? 無い。そりゃどうにもツマランわけだ。阿呆らし。死ぬ気があれば、やりたいこと、やれただろうに――

 いざ死んでやろうとなるとそれまで考えも及ばなかった風にセルフ問答するに至り、となると、そうか、死ぬ前にやってみたかったことでもやってみればいいのか、と頗る健全な前向きさになって、この世からむざむざとフェードアウトしてやるのも癪になって来、未だガスが充満していなかったこともあってすんなり身体が動き、おもむろに起き上がってガス栓を締めました。

 ついでに部屋の換気をし、ちょっとして寒くなったら窓を閉め、最前まで寝そべっていた布団のうえにちょこなんと座し、傍らに未だタンマリとあるピースを眺め、至宝でも所持している気になって、またヘヘッと嗤いました。


 そうして、いまはフーテンやルンペンの身空ですと云えたなら幾らか箔がつくかんじで恰好良いですが、そうは上手くいかず、まあ、フリーターと云うツマラヌやつをやっていて、生計を立てたり立てられなかったりしている次第です。

 一人暮らしでは齧るスネもありませんから、偶には労働して、せいぜいウマイものでも食って、便意をもよおせば抗わずに排出して、気が向けば女の人に御相手をしてもらって、月に一度くらい美容室へ行って、と云うような塩梅でだらだらと過ごすより他ないようです。こうしてひと月ひと月を誤摩化してゆくことが人間生活なんでしょう。まったくニンゲンバンザイとでも云いたくなります。

 相変わらずフェイスブックを覗くと同級生の華やかそうな生活を目の当たりにして参って了いがちですが、とは云え、もうかれ等に嫉妬するようなことはないようです。私よりも幾らも裕福そうで幾らもウマイものを食ってるようですが、かれ等もそうやって誤摩化すより他ないんですよ。じぶんを誤摩化したり慰めたりするのにはそれ相応の金が要るようです。かれ等もルンペン予備軍である私と大差ありません。企業乞食と呼んでも差し支えないようです。さしずめ、先生は大学乞食といったところですかね。経済学部の先生は、では資本家はなんだ、と御思いになるでしょうが、あれはただ単に乞食でしょう。

 ああ、けれど、きみも働いてるならおんなじ乞食じゃないか、と云われればまったくその通りですが、強いて反論するんであれば私は専属ではないのです。偶に労働乞食をしているだけで、そうでないときは学生モドキをやってるんです。

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