09. ツンデレか
リビングでシリルくんが淹れてくれた紅茶を飲みながら、狭くなった部屋を見る。
部屋の構造上――というか部屋の広さの問題で隣り合うようにベッドが置かれていて、圧迫感が凄い。
寝顔が見られないようにベッドの間にパーテーションを設置してみたけど、よく見たら透ける素材でなんか逆に危ない雰囲気を醸し出している気がする。
紅茶を飲み干して、椅子の背もたれにもたれ掛かった。
思ったより重要だったクリストファーさんの話を遮って帰る勇気もなく、気が付けば予定していた時間ぎりぎり。
ダッシュで家に帰って来てすぐにノックがあって、ずっとバタバタしてたからやっと気が抜けた。
「ふぅ……お腹すいたねぇ。今から作るのも大変だし、外に食べ行かない?」
「カティ帰ってくるまで時間あったから、ロールキャベツ作ってみた」
「えぇっ!? シリルくん凄い! 女子力高い!」
「女子力……」
褒めたつもりなのに何故か落ち込んでいるシリルくんに首を傾げる。
何にせよ、すぐにご飯が食べられるのは嬉しい。
冷蔵庫から出された、美味しそうなロールキャベツにわたしのテンションは急上昇した。
疲れていたってことも原因として大いにあると思う。
気が付けばシリルくんに飛びついて、そのさらさらな頭を撫でていた。
「ちょっと、カティ!?」
「うわぁ、美味しそう! 早く食べよっ!」
口内に唾液が溢れてくる。
見ただけで分かる。これは、絶対美味しい。
同居を反対していたことなんて忘れて、むしろ彼が悪魔だってことも記憶の彼方へ追いやって喜んでいたわたしは、腕の中に納まっているシリルくんの顔が赤いことには気付かなかった。
「ご馳走様! 美味しかったぁ。毎日作ってもらいたいくらい」
デザートの林檎を齧りながら、そう感想を漏らす。
流石に林檎はわたしが剥いたけど、メイン料理を作らないでよかっただけで凄く楽だった。
美味しいし楽だしで、冗談抜きに毎日シリルくんが作ってくれたならどれだけ助かることだろうか。
そんな本音に気付いているのか、シリルくんが苦笑しながら林檎を齧る。しゃくっ、と小気味いい音が響いた。
「今日は特別。いつもはちょっと……」
「そっかぁ、残念。そういえば、お留守番してて何か困ったことはなかった?」
「特にないよ。……まぁ、材料さえあればたまにだったら僕がご飯作ってもいいけど」
「え!? ほんと?」
言ってみただけだったから正直期待してなかったけど、たまにならという条件で頷いてくれたシリルくん。これがツンデレか。
嬉しくて何度も確認してしまって、「うるさい」ってそっぽを向いてしまったけど。
「明日は何にしよっか。何が食べたい?」
「……オムライス」
「ふふ、りょーかい」
機嫌を窺うために明日の要望を聞くと、返ってきた子供らしいリクエストに思わず頬が緩んで、シリルくんを更に拗ねさせる結果になってしまった。