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03. 憑かれてる


「カティ、大丈夫? 顔色が悪いわ」

「いえ……ダイジョウブデス……」


 ()()()()()()先輩に取り繕うように笑顔を作る。

 無理矢理すぎて頬がかなり引き攣ってしまったけど、アリアナ先輩は何も聞かないでくれた。


 付いて来ると言ったシリルくんが姿を消して、すぐにアリアナ先輩が戻って来た。

 眠らされていたという先輩の記憶はすっぽりと抜け落ちていて、部屋の前で立ち尽くすわたしを不思議そうにしていた。

 アリアナ先輩と職場に戻っている間も、どこからか見られているんじゃないかと不安で気が気じゃない。


 今すぐ、この状況を説明して助けて欲しい。

 だけど話したら殺すと言われているし、アリアナ先輩は一度眠らされてしまっているし……。


 ――もしかして、クリストファーさんなら。


 一瞬、そんな希望が浮かんできたけれど、すぐにそれを打ち消した。

 シリルくんは依代を持たなくても人型をとれる――上級の悪魔なのはほぼ間違いない。

 クリストファーさんもかなり実力があるらしいけど、アリアナ先輩を簡単に眠らせてみせた彼に本当に勝てるのだろうか。

 その確証がないまま話して、もしも負けた場合――わたしのせいで死人が出ることになる。

 わたしだけが殺されるのなら、まぁ……嫌だけど、かんなーり嫌だけど!! 千歩くらい譲って仕方ないと考えてやってもいい。だけど、わたしのせいで誰かが死ぬのだけは絶対に嫌だ。一生後悔する。死んでも死にきれない。

 何も言わずに今の状況を伝える方法……むむむむむ。


「……カティ、貴方疲れているのね。報告は私一人でしておくから、今日はもう帰りなさい」


 疲れているというよりは憑かれて……え? ここで解散?


「ちょっ、ちょっと待ってください! わたしも一緒に――」

「いいのよ。明日はしっかり休んで、明後日また元気な姿を見せてちょうだい」

「あ、あぁ……」


 しまった。

考え事に集中しすぎて無意識にぶつぶつ呟いていたらしく、アリアナ先輩の天使が発動してしまった。

 このまま職場に戻ったら誰かが気付いてくれるかも、なんて期待してたのにっ……!

 天使の微笑みを浮かべて、わたしを残して歩き出したアリアナ先輩。

 縋る様にその背中に向かって手を伸ばすけど、一度も振り返らずに立ち去って行ってしまった。ガクッ。


「残念だったね」

「本当に――うわぁ!!」


 落胆しているわたしを励ましてくれるのは嬉しいけれど、急に、しかも問題の本人が現れるとか心臓に悪い。

 驚いたわたしを見て、一瞬呆けた表情を浮かべたシリルくんだったけど、すぐにクスクスと笑い始めた。笑っている姿は普通の男の子に見えて、悪魔だってことを忘れそうになる。


「そんなに驚くとは思わなかった」

「どこから――いや、やっぱり言わないで。それで、これからどうするの?」

「用事もなくなったみたいだし、家に帰るんじゃないの?」

「わたしは帰るけど? ……まさか」

「付いて行くって言ったじゃん」


 どこの世界にエクソシストの家にお邪魔する悪魔がいるんですか!? と声を大にして言いたい。

 愕然としているわたしを見て笑うシリルくんは笑い上戸なのかもしれない。

 ……最初の片言(カタコト)無表情よりは今の方がいいけれど、いくらなんでも笑いすぎじゃないか。


「ちょ、ちょっと待って! わたしの家に来て何するの!?」

「別に何も。ただ一緒に暮らすだけ」


 はっ!

 長時間一緒にいることでわたしから生命力を吸収するとか、わたしからエクソシストの情報を聞き出すことが魂胆なんじゃ……?


「な、何のために……?」

「何か勘違いしてるみたいだけど、……しいて言うなら、興味本位かな」

「えええ」


 そんなことのために、わたしは振り回されているのか……。

 肩を落とすわたしとは対照的に上機嫌のシリルくんが「早く」と急かしてくる。


「あ、そういえば名前は――」

「……内緒」


 今思い出したけど、悪魔に名前を知られたらいけないって、前にアリアナ先輩が言ってた気がする。

 さっきしっかりアリアナ先輩の名前言ってしまったけど……わたし、やらかしたっぽい?


「ふぅん? まぁいいや。それより早く行くよ」


 シリルくんは気にしてる様子もないし、話を蒸し返して思い出させてもいけないし……。

 どさくさで覚えていないことを願うしかない。


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