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27. 向かう先は


「ああっ! カイルさん洗濯物は全部出してって言ったじゃないですか!」

「ごめんごめん。うっかり忘れててさ」

「もう! こないだもそうだったじゃないですか。シリルくんを見習って、ちゃんと脱いだら籠に入れるようにしてください!」


 洗濯が終わってから出された服を受け取って、空になった籠へ放り込む。

 褒められたシリルくんがにやけながらカイルさんを見るのを横目に、既に洗い終わった分が入った籠を持って外へと向かう。

 三人分の服は只でさえ重いのに、濡れたことで更に重さを増して長時間持てない程になっていた。

 さすがに悪いと思ったのか、カイルさんが途中から持ってくれて、カイルさんと二人、一緒に庭に向かった。


「わっ、見て! すごい快晴」


 外へと一歩踏み出すと、視界いっぱいに雲一つない青空が目に入った。

 数ヶ月前から住むことになった家は町外れの小高い丘の上にあるため、視界を遮るものは何もない。

 文字通り、逃げるように引越してきたため前の家具も荷物も何も持って来れなかったけれど、必要な物はその都度カイルさんが買ってくれるし、特に持って来たかった物があるわけじゃないから不便はない。ただ、貧乏性なわたしとしては少し勿体ないなとは思うけれど。


 そのまま手伝ってくれるらしいカイルさんと一緒に、庭に張ったロープに洗濯物を干していく。


 この数ヶ月間、引越してきたばかりでバタバタしていたということもあるけど、わたしは仕事という仕事はせずに暮らしてきた。

 むしろ、二人の世話をするのが仕事みたいな。

 人間に扮して生活していたためある程度は一人でこなすシリルくんとは反対に、魔界でぼんぼんな生活をしていたカイルさんはほとんどを使用人にやらせていたらしく、あまり人間の生活について詳しくなかった。

 お隣さんをしていたときは部屋を見たことがなかったけど、たぶん生活らしい生活をしていなかったんじゃないかと思う。

 隣でわたしのやり方を真似して悪戦苦闘しながら服を干しているカイルさんがおかしくて、彼に気付かれないようにこっそりと笑みを零す。

 一緒に暮らしてみないと分からなかったことが少しずつ分かってきて、少し大変だとは思ったけれど一緒に暮らすことにしたことを後悔はしていない。


「僕も手伝うよ!」


 一人取り残されて退屈したのかシリルくんも家から出てきて三人で取り掛かかったから、あっという間に終わることが出来た。せっかく手伝ってくれたカイルさんに悪いから言わないけど、やっぱりシリルくんは頼りになる。


 新しい街には何度か行ってみたけど、小さな教会がある長閑な街で、前みたいにエクソシストの人たちはいないみたいだった。

 詳しくは分からないけど前の街からは距離が離れているらしく、追手が来る心配もなさそうだ。

 あんな別れ方になってしまって心苦しいし、申し訳なくも思うけれど、やっぱりわたしにはエクソシストは向いてなかったのだと思う。


「こんなに天気がいいんだし、今日は外で食べようよ」

「そうだな! じゃあ俺は何か適当に買ってくるわ」

「それじゃついでにお茶の葉をお願いします」

「了解。さっさと行って戻ってくるから」


 一瞬で姿が消えたカイルさん。

 街まで歩いて行くと一時間はかかるのに、彼らにかかれば一瞬で着いてしまう。

 こういうとき悪魔の能力って便利だなって思う。というかそう思うくらい慣れてきたわたしもおかしいけど。

 あと数分で戻ってくるだろうカイルさんを迎えるために、シリルくんと一緒に庭用のテーブルをセッティングしていく。

 結果こそああなってしまったけれど、初めてのピクニックがお気に召したらしいシリルくんの勧めで買ったもので、今日みたいな天気がいい日には重宝している。


 布巾で綺麗に拭ったテーブルの上に空のお皿を並べていく。飲み物は今朝搾ったばかりの山羊の乳。

 待ちきれないシリルくんが一杯飲み干したところで、大きな袋を抱えたカイルさんが戻ってきた。

 カイルさんが買ってきてくれたものを、それぞれのお皿に分けて食べる。

 カイルさんは相変わらずシリルくんにちょっかいをかけてシリルくんに睨まれたりしているけど、本当の兄弟だって知ってからはそれも微笑ましく思えてきたから不思議だ。

 いつもみたいに兄弟喧嘩を始めた二人をそろそろ止めるため、口を開こうとしたわたしの髪を一陣の風が攫った。

 干したシーツや洋服がはためいて、柔らかい匂いが鼻をくすぐる。


「…………ふふっ」


 悪魔とは、人を欺き破滅へと導く者――

 これはアリアナ先輩から教えられた言葉だけど、今の状況は周りから見たら”破滅”へと向かっているのかもしれない。

 悪魔と人間、本来相容れない種族であるわたしたちが一緒に暮らすことは、世間一般でいうと決して許されないことだろう。

 今まで悪魔を祓ってきたエクソシストにいたっては特に。


 ――――だけど。


 急に笑い出したわたしを不思議そうに見つめる二人に微笑む。


 だけどやっぱり、この生活を選んでよかったなぁ。

 



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