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24. 沈みゆく太陽


「何が、起こってるの……?」


 アリアナ先輩の呟きを掻き消すように、辺りの空気がざわざわと揺れる。

 これから何かとても恐ろしいものがやってくるような不穏な空気に、途轍もない恐怖が「逃げろ」と本能に訴えかけてくる。


 顔が青ざめたアリアナ先輩をジーナさんが支える。ボブ室長に至っては、腰が抜けたのかその場にひっくり返ってしまっている。

 そんな中でもクリストファーさんは意識を逸らさず、むしろ一層神経を張り詰めた表情でこちらを警戒していた。


「くっ……やっぱり、ムカつく…………」

「シリル、くん……?」


 詠唱していたエクソシストの人たちが倒れたからか、少し顔色が良くなったシリルくんがよろよろと立ち上がった。

 肩を貸そうと手を伸ばしたところで、それに気付いた。

 聖水が掛かり赤黒く爛れていた顔が、腕が、ゆっくりと再生していっている。

 治癒の経過を早送りで見ているような、人体の仕組みからかけ離れた光景に、わたしは一瞬、戸惑ってしまった。

 思わず手を止めたわたしに何を思ったのか、シリルくんは少し悲しげに微笑むと足元に投げ出された(バスケット)へと視線を落とす。


「ねえ、カティ。今日は本当に楽しかった。カティと過ごすなんてことない毎日が新鮮で、面白くて、……あったかくて。”生きてる”ってこういうことなんだって分かったんだ」

「シ、シリルくん? なにを――」

「だからね、忘れないで」


 そんな、まるでこれが最期の別れになるような言葉を告げるシリルくん。

 このまま最後の力を振り絞って闘うつもりなんだと察したわたしは、死なせるものかとその小さな体を思いっきり抱きしめた。


「ちょっ、カティ離して!」

「離さない!! 絶対離さないから! だから、だから……っ!」


 身を捩って抜け出そうとするけれど、そうはさせない。

 涙が溢れ出してきて視界がぼやけるし、この状況を打破する案だって思い付かないけど、絶対に離さないと決意を固めて腕に力を込める。


「――――カティは泣き虫だなぁ」

「……え?」


 やれやれとでも言いたげに肩を竦めながら現れたのは、カイルさんだった。

 倒れたエクソシストたちを踏み付けてこちらへ歩いてくる彼はシリルくんにちょっかいをかけるときのような笑みを浮かべていて、突然現れたにもかかわらずこの状況を楽しんでいるようにも見える。

 むしろ状況が分からないのはわたしの方で。


「え、……えっ? カイルさん? どうしてここに……?」

「そりゃ俺はカティの笑った顔が好きだからね。カティが困ってたら助けるのは当たり前だろ? それに、いつまでもシリルに抱き着かれててもムカつくしね」

「だ、だってそれはシリルくんが」

「心配しなくても、シリルは命を懸けて闘うなんてことはしないよ。俺を誘き出すのが目的だったんだから。むしろ拘束されて困ってるんじゃないかな」

「えぇっと……シリルくん?」


 なんでカイルさんを誘き出す必要が? と腕の力を抜いてシリルくんを見ると、シリルくんはバツが悪そうに視線を逸らすと小さく「ごめん」と謝ってきた。


「悔しいけど僕だけじゃ厳しかったから。……っていうかそもそもこいつのせいでこんな状況になってるんだからね!」

「そりゃあ悪かったね。ここの連中は無能ばかりかと思ってたけど、意外と出来るヤツもいたみたいだ」

「っ……!」


 カイルさんがクリストファーさんに視線を向けた。

 クリストファーさんは一瞬体を強ばらせると、まるで何かに動きを封じられているように目を見開いたまま動かなくなった。

 気が付けば、アリアナ先輩たちもクリストファーさん同様、動きがとれないみたいで、わたしたちの周りだけ時間が止まったように思える。


「どうなってるの……?」


 何が何だか分からなくなった。

 突然カイルさんがやって来て、シリルくんが言うにはこの状況はカイルさんのせいで――――?


「ははっ、混乱しているみたいだね。いいよ、説明してあげる。時間はたっぷりあるからね」


 沈んでいく太陽を眩しげに見つめると、カイルさんは柔らかい笑みを浮かべた。


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