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20. 解決と誤解


「えっ……向こうから、ですか?」


 夕方、任務を終えて教会に戻って来たわたしは早速、ランド課長に呼び出された。

 その方法がロッカーに「課長室に来るように」と書いたメモ紙を貼るというものだったため、事情を知らない人からの「何かやらかしたんじゃないのか」という好奇の視線が凄かった。

 ジーナさんなんて事情を知っているはずなのにやたらとニヤニヤした顔で見てくるし、唯一の救いはアリアナ先輩が心配そうに見つめてくれていたことか。


 今朝クリストファーさんと合流してのランド課長との話し合いでは、ランド課長がミーンソー卿を説得してみるということで締め括られた。

 「一応説得はしてみるが、あまり期待はするなよ」と言っていたけど、もしもう結論が出たのなら諦めるのが早すぎる。せめて数日は粘ってほしかった!

 なんて最初から肩を落とした状態で課長室に入ったわたしにかけられたのは、「あちらから断りの連絡が入った」との言葉だった。


 呆気にとられて復唱するわたしに頷くランド課長もどこか腑に落ちない表情をしている。

 何か思い当たることはあるかと聞かれても、わたし自身昨日から不安でいっぱいだったし、特に思い当たることなんてない。

 首を捻るわたしの様子に、何かを思いついたのかランド課長がニヤリと笑う。


「貴族になれなくて残念だったなぁ。貴族になれば意中の男を夫にするのも簡単だったかもしれんぞ?」

「え?」


 貴族になりたくなくて悩んでいたというのに、残念だったとはどういう意味なのだろう。

 しかも意中の男って? と真意を測りかねていると、ランド課長は「ほう」と何やら納得しているご様子。一人で納得してないで、わたしにも分かるように説明してほしい。

 そんなわたしの不満が伝わったのか、ランド課長は苦笑したあと「ああ、すまない」と恰好を崩した。


「君はクリスと仲がいいと聞いていたからな」

「クリストファーさん、ですか? はい、よくしてもらってますけど……?」

「彼はモテる。女性はああいう男が好きなのかと思っていたが……もしかして他に心に決めた男がいるのかな?」

「へ? 心に決めたって……え?」


 話の流れに混乱する。

 いつの間にわたしはランド課長と恋バナをする仲になったというのだ。

 なんて答えようか模索していると、ノックの音が響いた。


「ああ、男前がやって来てしまったようだ。残念だがこの話はまた今度じっくり話すとしよう」

「はぁ。失礼します……?」


 部屋に入ってきたクリストファーさんと入れ替わりに、課長室を退出したわたしはほっと息を吐いた。

 どっと疲れが出てすぐにでも座り込んでしまいたいけれど、今も課長室の中ではランド課長とクリストファーさんが話し込んでいて、ここにいたらなんだか聞き耳を立てているみたいでいやだ。

 決して二人の会話が気になるわけじゃないからね。ただ単に疲れているだけだから!

 ……というか、普通に考えて課長室の前に座り込んでいたら確実に怪しい人だし、しないけど。

 ただでさえランド課長と話すだけで緊張するのに、恋バナなんてどう話していいのか分からない。

 わたしは疲れて重い足取りで談話室へと向かうと、柔らかいソファに身を埋めた。


 今朝、街中で号泣するという失態を犯したわたしを、カイルさんは「仕方ないなぁ」なんて笑いながら最後まで慰めてくれた。

 カイルさんだって用事があってあんなに朝早く家を出ていたんだろうに、申し訳ないことをしてしまった。遅刻していないといいけど。

 そして今日の夜カイルさんが家に来て話を聞いてくれることになっているんだけど……気まずい。

 悩んでいた問題自体は解決したから明るい報告が出来るのは嬉しいんだけど、今までどんな顔をして話していたか分からなくなってしまった。

 今日の仕事は全部終わっていて、あとは帰るだけなのにその一歩を踏み出す前にカイルさんの顔が頭をちらついてなかなか踏み出せない。


「…………はぁああ」

「なーに? 彼氏と喧嘩でもした?」

「わっ、びっくりした。……彼氏なんていませんよー」


 誰もいないと思って吐いた盛大な溜息に返事が返ってきて驚く。

 どこからなのかときょろきょろ見回すと、ジーナさんが向かい側のソファーの影から現れた。手に本を持っているからそこで読んでいたんだろうけど、ちゃんとソファーに座って読めばいいのに。

 わたしの言いたいことに気付いたのか、ジーナさんはニヤリと笑うと「ここにいたらいろんな噂話が聞けんだよねー」とのこと。わたしも注意しないと。


「そんなことより、男だよオトコ。朝っぱらからあつーい抱擁する相手よ!」

「っ!?」


 恥ずかしさからカーッと顔に血が集まるのが分かる。

 まさか見られていたなんて思っていなくて、真っ白になった頭では上手い言い訳が思い付かない。

 「いやあれは」だの「あれは隣の」だのまごつくわたしの肩に、どこか悟った顔のジーナさんがぽんっと手を置いた。


「大丈夫、分かってるから。ちゃぁんとクリスには内緒にしといてあげる」


 絶対分かってないーっ!

 こういう場合に限って何も分かってないのは、クリストファーさんのときに身に染みた。

 なんでクリストファーさんに内緒にするのかは分からない、っていうか道端で泣いていたなんて恥ずかしいこと誰にも言わないでほしいわけで。


 わたしは誤解を正すため、囃し立てるジーナさん相手にこの後何回も今朝の成り行きを説明することになった。

 


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