18. 厄介な人物
「はぁああ……」
祝賀会から帰ってきてから何度目かの溜息がもれる。
ミーンソー卿が立ち去って、すっかり微妙な雰囲気になった会はお開きになった。
あれだけ二次会だの騒いでいたジーナさんは、相棒が潰れたからかその微妙な空気を察知してなのか、すっかり静かになってアリアナ先輩と共に帰って行った。
ボブ室長をクリストファーさんと一緒に家まで送り届けた後、わたしの家まで送ってくれる道すがらクリストファーさんから聞いた話だと、ミーンソー卿は随分と厄介な人物らしい。
教会の出資者らしい彼は、他の出資者に負けないように張り合う基質があるらしく、今までも新人の女性エクソシストを愛人にと提案したり、身分をかさに着て身勝手な要求を通したりとやりたい放題しているらしい。
明日朝一番にランド課長に話して、何としてでも守るからとクリストファーさんは言ってくれたけど、相手はお貴族様。いくらエクソシストとして地位のあるクリストファーさんでも難しい話だろう。
「…………はぁぁあ」
なんとかこの状況を解決出来るような案をと頭を捻るけれど、考えれば考える程打開策なんてないような気さえしてくる。
「ねえ、カティ。何を悩んでるのか知らないけど、お風呂入ってきたら? 気分もすっきりするかもよ」
「うん、……そうだね」
何度も溜息をつくわたしを心配そうに見つめるシリルくん。でもごめんよ。今話している余裕ないんだ。
「明日も仕事でしょ? 遅刻しても知らないよ」
「うん、……そうだね」
「…………そんなに悩むくらいなら、原因作ったヤツを殺してあげようか?」
「うん、……そうだ――――だ、ダメッ!! 殺しちゃダメ、絶対!」
危ない。
上の空のまま思わず頷いてしまうところだったわたしをシリルくんがくすくす笑う。
ほ、本気じゃないよね? 冗談で言っただけだよね?
すっかり忘れていたけど、シリルくんは上位の悪魔で、彼の気分次第で人間に危害をくわえることなんてお手の物なのだ。
エクソシストになったばかりのわたしは勝てる気がしないし、アリアナ先輩でさえ気付かぬ内に眠らされていたくらいだから、貴族とはいえただの人なミーンソー卿なんて足下にも及ばないだろう。
それこそ片手でひょい、いやデコピンレベルで充分かもしれない。
シリルくんがテカテカ頭のミーンソー卿にデコピンする姿を思い浮かべて吹き出したわたしに、シリルくんが首を傾げた。
「何を想像したの?」
「ふふっ、何でもないよっ! ねぇシリルくん。お風呂上がったら少し相談乗ってもらっていいかな?」
「別にいいけど」
一人で考え込んでも埒が明かないなら、誰かに相談すればいい。
エミリーちゃんの件で彼の意見が参考になったことを思い出す。
シリルくんは幼く見えて意外と長生きしているらしいし、わたしとは違う切り口で考えて、いい案を見つけてくれるかもしれない。
シリルくんはわたしが笑った理由をはぐらかしたことに納得がいってないみたいだけど、頼られて満更でもなさそうに少し口端が上がっている。
未だ状況は何も変わっていないはずなのに、何故か心は軽くなっているのだから不思議だ。
そうと決まったら時間が惜しい。わたしは自然と緩む頬を抑えて足早に風呂場へと向かった。