13. お祝い
下準備を済ませたお肉をシリルくんが焼いてくれている間にテーブルの上を片付けていく。
焼けたお肉の美味しそうな匂いが部屋に充満したころ、見計らったかのようにノックの音が響いた。
「いやぁ、今日も美味しそうな匂い――――って、シリル!?」
三日に一回は晩御飯を食べに来るようになったカイルさんが台所に立つシリルくんの姿に驚愕している。
そういえば前回作ってくれたときカイルさんいなかったなぁ、なんて納得するわたしの横で「えっ、大丈夫なの、これ。ちゃんと食べ物出てくる?」と困惑しながらも非常に失礼なことをのたまった。
それを聞いてむっとしたシリルくんが言い返すよりも早く、気が付けばわたしが口を開いていた。
「当たり前じゃないですか! シリルくんの料理はすっごく美味しいんですからっ」
文句があるなら帰ってくれと捲し立てるわたしに、カイルさんは慌てて謝ってくれたけど謝る相手を間違えている。せっかくシリルくんが作ってくれているのに、嫌な思いをさせるのは許せない。
「わ、悪い、シリル」
わたしの剣幕に押されてか、若干狼狽えながら謝ったカイルさん。満足気に頷くわたしとは対照的に、何故か嫌な思いをしたはずのシリルくんはぽかんと口を開けてカイルさんを見つめていた。
「……シリルくん?」
「えっ……し、仕方ないなぁ。今回だけだからね。次そんなこと言ったらあんたの分作らないから」
自分に視線が集まっていると気付いたシリルくんがはっとした様子でそう吐き捨て、そっぽを向いた。だけどその横顔は赤く色付いていて、思わず顔を見合わせたわたしとカイルさんは二人して噴き出してしまった。
◇◇◇◇◇
「あー、本当に美味しかった。意外な特技があったもんだね」
ステーキを平らげたカイルさんがシリルくんを褒めるけど、その顔はにやけていて素直に喜べるものではない。案の定、むっとしたシリルくんに「うるさい」と突っかかられていて苦笑が漏れる。
「まぁまぁ、甘いもの食べて落ち着こう。わたし紅茶用意するね」
「え、まだ何かあるの?」
「はい! わたしが仕事で一人前になったお祝いに、シリルくんがケーキ作ってくれたんですよ」
食後のケーキのことを聞かされていなかったカイルさんが驚いた顔をする。
そういえば、わたしは知ってたからケーキ食べる分を空けてご飯食べたけど、カイルさんは大丈夫かな。
「へぇ、そうなんだ。おめでとう、カティ。エクソシストも大変だろうけど、頑張ってね」
「はい! ……えっ!?」
思わず返事してしまったけど、カイルさんにはわたしの仕事の話はしていないはず。なんで知っているのかと胡乱気に見つめるわたしに気付いたのか、カイルさんは「あれ、違った?」と首を傾げた。
「こないだ街でカティを見かけたんだけど、あの制服ってエクソシストのじゃなかったっけ?」
「いや、そうなんですけど……」
正直、働いているわたしからしても得体の知れない職業だと思うし、気味悪がられても仕方ない。世間の評判なんてのを考えると、あまり知られたくなかったってのが本音だ。
尻すぼみになっていくわたしの言葉に、カイルさんは不思議そうにしている。
「カティ、紅茶まだー?」
「わっ、待って。すぐ淹れる!」
困っているわたしを見かねて出してくれたシリルくんの救いの手を掴む。
もし、救いの手とやらが実際に見えていたなら、風を切るような、それこそカイルさんに引かれるようなものすごい勢いで掴んでいたと思う。
その後もカイルさんは特に気にした様子もなく、シリルくんにちょっかいをかけては喧嘩してみたり、意外と大食いで残りのホールケーキをペロリと平らげたのに驚いたり、いつもと変わらない態度にわたしはほっと息を吐いた。