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01. 見習いエクソシスト


 暗く狭い部屋だ。

 一つしかない窓に掛けられたカーテンはずたずたに引き千切られ、微かに侵入した西日がシミだらけの壁を照らしている。

 中央に置かれた小さなベッドには、四肢を縛り付けられた女が。

 その見開かれた瞳は隣に立つ黒い服の男へと向けられていて、歯を剥き出し、人間とは思えない唸り声を上げている。

 自分で引き抜いたのか、長いブロンドの髪は斑に抜け落ち、地肌からは血が滲んでいる。


 男が流れるように何かを唱えると、女は苦しみ暴れだした。

 逃げようともがく女を押さえ付ける様に、額に十字架を押し付け――


「主よ。忌まわしき悪魔から、この哀れな子猫ちゃんを救いたまえ」



 ――……ないわー。

 目覚ましの音で目が覚めたわたしは、鳥肌の立った腕を擦る。

 子猫ちゃんってなんだよ、せめて子羊だろ。

 一月前の仕事の夢なんて見たわたしの気分は最悪だ。

 あんな台詞でも結局、悪魔は女性から出ていったんだけど……主よ、本当にそれでよいのですか。


 世の中にいろいろな職業がある中で、わたしの選んだのはかなり特殊な部類だろう。

 エクソシストの事務系サポート係。

 サポートもサポート。かなり裏方の仕事だけど、悪魔という得体の知れないものに関わりたくないからか人気はなくて、そして給料がかなり高い。

 正直、エクソシストってものをあまり知らなかったし、信仰心も大して持ってなかったけれど、職のなかったわたしはすぐに飛びついた。世の中金だ。

 毎日定時に帰れて、安全な建物の中で書類仕事。

 人生ちょろいと思っていたわたしは、その日も現場までの地図を黒い服の男――クリストファーさんに渡して帰ろうと思っていた。

 それなのに何故か。わたしはお茶に誘われるみたいに自然に現場へと連れて行かれていた。

 初めて見る悪魔祓いの現場に、その日は眠れなかった。

 寝不足のまま職場に向かうと、待っていたのは人事異動の報せ。

 花形とも言えるエクソシスト見習いになったわたしは、サポート係の同僚たちから盛大に祝福されたけれど、全くもって嬉しくない。

 代われるなら代わりたいくらいだった。


 エクソシスト見習いとして働きだしたわたしは、先輩エクソシストに付いて現場まで行き、帰って来ては復習する、とても忙しい日々を送っていた。

 事務職とは天と地の差。天国と地獄だ。

 給料はもっと高くなったけど休みがない。

 ああ、……転職したい。


 唯一救われたのは、教えてくれる先輩がクリストファーさんじゃなくなったこと。

 あんな性格でも、エクソシストとしての実力は高いクリストファーさんが教えてくれることは光栄なことだって分かってるけど。分かっているけど……彼はどうもわたしとは馬が合わない。

 この地獄に引っ張り込んだ張本人だってのも大きな理由だけど、一番はやっぱりあの気障な性格。三日も一緒に居たら、わたしの方が悪魔憑きみたいにおかしくなっていただろう。

 クリストファーさんの代わりにわたしに付いてくれたアリアナ先輩は、美人だし優しいしで文句なしの理想の先輩だ。

 アリアナ先輩じゃなかったら一月ももたなかったと自信を持って言える。


「カティ? 何か悩み事?」

「あ、アリアナ先輩! おはようございます!」


 噂をすれば何とやら。

 今日も美しいアリアナ先輩が心配そうにわたしを見ていた。

 考え事している間に気付けば職場まで来ていたわたしには、しっかり社畜根性が染み付いていると思う。


「大丈夫? 無理してない?」

「いえっ、大丈夫です!」

「今日は――二件入っているから無理だけど、明日は一件だけだから休んでいいわ。上には私から言っておくから」

「本当ですか!? やったー!! ありがとうございます、アリアナ先輩っ!」


 飛び跳ねて喜ぶわたしを優しい顔で見つめるアリアナ先輩マジ天使。

 元気になったわたしは早速アリアナ先輩に続いて一件目の現場へと向かった。


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