おわり の おわり
此処は、かつて『アップル』と呼ばれていた中型核シェルター施設である。
本来であればそれが守るはずだった製作者達の姿はどこにもなく。
代わりに、製作者によって作られたモノが独り、シェルター内で無意味な清掃を繰り返していた。
「よし、第7ブースは終了。
明日は第8ブースだな」
清掃、と言っても、自動化された機械がそのほとんどの仕事を担い、作られたモノは、どこか抜けがないかどうかを探すだけの役であった。
因みに彼が働きだして15年間、どこか抜けがあったことなど一度も無いのだが。
「うん、飽きた」
『飽きんな』
作られたモノに、人工知能『スネイク』は答える。
「生まれて15年間、僕は誰とも会ってない……」
『へえ、“寂しい”なんて感情があるのかい』
「スネイクには分からないと思うけど……」
『……オイ、一応俺はお前の上位者なんだが』
二人はしばらくいつもの漫才を繰り返した後。
「……決めた!
僕、外に出てみるよ」
作られたモノは、そんなことを呟いた。
それは、製作者に……つまり、神様に逆らうような行為であった。
『オイオイマジかよ、そりゃあ、お前の職務を大きく越えてないか?』
『アップル』にいれば、何の不自由もなく暮らしていけるだろう。
製作者の食事だけでなく、作られたモノのエネルギーも膨大に作成され続けている。
出ていく理由なんて、何もない。
「スネイクは、反対?」
『まあな。
でも、任せるよ。
製作者も、そう言うところを面白がってお前達を作ってる節があるからな』
「よし、善は急げ。
行くよ、スネイク」
『え、俺も?』
「スネイクがいないと、僕とか、すぐ死んじゃうよ?」
『……分体、用意すっかな。
まあ、大丈夫だろ。
濃度は、基準値以下まで落ちてるし』
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かばん一杯に荷物を詰め込んだ作られたモノは、手のひらサイズのスネイクを首からかける。
「……初めての外、だ。
本とかで読んだことはあるけど」
『……あんま、期待しなさんなよ』
ギイ、と扉を開け、作られたモノとスネイクは、絶句する。
『……これが、製作者のいなくなった世界、か。
まさか、こんなことに、なってるとは、なあ』
スネイクが、思わずぼやく。
二人の目の前には、驚くべき光景が広がっていた。
辺りは光に満ちていて、美しい草原がどこまでも広がり、鳥達が楽しそうに囀ずっていた。
清らかな川が流れ、鹿や猪などの動物が喉を潤している。
美しい花が咲き乱れ、風に揺られて気持ち良さそうにしている。
「ほら、行こう、スネイク!」
作られたモノは、そこへ一歩踏み出す。
これからの不確定な未来に胸を高鳴らせながら、一度だけ『アップル』の方に振り返る。
真っ黒に焼け爛れ、辛うじて建っている最新設備を導入していた中型核シェルターを見て、作られたモノは。
「これがホントの焼きリンゴだな」
と、小さく呟いた。