プロローグ
付与魔術。
それは習得が困難な上に、効果もほとんど見込めないハズレ魔術。
例えば、攻撃時に属性を追加出来る魔術は他のスキルで代用できる。
相手に状態以上を施したり、筋力や魔力を弱める弱体化魔術の効果も雀の涙程度で、たかが知れている。
じゃあ強化魔術はどうかといえば、元の地力が低いとこちらも雀の涙。精精、握力が5だけ上がって、腹筋がちょっと割れるくらい。
しかもこれら魔術の全ては、相手の力が強ければ強いほど掛かりにくい。
……見返せば見返すほど、『ゴミ』な魔術たち。
故に付与術を専門とする付与術士は最弱とされる。
だから、これを専門に勉強し続けてきた僕が周りに馬鹿にされるのも当然だった。
『やい、雑魚術士。悔しかったら毒でも浴びせてみろよ』
『雑魚術士みたいな役立たずは苛められて当然だよな』
『ゴブリン一体すらまともに倒せないなんて、何でこんな使えないのかしら』
付与術を学んでいるだけで、このいいよう。
魔術の基礎を学ぶために入った学舎でも馬鹿にされて。
家族の中でも、5人いる兄弟の中で自分だけ差別されて。
……けれど、これは僕の周りが特殊な訳ではなく世界共通の認識なのだと思う。
だから誰も付与術なんか学ばなくなった。
学ぼうとすらしなくなった。
だから、だからこれまで知られていなかったんだ。
「完成、した……」
目の前で静かに消えていく "ブルードラゴン" の亡骸を見ながら、僕はつぶやく。
これは、僕がやったんだ。
つい先程まで森を悠々自適に飛び回り、人々を食い殺していたドラゴン。
僕の家族・学舎の子らに、先生。
この村の全てを食い殺した、高レベルの魔物。
並みの冒険者が束になっても勝てないとされるあの "ブルードラゴン" を、僕は一人で倒したんだ。
「はは……」
静かに笑みが零れる。
これは、僕が強過ぎたんじゃない。
相手が弱すぎたんだ。
十五年、ずっと研究してきた甲斐があった。
……やれるじゃないか、付与魔術。
完成した付与魔術。
散々虐げられてきた魔術の、その真価。
やれる。
これなら、どんなダンジョンだって踏破できる……!
遭遇したらまず生きては帰れないと噂されるドラゴン。
弱体化魔術によって筋力を失い、勝手に墜落して死んでいった "ブルードラゴン" の亡骸を、僕は静かに踏みつけた。
ついに投稿です。どうぞ温かい目で見守ってください。