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星降る街に傘はいらない  作者: 木下 結佳
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1話 薄暮

俺の名は霧矢一臣(きりや かずおみ)

IQは180くらい、少しだけ武術を嗜んでいる。何事も卒なくこなすが、世の中の物事には興味が無いので冷めた人間だとよく思われるのが唯一の短所だ。普段は頭の良さも腕の強さも隠しているから、初対面の人間からはナメられる時もある。まぁ、今ではそいつら(ざっと80人くらいか?)は俺のご機嫌取りに勤しんでいるがな。


と、ここで4時限目の終わりを告げるチャイムが鳴った。俺は頭の中で妄想設定を練るのを惜しみつつもや止めざるを得なかった。授業中は人の目が気にならない安息の時間。しかしそれが終わってしまえば、俺にとって気の休まらない休み時間に突入する。

落ち着かずそわそわしていると、


「……………」


トン、と遠慮がちに俺の机の向かいに弁当が置かれた。細川だ。いつもコイツと弁当を食べている。コイツは俺の事をどうせ親友だとか思ってるんだろうが、俺にとっては弁当を1人で食ってるやつだと思われない為の要員に過ぎないのに。哀れなやつ。

お互い背中を丸めながら、弁当を周りから隠すように食べる。


「…………アイツ、キモくない?」


「わかるわかる!!動きがでしょ!?うぇー」


「動きもだけど、まず顔ね(笑)」


「今日とかさぁ」


ドクリ、と全身の神経が一気にそちらに集中する。そちらというのは自分の2つ後ろの席で飯を食べている女4人組。つぅーっと脂汗が額から流れ、手足の指先が冷えて痺れてくる。


「陰木、大丈夫か?」


細川が尋ねる。コイツが最近陽キャぶった話し方をするのが気に入らない。

大丈夫だ。あの女達が言っているのは俺のことではない。そうだ、俺よりクラスカーストの低い奴くらいいるだろう。俺じゃない俺じゃない。

それにしても、俺が本気出したらお前らなんかワンパンで泣かせられるのにな。女が群れて言っている人を貶める中身のない話より俺の方がよっぽど建設的な話が出来るね。


「俺きょ今日寝てねーからさ、ちょっとしんどいわ、ほ保健室行った方がここは頭の良い判断と言えるだろうね、すまん」


そう言って俺は、皆が食べ終わって外へ遊びに行き、教室の人口がなるべく少なくなったタイミングで保健室へ行った。




保健室で、目の前がチカチカする、手足が痺れると言えば早退の許可が降りた。“過呼吸”で早退出来る事を知っていたからだ。



教室まで荷物を取りに戻った。

大半のクラスメイトが次の授業の準備をして先生が来るのを待っていた。足が少し震えたが、早足で自分の席に向かい通学鞄を取って早々と教室の外へ出た。ミッションコンプリートだ。俺に声をかける奴がたまたまいなかったおかげで目立たずに任務を遂行できたぞ。




家に帰ってきたのは14時、専業主婦の母親が何か言ってきたがこちらが言い返すと眉根を少し下げた様子でリビングに戻った。働いてないくせに偉そうだから困る。

廊下をドシドシと音を立てて歩き、自分の部屋に戻ってパソコンの電源をつけつつ部屋着に着替える。動画サイトをふらふらしつつ、アップロードされている今期のアニメを見る。都会に住んでれば見たいアニメも見れるのに。


「今期は異世界転生モノばっかりじゃねぇか」


ぼそぼそと画面に向かって愚痴を言う。そうは言いつつも、嫌いではない。というのも、それらは自分の妄想の糧になるからだ。つい最近まで全ての元素を操れて現代で無双していた霧矢一臣も、今ではアニメの異世界の一員でヒロイン達の通う学園一のイケメンだったのだ。


「はぁー異世界行きてぇなー……」


こう、いきなり幻獣が現れて「私達の世界を救ってくださいっ!」みたいな。ヒロイン達に囲まれて、えーーと、6人くらいかな、少ないか?

そんな妄想に浸りながらもう20分も経った様で、画面にはオススメ動画の紹介が示されていた。

ふぅ、と溜息をついて背筋を伸ばす。肩が凝って痛い。ふと視界に紙切れが入る。明日提出の学校の課題だ。1週間前に配布されたがとうとうやらずに今日になってしまった。数分思案した後、明日も休めばいいやと結論づけた。だいたい、勉強なんてしなくても余裕だし?受験期にやれば間に合うから。今必死こいて定期テストでいい点取ろうとしてる奴とか哀れ過ぎ。優等生気取りたいだけだろ。てかどうせ受験期に復習しなきゃならないなら無駄な事じゃん。俺は時間を趣味にも割ける、充実した人生を歩める効率的な人間ってところか?


とりあえず、スマホ片手にベッドに寝転ぶ。クラスメイトのSNSが更新されていないか一通り見た後、別垢で書き込む。『運動部とか頭悪いヤツしかいねぇだろ。俺帰宅部だけど本気出して無いのにそいつらより成績いいわ。』『中学のとき喧嘩でテッペン取った人のアカウントはこちらです(見た目は小動物系とよく言われる)』『俺グロ画像とか得意なんだよね、何て言うんだろ、嫌とかキモイとかじゃなくて、ふーん。みたいな?ホント自分無関心すぎw』


かれこれ2時間こうしているうちに、小腹が減ったので何か食べ物はないかと部屋を出てスマホ片手にリビングに向かう。


(母ちゃん居ないのか……?)


電気も消え明らかにしんとしている廊下を歩き、リビングの扉に手をかける。


開く。


「わ、───っ!!!」


それは外の景色だった。外、と言っても自分がかつて見たこともない景色。人々が目の前を行き交っている。カタカタと機械のように首を回わし後ろを振り向けば、扉もましてや今まで歩いてきた廊下すら無かった。


「こ、れ、これ、ここここは、、」


まるで現代日本とは思えない、さながら中世ヨーロッパのような街、人びとの服装、道具。

脳裏によぎったのは『異世界』という文字。ホントに、俺、異世界に居るのか……?

不安か恐怖か、それとも高揚からか、俺の心臓はドクドクと激しい鼓動を続けていた。


これは神から特殊能力を授かるパターンか?

それとも自分の知識をウリに出世パターンか?


ともかく、ぷるぷると足を震わせながらこの大通りから逸れて小路に入る。まずは計画だ。




──異世界生活[開始]───

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