表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

存在する筈だった物体と在りもしなかった少女の物語

作者: まみすけ
掲載日:2016/09/27

「こんな所で、出会わなけりゃよかった。」

行きずりの眼の美しい青年は、ちょっと淋しそうに微笑みながら言った。

まゆは答えに困った。―こんな所って、どういう意味よ?

そこは、さびれた田舎の商店街の片隅にあるガールズバーだった。女の子たちは色とりどりの下着だけで接客をする、どうしようもない屑のような客がやってくる、ランジェリークラブパピヨン。まゆは友達に誘われてそこで働きはじめて三ヶ月になる。まゆはそもそも男と付き合ったことが一度もなかった。時給三千五百円。それにつられてやってきた、サブカル好きのピンクの髪の毛の女の子、それがまゆだった。他の女の子たちは、決まりの様に栗色のロングヘアーをクルクルに巻いてある、今どきのギャルである。明らかにまゆはそこで浮いた存在だ。そんなまゆが珍しいのか、客はまゆ目当てでやってきた。

こうすけはその日むしゃくしゃしていた。何をしてもうまくいかないこの世の中に嫌気がさしていた。仕事もうまくいかない、バンドも解散の危機、恋人とは些細な事で喧嘩して、おまけに財布には四千七百五十二円しかない。給料日までまだ二週間もある。そうか、死ねばいい。死んだらもう何も心配いらない、さあ死のう、ああ、死ぬ前に何か楽しい事でもしようじゃないか。そしてふと立ち止まり見上げると、そこにあったのだ、ランジェリークラブパピヨン。店の前でチリチリのパーマをかけたいかにも整形しています!という風貌のおばさんが言った、三千円、ぽっきりよー。ピンクとムラサキのライトが妖しげに光る店内に案内されると、こうすけは一匹の蝶を見つけた。それがまゆだった。おかっぱにしたピンクの髪は地毛だろうか?それとも鬘なのか?黒いベルベットのランジェリーに身を包んだ彼女の胸元にはムラサキアゲハのタトゥーが施してあった。本物だろうか?それともシール?

「おばちゃん、俺あの子と話したい。」

あらかじめ存在しない、あなただった筈の物体が無数に存在することを想像しよう。

在りもしなかったはずの物体が、あなたとしてこの世でノコノコと存在している矛盾、というかそんな物の事を考えた時、あなたの世界は一つ終わるのです。

今日死ぬはずだったこうすけという存在は、その後も存在する予定だったまゆという物体によって死を逃れました。まゆは今日死ぬ筈だったこうすけの話を聞いて、自分の存在理由に疑問を感じたのでしょう。夜明けの海岸で水死体になって発見されたのはちょうどこうすけが人気バンドのベースに引き抜かれた日でした。このちょっとのきっかけで沢山の事柄が変わってしまうのです。

ちょっとだけ、話を戻してみましょう。仮にもし、二人がランジェリークラブパピヨンでなく、他の場所で出会っていたとしたら?

可能性は大いにあります。二人が生きている可能性、二人が子供を産んで存在し得なかった物体の存在が生じる事、二人が心中して本来の無意味が意味を成し、或いは二人が殺人を犯しあらゆる可能性を抹消してしまう矛盾。

よく解らないでしょう?いいんです、これはこれで。だって今あなたがここに存在している事が問題であって、私が存在している矛盾なのですから。それからもう一つ、今日はスーパー上岡の卵が特売なのですよ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ