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プロローグ

『私の発明は、すべての人にとって役に立つ物でありたい。

 そして、世界の平和に貢献するようなものでありたい。

 もし私の発明で一人でも人が死んだとしたら、私には人生を生きる意味も資格もない』




アメリカの発明家、トーマス・エジソンのありがたいお言葉を呟きながら俺は目を開く。


「言いたいことはそれだけかしら?」


そこには冷めた目で俺を見下ろす一人の美少女の姿があった。いや、美少女は言い過ぎた。

閑散とした室内には俺とそいつ以外の時は止まっているかのような錯覚を受ける。

港南学園科学A教室。放課後はわが城となるはずのその教室で俺、杉本京太は無様にも正座させられていた。


「ちょっとあんた聞いてんの?」


俺が装備していた鉄の武装を素手で無力化し、あまつさえこの身を拘束したこの赤髪ツインテールの名は御木本ミキ。略してミキミキとかいう些細な問題は今はおいておこう。


「しっかしよくもまぁ次から次へとこんなもん作るわね〜」


そう言うと奴は俺の魂ともいえる発明品を舐め回すように視姦する。


「貴様ァ!汚い手で触るなこの痴女が!」


「はぁ? 誰が痴女よ。あんた自分のこと棚に上げて――――」


「ええい、うるさい!この敷地内で最高権力を誇る我をこんな目に遭わせるなどもってのほかだ!国家反逆罪で処刑するぞ!」


くそ……こんなことをしていても埒が明かん。何とかして援軍を呼ばねば。そして発明品を奪還せねば……。

その時俺の祈りが届いたのか否か。

部室の戸が開き、まばゆきオーラと共に一人の美少女が姿を現した。

(今度こそ美少女です。)


「こんにちわー。 ってどうしたんですか?先輩達」


柔らかな茶色い髪、ほのかな甘い香り、くっきりとした大きな目、まるで声優がアフレコしてるかのような透き通った声、そしてそのたわわに実った……。


「どうもこうもないわ」


御木本は吐き捨てるように言う。


「いつものわいせつ物回収作業を行っていただけよ」


ふん、わいせつ物回収作業?変態かこの女。

そしてそれを聞いて俺に問いかける美少女。


「えと部長、今日は何をしちゃったんですか?」


亜麻色の髪の乙女は沈痛な眼差しをこちらに向ける。

部長とは言うまでもなく俺のことである。まぁ俺の人望と能力、天性のなんたるかを考えると当然の地位であろう。

そしてこの少女の名は鈴木ハルカちゃん。

うーんまさに天使。隣にいるサタンとは大違いである。


「こいつったらこれでパンツ覗いてたのよ」


御木本はこちらを顎で指すと、昨夜開発した俺の新たな相棒『ガールズパンチャー』を天使ハルカにまじまじと見せつける。


「愚か者!我が部の女神、ハルカにそんなものを見せ付けるな!

 気は確かか貴様!」

「そんなものって生みの親はあんたでしょうが」


やれやれといった様子で呆れる御木本。ハルカちゃんは御木本が手にしている鉄の物質を見て首をかしげる。くぁわいい。


「何ですか? このスコープみたいなの」

「よくぞ聞いてくれた!これはガールズパンチャーといって封筒やカバンの中身などを透けて見ることができる画期的な発明品だ!」


そうこれを使えばあんなところやそんなところも……。

悪い子のみんななら言わずとも分かるよね?グフフ。


「先輩、ソレヲ使ッテ一体ナニヲ……?」


気が付くとハルカ嬢は俺を奇異の眼差しで見つめていた。

あぁやめて!そんな湯切りに失敗して台所にぶちまけられたカップ焼きそばを見るような目で見ないで……。

でもハルカちゃんのそういう顔もこれはこれでそそるなぁ。

鼻の下を伸ばす俺だったが、すかさず御木本の戯言が発動する。


「あんたが何を発明しようが勝手だけどね、せめて部のみんなに迷惑のかからないように外でやりなさいよ」

「バカ野郎!外でやったら通報されるだろうが!」


常識を知れ常識を。


「ええそうよ!さっさと逮捕されてくれると助かるわ」

「言わせておけば……」


こいつには血も涙もないのか?


「まぁまぁ、二人共もうその辺で」


ハルカちゃんはここぞとばかりに俺とミキをなだめる。

仲介役が務まるのはこの部では唯一の常識人、ハルカちゃんだけなのである。


「おいーす♪」


とそこへ部室の扉が開き、身長180はあるであろう巨漢が現れる。

こいつの名は大吾朗。この部では俺を除いて唯一の男子部員であり、俺が最も信頼をおく人物である。

むしろ俺が裏切ることの方が多いぐらいだ。


「あれ?お邪魔だったか?何か修羅場ってるけど」


大吾朗は何かに怯えるハルカちゃんと正座させられてる俺、さらにゴリラ……じゃなくて御木本の姿をその目に確認すると状況確認を求めてきた。


「聞いてくれ大吾朗。御木本が何を血迷ったか俺に襲い掛かってきやがったんだ。性的な意味で」


御木本は「は?」みたいな顔をしているが、俺のアダルトグッズを奪う為に襲い掛かってきたのだから語弊はあるまい。

そしてそれを聞いた大吾朗は目を丸くして御木本と俺を交互に一瞥する。いや、二度見した。


「み、御木本……どんだけ飢えてんだよ。欲求不満だからってよりよって京也を相手に選ぶなんて……」

「あ、あんたらねぇ……」


驚愕する大吾朗をよそに怒りと呆れの入り混じった豚のような顔をする御木本。

そしていきなり繰り広げられたアダルティな会話に目を点にするハルカちゃん。俺と大吾朗をしばらく見つめると、眉間に皺を寄せた表情を首ごとくるりと御木本に向け、


「へ、へぇ、御木本先輩って欲求不満だったんですね……」

「いや、なんでそうなるかな」


今度はハルカ嬢にまで困惑の顔をされる御木本。ハハハ見たか。この世に悪の栄えた試しはないのだよ。


「とりあえずこいつは没収! ていうか私が木っ端微塵にするわ、今ここで!」


まずい!!

とうとう堪忍袋の尾が切れたのか、御木本は発明品の破壊体勢に入る。


「大吾朗! 奴を止めろ!」


俺は相棒に助けを求める。

頼む大吾朗、あいつに腕力でかなうのはお前しかいないんだ!


「何だよ藪から棒に。ていうか何でお前正座してんの?」


そうだ、何で大人しく正座させられてんだ?バカか俺は。

俺は立ち上がる。よっこいしょうきち。


しかし殺意みなぎる御木本をよそに大吾朗は呑気にもあくびをしている。


「ふぁ~愛情の裏返しか知らねーけどいじめはよくねーぜ、御木本」

「こんな変態に愛情なんて感じるわけないでしょ。あとこれ、パンツ覗くためのわいせつ物だから」

「何!? パンツ!?」


ちっやっと事の重大さが分かったか。


「そうだよ大吾朗。俺が以前話したガールズパンチャーがつい数分前に完成してな。まぁこのザマだ」

「バカ野郎、何で安々と奪われてんだ! 御木本に見つかる前にせめて俺にも一度使わせるのが礼儀ってもんだろ」

「あぁ、俺が甘かったよ。いくら性能を試してみたかったとは言え、よりにもよってこいつを被験体に使ってしまうとはな」

「何であたしは終始悪者になってんのよ」


男のロマンという名の奪還体勢に入る俺と大吾朗。


「大体なんでそんな簡単に見つかっちまったんだ?」

「やはり覗ける射程が30cmというのは改善の余地ありといったところか」

「うわ、いらね〜!!それもうスカートめくった方が早いじゃねーか」

「バカ野郎!!めくったら犯罪だろうが!!」


白熱の議論を展開する俺と大吾朗をよそに、呆れた顔をした御木本は机の上の人物を見やる。


「ねぇ、丹羽さんも何か言ってやってよ」


くっ、とうとう奴も援軍を呼んだか。

つか丹羽先輩の存在すっかり忘れてたぜ。存在薄いからね。


俺が御木本の下着を覗き、拘束されても何食わぬ顔で本を読んでいた彼女の名は丹羽哲子。

年は俺の一つ上で、ロングな黒髪が良く似合い、基本的に無口で表情を変えないクールビューティーな先輩だ。その容姿に加えて知能指数もかなり高く、発明部では俺の次に優秀といっても過言ではない。

あとぶっちゃけて言うとガールズパンチャーの最初の犠牲者である。


「貴様、丹羽先輩を見習え!黒のレースを見られてもまったく動じないその寛容な心。

お前の見かけ騙しの白い布切れなんかとは大違いなのだよ」

「黒のレース……」


顔を赤くする大吾朗とハルカちゃん、そして御木本。


パタン


「ん?」


そして今の今まで石のように微動だにしなかった丹羽先輩が本を閉じこちらを向いた。


「君、覗きをするなら最後までそれに徹するべきだと私は思うんだ」


「え?」


丹羽先輩の発言に俺は疑問系で返す。そして彼女は語り始める。


「こっそり女子の下着を覗き、それを記憶として心の中にしまっておくまでならまぁいいだろう。

だが本人の前で堂々と覗き見たことを吐露した挙句、

下着の仕様まで公表するというのは覗きとして少々マナー違反だと私は思うんだが」


「いや、発明品で下着覗いてる時点でぶっちぎりでマナー違反なんですが」


思わず素の反応をしてしまう俺。丹羽先輩と話してるとうっかり正気に戻りそうになるぜ。

やはりこの方は何を言い出すか未知数だ。


「覗き見た感想をわざわざ本人に聞かせるなんて本職の覗き魔でもやらないぞ」


気づくと俺は犯罪者以下の扱いを受けていた。

ふ、所詮俺は何をやらせても中途半端さ。笑いたけりゃ笑えよ。

俺はふらふらとした足取りで油断している御木本に近づくとガールズパンチャーを取り上げる。


「これは改造して普通の双眼鏡にするよ」


すっかり浄化された俺は御木本に懺悔する。


「お前の白い布切れなどに興味を持ってしまった俺を許してくれ」

「喧嘩売ってんの? あんた」 


そして丹羽先輩はいつの間にかまた読書に没頭していた。


「さすが丹羽先輩だぜ。わけの分からない理屈で京也を論破しやがった」

「やはり天才同士だと談義一つでも深みがありますね」

「え? 私には二人ともアホにしか見えないんだけど」


感心する大吾郎とハルカちゃんをよそに理解不能といった表情をする御木本。

ふん、凡人でバカの貴様には到底理解できないのも仕方あるまい。 


さて、明日は山に野鳥観察にでも行こうかな。




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