言霊の王
言霊の王。彼は僕にその力を与えた。
僕が「右を向け」といえばみなが右を向く。「うなずけ」といえばうなずく。「死ね」といえば死ぬ。
言霊の力を得て、僕の人生は変わった。好き放題に言霊を使い続けた。
ある日、僕は襲われた。殴られ、混沌としているうちに口にモノを詰め込まれ、車に押し込まれた。
気づくと真っ白な空間にいた。10歩も歩けば端につくほどの広さ。
僕は叫んだ。「開けろ!」しかし、なんの反応もない。当たり前だ。言霊を使おうにも、相手がいなくては塵ほども役に立たない。
こうして僕は、ただひとり、真っ白な部屋に閉じ込められた。
部屋にあるのは一組の布団。そして穴。この穴に用を足し、ごみを捨てる。
何日たったろう。何ヵ月?何年?わからない。わからない。わかりたくない。知りたくない。でも、知りたい。
時々、発作が出る。叫ぶ。開けろ、開けろ、開けろ、あけろ、アケロ、アケロ、アケロ!なにが悪かったんだ。土下座させたことか?金をとったことか?裸にさせたことか?殴りあいをさせたことか?別れさせたことか?殺したことか?死なせたことか?
血を吐くまで叫ぶ。でもそれでどうにかなったことはない。
部屋で白い壁にもたれて座り込む。
そのとき、閃いた。なんだ、簡単なことじゃないか。笑う。へへへっ。はははっ。なーんだ、かんたんじゃないかー。
口をひらく。
「僕は、死ぬ」
全てが空白になった。