運命の赤い糸
目覚めると、俺の小指に赤い糸が巻かれていた。
「おおっ!ついに俺にも!」
喜びの余りベッドから転がり落ちてしまった。
普段ならゆーうつな通学も、今日に限っては天国への階段を登るようだ。ちなみに、赤い糸は、将来結ばれる二人にしか見えない。
学校に着いた。赤い糸はどうも教室に続いているようだ。
「まさか、いや、そんな」
淡い期待。祈りながら、期待しながら、歩を教室に向かって進める。
がらり。教室のドアを開ける。果たして、赤い糸の主はクラスメイトらしい。
おれはぐるりと視線をめぐらし、赤い糸の主を、つまり、将来の妻を探した。そして本日二回目の喜びに出会った。
佐藤あやね。学校一の、いや、この日本一の美少女。彼女の白く華奢な小指に赤い糸が巻き付いている。そしてそれは俺へと続いていた。
ふたりの、将来結ばれることが約束されたふたりの視線が絡まる。
俺の脳内では幸せの鐘の音が鳴り響く。そして、佐藤の、いや、「あやね」の桃色の唇から福音に似た言葉が紡がれる…
「イヤだ!なんであんたなのよ!」
佐藤は赤い糸をすぽん、と勢いよく引き抜き、ゴミのように地に投げ捨てた。
そんなのアリかよ!
かくして桃色未来は失われた。もし、ふたりがお互いに将来結ばれることを知らなければ、あるいは現実となったのかもしれない。
しかしまぁ、今となっては覆水盆に帰らずだ。