初恋とゴム、とお酒
私は大学一回生。そして初めてのバイトは近所のドラッグストア。時給はそこそこ、立ちっぱなしなのはキズだが、それでも続けているのにはワケがある。
来た。時刻は午後9時30分。私の上がる時間のちょうど30分前。この時間になると彼が来るのだ。
栗色の髪は自然に染め上げられていて、嫌みがない。格好も力を入れすぎず抜きすぎずだし、なによりよく似合っている。そして、お会計諸々が済んだあと、たかがバイトの私にもやさしく「ありがとう」と声をかけてくれるのだ。それに惚れた。
ああ。付き合ってる娘とかいるのかな。同じ大学なのかな。もやもやは募るばかり。
そんなこんなではや二ヶ月。私はいよいよ告白することにした。積もり積もった想いはもう決壊寸前なのだ。
来た。彼だ。ちょうど、もう一人のベテランのバイトのおばちゃんは別のお客さんに呼ばれてどこかに姿を消していた。
「このあと、ヒマですか」。お会計が済んだら声をかけるんだ。意気込む私をよそに、彼は商品をカウンターにおいた。
ゴムだった。
髪止めじゃない。輪ゴムでもない。ドラッグストアの売れ筋商品のひとつ。
かくして私の恋は終わった。サイアクサイテイの生々しさだけを残して。
同期についうっかり漏らしたのが間違いだった。
近所のドラッグストアにいる娘が気になってるなんて。
友人との飲みの帰りに、じゃあ顔を拝んでみようということになった。嫌々案内する。
店外から覗くと、彼女は今日もいた。
「ゴム買ってきて」
友人のひとりが赤い顔でいう。呂律がまわっていない。
散々抵抗したが、飲み代をチャラにする言葉に負けた。どうせ彼女だってたかが客ひとりの顔なんて覚えていないだろう。
友人が先に店内に入り、おばちゃん店員を呼び出す。そのすきに、ゴムを手にレジに向かう。
恋の始まりは誰にもわからない。しかし、恋の終わりもまたわからないものだ。
お酒と悪ふざけにはご用心。