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願わくば、霧よ  作者: 晴間雨一
六章『緋眼の王』
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090 誰そ彼そ


 息を切らして夜の森を一心に走った。

 走ることに意識の全部をやっていれば、胸を満たす不安が少しでも軽くなる気がしたからだ。

 

 でも、現実はそうじゃない。そんなに上手くはいかない。

 わたしの背中を超常の稲光が照らすたびに、わたしの耳が剣戟の音を聞くたびにイヤな想像が胸を締め付ける。

 

 妹と繋いだ手がやけに滑る。

 わたしも、ミリアも、不安で不安でどうしようもなかった。

 

 夜の森はわたしたち二人の心象風景のようだ。

 先行きの見えない暗闇は足元をすくうように恐ろしく、戦いの音の他にはわたしたちが吐く息の音があるだけだ。

 

 閉ざされた未来。そんな言葉が似合うな、と頭の端で思った。

 森の地面には青い光が点々と続いていた。明けない夜から脱出する唯一の道。明日へ続く道だ。

 

 わたしたちをこの道へ行かせるために身を呈した者が居る。

 そう思うと喜べなかった。むしろ剣を手に握り、父と共に気高く戦いたかった。そう思ってしまうのは親子の血なのか、それとも愚かだからか。

 

「お兄ちゃん」


 息を切らしたミリアがわたしのすぐ傍で必死な顔をして言う。

 

「バカなこと考えないでよね。お父さんとお母さんの気持ち、無駄にしたら絶対に許さないよ」

「……分かってる」

「嘘。戻りたくって仕方ないんでしょ」


 この妹はどうしてわたしをこんなにも知っているのか。

 わたしは顏をしかめた。内心を悟られたくなかったのかもしれない。

 

「戻りたかったら、ミリアはどうする。止めるの?」

「当たり前じゃない! 噛みついてでも止めるよ!」

「――……ミリア」


 走る足が緩む。熱を冷ますような歩みになり、やがて肩を落とした歩調になり、最後にはわたしの足は止まった。

 

 ミリアがじっと見ているのが分かる。視線に力があるのなら、きっと肌に穴が空いているだろう。

 

「ちょっと……やめてよ。ねえ、お兄ちゃん」

「……ミリア。僕は、」


 どこからか聞こえてきた下手くそな鼻歌に気を取られた。

 以前に一度だけ耳にした調子はずれな歌。童謡のようでもあれば、火を囲い、伝説を歌う語り部の声にも思える。

 

「♪ 霧にかけた願いは遠く 名を呼ぶ者は いまやひとり

   自分なき者に愛を 明日を求める者にまことの心を

   遠きルヴェリア 戻れぬルヴェリア 黄昏の陽は何を見る……」

   

 もう何年も前のことになる。わたしとビヨンが月下の森に赴き、試練を越えた時に彼女はこうして現われた。

 と、物思いに引きずられたわたしは引っ掛かりを覚えた。あの森で見た月は……何かが違った、と。

 

「悔やむぞ、ユリウス」


 木の影からひょいと顔を出し、美貌をにやつかせてイルミナが言う。

 白いローブに白の帽子。いつもの彼女。……〝紋章〟を宿す、超常の女。

 

「何をですか」とわたしは言った。本当は理解しているのに。

「父との別れの形が本当にあのようなもので良かったのか? 後悔とは重い。人が抱きうる苦悩のうちで最も重いものだと私は考える」


 わたしは言い淀んだ。この右手をきつく握るミリアの細い手が、わたしが返答するのを許さなかった。

 

「師匠。お兄ちゃんを――兄を戸惑わせるのは止めてください」

「ミリア。賢きミリア。フハッ……お前は何故ユリウスの足を止めさせる? 兄を後悔の海に沈めるのがお前のしたい事なのか?」

「行けば兄はきっと死ぬからです」

「ほう? 何故だ。万が一もあるかも知れんではないか。お前の思う兄は父に勝るとも劣らぬ、立派な勇者なのだろう? 違ったか?」


 そうしてイルミナは前髪をいじり、小馬鹿にした目線をミリアへと向ける。

 妹が激昂していくのが分かる。わたしが彼女の手を握り返し、冷静になれと言外に伝える。

 

「兄妹愛とは実に美しいな。フッハハ……ハハ。足元の光を見よ。我が魔法が描いた道筋を。この光点は明日へと続く道だ。しかし生き残った未来には後悔が常に付きまとう」

「……後悔……」


 次いで白い魔女は指先をつい、と村の方角へと向けた。視線でそれを追うと再度の稲光が空に瞬く。

 

「一方であちらは破滅、退廃、苦難の道だ。生き残れる保証は無い。だが代わりに真実を得られる。ユリウス、そしてミリア。真実とは『枷』だ。……人は不思議なものでな。知れば知る程に身体と魂は重くなり、身動きが取れなくなる」

「枷……? それは何故ですか」


「相手が分かってしまうからだ。ユリウス、旅の中でお前は人を殺めたな? 悪に堕ちた賊どもだが、彼らにも名前があり、人生があった。例えば<ドーリンの街>で殺した悪漢。奴の名はフランダル。痩せた妻と飢えた娘が居た。フランダルは真っ当に働けない男だが、家族に向ける愛はあった。悪事と分かってはいたが、フランダルは身を引けなかった。それは身内の苦境を知っていた(・・・・・)からだ」


 顔も思い出せない。

 始末した悪漢の顏をわたしは覚えていない。

 どうしてだろうか。わたしはこれほどに冷たかったのか? いつからだ?

 

 だがイルミナの言わんとすることは解る。わたしの心を揺らがせようとする彼女の試みは成功している。

 

 わたしがあの男を知っていれば剣を振り下ろせなかっただろう。彼の背景を知り、理由を知れば『退け』の一言も言えただろう。

 

 遅すぎる知識だった。しかし想像をしてしまう。

 男を失った家族の行く末を。嘆きの声を。

 

「知識とは力だ。だが知るが故に枷はさらなる重さを得るのだ。……ユリウス。お前が父のもとへと走り、あの究極の前に立った時、お前は己を知るだろう」

「僕が、僕のことを……? っ!」


 イルミナが自分の胸に指を添え、横一文字に指を滑らせた。

 舌をちろと覗かせ、魔女の名に相応しい蠱惑的な表情を彼女がする。

 普段のからかう顏とは違う――嗜虐的な顔。

 

 どうしてだ? どうして彼女がこんな顏を、いや、胸の傷を、何故――。

 

「兄を……ユリウス(・・・・)を惑わせないでください」

「殊勝な妹だな。泣けてくるよ。しかし、だ、ミリア・フォンクラッド。ユリウスは知らねばならんのだ。言うなればこれはこの男の運命。背負った星の定めなのさ」


 懐から一枚の羊皮紙をイルミナが取り出す。表面をわたしへと見せつけるが、知識の無いわたしには何が記されているかはまるで分からない。

 羊皮紙を走るインクが魔力を帯び、青白く輝き出す。次いで足元に違和感。

 わたしの真下に五芒星が描かれ、視界がぼやけ始める。

 

 遠くから手前へと、徐々に、徐々に揺らぐ。

 

「――お兄ちゃんっ!!」

「ミリア……!」


 妹の手が掴めない。さっきまでしっかりと握り合っていたはずなのに、互いの手のあいだに透明の壁があるかのように触れられない。

 

 わたしたちは互いに指を伸ばした。離れてしまえば何かが決定的に変わってしまうと直感したのかも知れない。

 ぼやける視界が鬱陶しかった。邪魔をするな、と言葉が口をついて出る。

 

「往け、ユリウス。停滞した歯車を回さねばならん時が来たのだ」

「お兄ちゃんッ! 師匠、止めてください! 師匠っ!」

イルミナ(・・・・)クラドリン(・・・・・)! あなたは、一体何なんだ!?」


 答えは無く、イルミナは不敵に笑い続けたまま。

 わたしが最後に見たのはミリアの悲痛な顔だった。

 

 



 この剣だけは不壊だった。

 絶対の力と何合打ち合わせただろう。二十か、三十か、もう数えていない。

 剣と剣がぶつかり合う音が楽曲のように耳に響き、フレデリックは戦いの熱にかつてないほど冷静でいて、同時に浮かれていた。

 

 相対していた〝ウル〟の姿が消える。

 超人的な身体能力。人の域を逸脱した技量。

 

〝ウル〟が自分との戦いにおいて、特別な能力など何一つとして使っていないことにフレデリックは気付いていた。

 雲を断つ剣の一撃。遠間を切り刻む必殺の剣圧。瞬間移動に等しい行動速度。

 異常とも呼べる強力な力の数々。

 

 それら全ては生身の肉体で成し得たものだった。

〝ウル〟は――自分の肉体の能力の範囲でしか戦っていなかった。


「<時雨>ッ! <驟雨(しゅうう)>、<落葉(らくよう)>――ッ!」

「……」


 フレデリックの剣が閃光となって迸る。

 自分は今、生涯において最高、最速の剣を放っている。若き日の剣筋よりも磨かれ、瑞々しかった記憶よりも剣を扱える。

 

 だが、届かない。

〝ウル〟がどんな道を歩み、どんな研鑽の果てに到ったのかは分からない。

 理解出来るのはその境地へは決して辿り着けないという事実。

 

「……フッ……」


 紅い外套が騎士を包み、やはり姿が消える。

 乾ききった瞳で気配を追う。もはやまばたきが許される次元の戦闘ではない。一瞬の油断がこの首を落とす切っ掛けになる。

 

 紅い筋が空間を(はし)る。

 縦横無尽。辺りに散る大地の残骸を蹴りつけ、崩れ落ちる家屋から飛び散った小さな破片を足場と認め、踏んだ〝ウル〟が加速をする。

 

 子供のいたずら書きのようなデタラメな軌道。殺意に満ちた紅蓮の光線。

 

「っそ――……っこっ! だっ!」


 剣を背に回す。瞬間、背中が爆発したような衝撃に吹き飛ばされ、フレデリックが大地を無様に転がる。

 起き上がり、口にたまった赤い血を吐きだし、口元を拭うと挑戦的な視線を〝ウル〟へと向けた。

 

――楽しい。

 戦いとは、凌ぎ合いとはこれほどに楽しかったか。

 

〝ウル〟が全力を出していないのは分かっている。

 どうしてか自分の挑戦に奴は付き合い、切り結んでいる。

 

 要するに遊ばれているのだ。

 それは天と地ほどの技量の差があるものだった。一方はあからさまな手抜きで弄び、一方は一瞬の油断で首を落とすことになる、命を賭けた遊び(・・)


 地を這う〝南の英雄〟を、〝人界の英雄〟が仮面の内で見下ろした。

 

「フレデリック・フォンクラッド。人の身では決して勝利を拾えない。まして貴公では尚更のこと」

「……一応、聞いておこうか」

「あらゆる剣を私は知っている。旧くも新しくも、全ての源流に私は立つ。貴公の我流も、〝迅閃〟も。私には届かない」


 我流を知っている? 奴と対峙したことは一度も無い。正真正銘、生涯において初の邂逅。だがそれを知るとはどういうことか。

 

 不意に、フレデリックの握る剣――封じた剣、抜くまいと胸に決めていた宝剣、災厄の遺産〝悪竜剣(イグヴァラーン)〟の鍔に埋まる真紅の宝玉が脈を打った。

 

「っ、何だ!?」

「……」


 フレデリックは視線を落とした。

 落としてしまった。

 

〝ウル〟の具足が顏の前にある。盾の衣装がありありと分かる。

 視線の先によく知った光が見えた。

 

 剣の光。死を与える銀の輝き。

 

 

 

「父さんっ!!」


 北騎士の銀剣が耳の端を切り裂き、眉上からこめかみにかけて一筋の傷が走る。

 血が右目に流れ込み、舌打ちを漏らす。

 

 低下した目は自分の似姿を捉えていた。

 

 原型を失った丘の下から駆け走る若き剣士。愚かな息子。

 ユリウス・フォンクラッドが剣を片手に握り、絶叫をあげて走り続けた。

 

 

 


 緑豊かな丘はもうどこにも無い。

 わたしが風を感じ、生に笑みをこぼしたフォンクラッドの家は失われていた。

 父は倒れ、ガレキにその背を預けている。

 

 まだ、生きている。血に濡れ、赤らんだ目がわたしを向いていた。

 父がその首をゆっくりと左右に振る。『引き返せ』。

 

「イルミナの言った後悔はこのことか? 僕が来なければ父は知らずに殺されていたのか?……ふざけるな……」


 剣を握る拳が震える。拳が白み、あらん限りの力を込めた。

 母も、ギュスターヴも無い。場には満身創痍の父と、それを追い詰めた騎士。


「……〝ウル〟。お前、やってくれたな。一体何だ。何をしにきたんだ!?」

「――……」

「僕は見たぞ! 〝大穴〟の戦いを離れ! ルヴェルタリアの騎士を殺し! アーデルロールの首を掴んだお前を! 何が最強の騎士だ、何が〝四騎士〟だ! お前を目指した僕は大馬鹿だ!」


 わたしに背を向けたまま、騎士は一言も答えなかった。

 紅蓮の外套が風に揺れる様は『だからなんだ』とでも言っているように見え、苛立ちがわたしの中に募っていく。

 

「僕はお前を許さない。父を傷つけたお前を、アーデルロールを手に掛けようとしたお前をっ!!」


 叫びと同時に全身に魔力をみなぎらせ、戦場跡のように荒れた丘を駆け走った。

 疾走だった。肩で風を斬り、適切なタイミングで最上の跳躍を果たし、〝ウル〟の背に斬りかかる。

 

 背後を向いていたはずの奴の手がわたしの首へ伸びた。

 死の予感。

 手の甲でガントレットを殴りつけ、寸でで躱すが、打撃した片腕の痺れはあまりにひどい。

 

 だからと言って攻撃の手を止めるわけがない。

 低姿勢から足を狙い、すり抜けざまに腿裏への斬撃、

 

「――しっ!」


 振り抜いた剣を手元で回し、逆手に握った剣の切っ先で甲冑の間隙を狙う。

 通らない(・・・・・)

 速度をのせた刺突のはずが、魔力を含んだ鋭い剣の先端が〝ウル〟の肉体に通らなかった。

 

〝ウル〟は微動だにしていない。

 盾も掲げず、鞘に納めた剣を抜こうともしない。

 

 わたし程度の攻撃など意味は無いと知っていたのか。

 防御の価値すらないと悟ったのか。

 

 なんなんだ、これは……。これでお前の怒りは収まっただろうと、そう言うかのように奴は口も利かずに立ったままではないか。

 

 物言わぬ騎士兜だけがわたしを見下ろしている。

 顔面のスリットからは瞳の色は覗けない。ただ闇色の黒があるだけだ。

 

「ユリ、ウス……やめろ、殺されるだけだ」

「黙って見ていられるわけがない。僕は後悔したくないんだ」

「……バカ息子。逃げろって言ったろ……」


 背を向けたままにわたしは答える。と、〝ウル〟の姿がかき消えた。

 マントの深紅色だけが筋のように残り、しかし完全に消失する。

 

 視線は外さなかった。瞬きはしなかった。

 内臓が揺れる。騎士の拳がわたしの腹に深々と埋まり、軋み、折れる音が内側でひびく。

 

 冗談のように吹き飛ばされた。背中から地面に落着し、勢いのままに跳ね、肩から大地を滑り、屹立した岩に背中を打ち付けてようやく止まる。

 呼吸が出来なかった。胸の中身だけがやけに熱い。憎しみと怒りが炎となって燃え盛るかのようだ。

 

 距離を一瞬で詰め、〝ウル〟がわたしの首を掴み、軽々と持ち上げる。

 呼吸音。枯れ切った声が耳を打つ。

 

「殺された恨みは晴れたか?」


 何を言っている……? わたしはまだ、誰も失くしてはいない。

 くぐもった笑い。嘲笑だと気付いたのは少しあとだ。

〝ウル〟の指先がわたしの胸に押し当てられ、シャツに血がにじむ。脈を打つ感触が際立ち、吐き気がこみ上げた。


「っぐ……」

「私はお前を知っているぞ」

「な、にを……?」


 指先が離れ、次いで剣の切っ先がわたしの胸に突きつけられる。

 先端が横一文字を描く。この胸に残る傷を正確に、間違いなくなぞった。

 

「あの日、愚かだったお前を私は殺した。事情を知らぬお前の胸に剣を突き立て、心臓を破り、殺したのは私だ。覚えているか?……覚えていないだろうな。殺されたのは愚者で、今のお前ではない(・・・・・・・・)


〝ウル〟の言葉が意味を結ばない。こいつは何を言っている?

 脳は理解せず、しかし肉体は悟ったのか、胸からはとめどなく血が流れ続けていた。

 首を掴む手に力が篭る。意識が、白む。

 

『……死ぬんじゃないわよ、ユリウス』


 あの声が聞こえた。


「――っ!!」


 歯を食いしばった。騎士の腕を掴み返し、渾身の力を込める。まるで動じない。ここまで自分の力が及ばないとは思いもしなかった。至らなさを悔やむ。悔やんで、悔やんで、悔しくて仕方がなかった。

 

 殺された過去は覚えていない。

 だが、この〝ウル〟をわたしはどうあっても許せなかった。

 記憶の奥底で星がいくつも瞬き、手に掴めぬ記憶が無数に閃く。

 

 何かが近い。だが、触れられない。

 

「お前は何も為せない。――死ね、ユリウス・フォンクラッド」


 騎士の剣がブレる。

 何か重たい、質量のある、柔らかな物が切断される音がした。

 血液が視界を舞う。〝ウル〟の剣が振り切られている。

 

 父が、わたしの上に倒れ込む。

 少しの間。体感では永遠にも思えた。わたしの意識を現実へと引き戻したのはどしゃり、とした重い音。

 

 フレデリックの腕が宙を舞い、落ちた音だった。

 

………………

…………

……


「お前は常に失う。

 かつても、今も、己の至らなさでお前は全てを失っていく。

 私の言葉が聞こえているか? 理解出来ているか?

 

 思い出せ。

 他人に乞われ、剣を掴んだ日を。

 思い出せ。

 正義を振りかざし、悪と断じた者を手に掛けた日を。

 思い出せ。

 セリス・トラインナーグを失った日を。


 彼女を殺したのは私だ。

 かつてのお前が魂が歪むほどに憎み、何を代償にしても殺そうとした男。

 ああ……その顔だ。憎悪に軋んだ顏。私はそれを待っていた。

 

……起きろ。古い英雄。北の王、〝霧払い〟よ。

 それともこう呼べば目覚めるのか?

 

――ガリアン(・・・・)ルヴェルタリア(・・・・・・・)


 

 

 言葉は、要らない。

 

「……払暁(ふつぎょう)の瞳が、汝の名を結ぶ」


 わたしはどうあってもこの男を殺す。

 

「白星の瞬き……。無二の迅剣……」


 憎しみも、過去も、胸の内側で燻る炎も、潤む目頭も、命もどうだっていい。


「世に最も鋭き刃をここに……」


 この男を殺す。

 この男の死に顔以外、もう何も見たくはなかった。


「来い……ッ! <セリス(・・・)ウル(・・)トラインナーグ(・・・・・・・)>!!」


 視界が赤い光で満たされる。

 懐かしい。これは、そう、まるで夕暮れのような赤だった。


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