怪盗男の娘、初期装備は盗むものっすよ。的な。
もしかしたら、この子が主人公かも。違うんだけどね。
遡ること、1ヶ月と少し。小鳥が神さま転移を経験するちょっと前。別の神さま、もとい、神様の所でも小鳥と同じような状況になっている少女が、いや少年がいた。サイドテールの頭に黄緑色のベレー帽を深く被り、皴がはいったワイシャツ姿で赤いネクタイを結んでいる。だが、指先まで袖で隠し、鎖骨あたりまではだけている。黒のキュロットスカートにベルトを適当に通して、踵の高いビーチサンダルを履いており、全体的にだらけている雰囲気を纏っている。意外と楽な恰好なのだろう、自然体である。
「さて、状況は理解したね?」
神様と表現できる誰かに説明されて、ある者は怒り、またある者は喜び、と様々な反応を示す中、少年は、中里司は静かに周りの様子を見ていた。
「…………。」
「うんうん、結構。じゃあ、準備がいい子からあっちへ行ってもらおうか。」
そう言って、次々と転移させていく。また、暫くの間落ち着けなかった人たちも、徐々にいなくなってゆく。
「さあ、君が最後だ。」
「そっすね。異世界なんて夢みたいっすけど、そのまま行くのは勘弁してほしいっす。」
「ほう、つまり何かしらして欲しいと?」
「そそ、神様にいうとおかしいかもしれないっすけど、怪盗稼業をやってみたいんすよ。」
「怪盗か、ふむ、いいだろう。」
「お、言ってみるものっすね。」
「ああ、神は、と言うより、私はそこそこ暇なのでね。だから暇つぶしに介入しただけだ。面白ければなんだっていい。」
「身も蓋もないっす。」
「神とはそんなものだ。さて、行くがいい。ああ、鑑定と念じろよ。ステータスじゃあないからな。」
「は?」
そんな言葉を最後に司は異世界デビューしてしまう。周りを見渡すと、圧倒される程の大自然が広がっており、地平線に街壁らしきものが見える。目線を下げると5人ほど倒れており、学生服を着ているところを見るにファンタジー異世界にやってきた学生だろう。ご同輩か、しかもご丁寧に高く売れそうな装備を持っている。
「うわ、チート武器ってやつっすか?……ふむ、まずは、自分の確認っすよね。鑑定とか言ってたっすね。」
―鑑定―
名前
司 中里
種族
人間
称号
怪盗 奇術師 詐欺師 道化師
Lv.20
MP 1000
STR 120
SPD 700
MIN 300
VIT 100
スキル
鑑定 中に人はいないっす 怪盗参上っすよ 嘘から出来た実っす 君は段々眠くなるっす
「意味がわからないっす。スキルの名前で馬鹿にされてるっすよ。」
ここで、少し説明するならば、スキル名は個人の無意識で変わることがある。かなり珍しいことなのだが、欲望駄々漏れのスキル名だったり、略称しすぎて自分しかわからなかったり、異口同音の名前だったり、彼女、いや彼のようにスキル名に語尾が付くことだってある。再度説明するが珍しいことなのだ、異世界にいることから珍しいとか言ってはいけない。
「ま、いいっす。今はご同輩に何か恵んで貰うっすよ。装備品と貨幣っすかね?それ位しか………お、携帯端末ゲットっす。」
それにしても、彼女、いや彼は外道ではなかろうか。寝ている同輩から持ち物と金を拝借しているのだ。怪盗だからって盗賊の真似事は如何なものか、賛否両論である。そもそも初期装備を盗むとは彼女に、いや彼に慈悲はないのだろうか。怪盗、拝借する前に着替えてほしいものだ、性別を間違えてしまう。
「んー、装備品、お金、端末、あと、異次元ポケットの学ランだけっすか。しょぼいっすね。」
―鑑定―
絶槍・雷光
使用者の魔力を消費するたびに動作が加速される。
聖剣・デュランダル
異世界の聖剣。不壊の逸話から、決して壊れない。
聖なる逆十字の短剣・セントクロス
十字に切りつけた相手に祝福と呪いを与える。
相手は6日間どんな傷でも回復するが、7日目に過去に負った傷の全てを再現し治らなくなる。
詠唱回路・転詩の輪
指輪、腕輪、足輪、もしくは天使の輪。
どこに着けても問題ない。魔力を流すことで、記録してある魔法陣が使える。
魔弓・クィーン
相手を思い浮かべて弦を鳴らす。
MPの最大値が相手より高い場合、急所に貫通した矢が生える。低い場合、使用者に1日、矢の雨が降る。
携帯端末
異世界の端末。思春期男子の思い出が詰まっている。桃源郷な動画と画像が沢山。
学ラン・ディメンジョン
ポケットの中は無限大。そんな純粋な夢から生まれた。ポケット以外にも、学ランの内側からでも出し入れ可能。
肩にかけても何故か落ちない。
お金の詰まった袋
金貨500枚の入った袋。単位はセル。鉄貨、銅貨、銀貨、白金貨、金貨、10進法で貨幣が変わる。鉄貨1枚1セル。
「まあまあの収穫じゃないっすかね?いやはや、ご同輩に感謝っすね。」
―中に人はいないっす―
武器の類を収納すると、学ランを肩にかけ、端末とお金を学ランにしまい、足取り軽くその場を離れていく。目指すは街壁、街の中。