兎の少女、ししゃへのたむけなんだって。的な。
コーンフレーク。いえ、シリアスな終わりですが、シリアルな語りなので。
ちょうどいいですよね、コーンフレーク。
突然だが、ファンタジー異世界で人が人を手にかける身近な場所、つまり殺人が起きやすい場所、もしくは環境はなんだろうか。大体はファンタジー=中世ヨーロッパを想像するだろうから、中世ヨーロッパで考えても構わない。山賊や盗賊の類か、身近ではないな。なら職場だろうか、過労死はあるだろうが殺人が起きやすいとは言いにくい。では、どこか。わかりやすいものでいうと、王族や貴族の類、跡継ぎ争いというやつだ。市井の身分では口減らしか。そう、家庭環境こそが殺人が起きやすい。それは何故か、家族という最も身近な他人と、家庭という最も影響される環境で過ごしているのだ。感情の矛先は向けられやすい。全ての家庭が、家族が殺伐としていると言いたいわけではない。幸せな家庭だってあることだろう。ただ、中世の時代は命の価値が軽すぎたのだ。赤ん坊はキャベツ畑から取ってくるもの、ふざけている。ようは、切っ掛けさえあれば家族を殺すことは容易いわけだ。
「ごめんね、おねーちゃん。いたいよね。」
「………ユ、タ…。」
妹が姉を殺す、なんとも悲劇的な出来事である。悲しみで涙が零れそうだ。零すやつは現れていないが、そのうち出てくるだろう。母親とか、父親とか、幼馴染の少年とか。ラタの格好は酷いと言っていい、まるで、賊に押し倒されて汚されてしまった後みたいだ。薬草の入った籠はバラバラにされており、そこらじゅうに散らばっている。服は引き裂かれ、襤褸雑巾になったそれは、もはや肌を隠す事すらできない。瑞々しい体は力が入らないのか弱り果て、背中に傷でもあるのか溢れ出る血が大地を色鮮やかに染め上げている。
「おひめさまにおしえてもらったの、しんじゃうひとにはたくさんのはなをあげるんだって。」
「……ユ、タ………?」
「ししゃへのたむけっていってた、だから、おねーちゃんにもたくさんのはなをあげなきゃね。」
「ユ……タッ……!」
「ばいばい、おねーちゃん。」
―剣脚―
斬。ユタの振り上げた脚が、彼女の、姉の命を斬り捨てる。首を、頸動脈を深く斬った事で血が吹き上がり、姉妹を赤々と彩る。
「はなをあげなきゃね。うさぎさん、もってきて。」
中天から傾き沈み始める太陽の光が、全てを橙色に上塗りする。そこは、その景色は、言い表せない何かを訴えているような。
「あいつら、おせーな。」
独り言を呟くのは、少年。名前はワジ、姉妹と年齢が近いせいか幼馴染の関係にある。
「なんか、嫌な感じがする。」
嫌な感じ。虫の知らせだろうか、大体は思い込みや錯覚で、心配して損したと言って終わるのだが、今回はその感覚が正しい。ただし、手遅れすぎて無駄になっているのだが。残念なことに姉は死に、妹は魔物に堕ちた後だ。少年に救える手立てはない。せいぜい弔ってやることしかできないだろう。
少年ワジは、街の門まで様子を見に行くが、姉妹が帰ってくる様子はない。ワジのなかで嫌な感じが膨れ上がる。
――いや、おかしいことじゃねぇ。俺だって遅れて帰ってくるなんて、いつもの事だし。………でも、あいつらがここまで遅くなるなんてあったか?もう夜になるぞ。……なんだ、なんか気持ちわりーぞ。嫌な感じとか、なんだ、なんなんだ。
―第六感―
――くそっ、わかんねぇ。聞いてみるしかねーな。
そう考えるや否や、急いで門の詰所まで駆けていく。
「なあ、おっちゃん。俺と同じくらいの女の子と、10才くらいの小さな女の子知らねーか?」
「ワジ、お兄さんな?その二人なら、朝に薬草取りに行ったよ。もうすぐ帰ってくるだろう、なんだ彼女か?」
「なっ、そうじゃねーよ!てか、そんな話じゃねぇ。なんか嫌な感じがすんだよ、あいつらがこんな遅くまで寄り道するなんておかしいんだ。だってもう夜になるんだぞ。」
「心配する気持ちもわかるが、今から出るのはまずい。日が沈みかけてるから門を閉めなきゃいけないからな。」
「なら、ならどーすりゃいいんだよ。帰ってきてねーんだぞ!」
「わかってるよ、ギルドに依頼しといてやる。お前も明日はギルドに行け、その嫌な感じがスキルだったら笑い事にできねぇ。」
翌日の朝。ギルド。
依頼
姉妹の捜索
幼馴染の少年が門番と一緒に姉妹の捜索を依頼してきた。
少年のスキル、第六感により危険度は高いと判断したため、
注意されたし。何かしらの異変である可能性がある。
場所は、東門外、3km地点の森近辺である。
依頼料
銀貨50枚
「いやー、探すだけで銀貨50枚って美味いよな。」
「金に目が眩んだ?」
「いやいや、空気を和ませようとしてんの。第六感に引っかかるとか、只事じゃねーぜ?」
「今回の依頼は、捜索となっていますが言外に調査もしてこいと言われていますからね。」
「そうね、油断なしで行かないとね。」
依頼内容から不穏な空気を感じ取っているのか、砕けた口調の割に周囲に目を向けている、剣士オート。そんな彼に嫌味を言って笑う、槍士ネフィ。依頼内容を再確認している、魔術士タージュ。タージュに頷く、弓士ミミィ。彼らは平均レベル40になる中堅クラスの冒険者たちだ。序盤に出てきていい敵じゃない、が彼らには知ったことじゃない。そもそも問題を起こす方が悪いのだ、三つ目の中華飯坊主を相手に超野菜人をぶつけていくスタイルだ。おいたは許しまへんえ、京美人に叱られたい。
「……ん?なんだありゃ。」
「何かあった?」
「そう、だな。なぁミミィ、あれが何かわかるか?」
「ちょっと待ってね。」
―望遠眼―
「なんて言えばいいのかな、沢山の花が積まれてるんだけど。」
「森の手前で花の山ですか。誰かが近くで花摘みでもしているのでしょうか。」
「いやいや、だからって山積みはねーだろ。」
「どうせわかんないんだから、調べればいいでしょ?」
「………誰が行くよ?」
誰も返事をしない。誰もがわかっているからだ、何かがおかしい。森の手前で花が山積みになっているだけなのだが、それだけなのがおかしいのだ。動物の声や気配がなく、花の匂いに混ざって鉄の匂いが少しする。
「全員で行きましょう、お互いに死角を潰して。」
「あいよ、皆気ぃつけろよ。」
「……えぇ。」
「…うん。」
1歩また1歩と近づいていく。近づくたびに、鉄の匂いが強くなるが、肉食獣や魔物の姿は確認できず。4人はそれぞれの武器を構え、花の山の前に陣取った。
「山ん中から、血だな。血の匂いがするぞ。」
「ええ何か、いえ、誰かが、いるのでしょう。」
「崩すわ。オート、ミミィ、警戒。」
二人が周囲を警戒するのを確認すると、ネフィは槍で花の山を崩し始める。
「なっ!」
「これは……。」
「……………おい、どうした。おいっ!」
「なに、なんなの!?」
「……周囲の警戒はもういいです。むしろ、森の警戒を。」
「何言ってやが、る。」
「………お姉さん、だよね。」
そこにいたのは、静かに眠る少女、ラタ。体に飛び散った血は綺麗に拭き取られており、花のベッドに寝かされていた。服が無いのか、花弁で肌を隠し花粉で化粧を施されている。一番目を引き付けるのは、深く斬られた首元だ。
「花の墓標、ですか。」
「…のどかな森じゃねぇのかよ。」
「のどかだったんだよ。たぶん、一昨日まで。」
「ねぇ、森の中からも血の匂いがするんだけど。」
「………一旦、戻らねぇか。」
「ですが、ここを放ってはおけませんよ?」
「なら、脚が速いミミィに戻ってもらいましょう?」
「じゃあ、ついでに応援を呼んでくれ。」
「そうですね、僕たちだけでは数が足りないでしょうね。」
「…わかった、すぐに戻るから待ってて。」
冒険者たちの中で弓士が森から離れていく。それを見つめる兎の少女が1人、森の中で静かに笑った。