少女、迷宮からラビットなマーチを始める的な。
自然は怖いです。ええ、特に兎なんかが。
さて、多少時間を跳ばそう。拠点フェイズで生産活動なんて延々と見続けるものじゃない。何が言いたいか。小鳥の迷宮が出来上がりましたよ、というやつだ。広間の入口手前で淡く光り浮かび上がる意味深な魔法陣。立てつけが悪いのか、手を抜いたのか床のタイルはボロボロである。入口にもわかりづらく魔方陣が設置してある。さあ、始めよう。彼女の迷宮が産声を上げる。小鳥は自身の魔力を使い魔物を召喚する。
魔力コスト=MP10
弾兎×25
Lv.5
MP 30
STR 20
SPD 80
MIN 30
VIT 30
スキル
脱兎・弾 脱兎
突き兎×20
Lv.5
MP 30
STR 30
SPD 60
MIN 30
VIT 50
スキル
兎に角 脱兎
剣兎×10
Lv.5
MP 30
STR 50
SPD 40
MIN 30
VIT 60
スキル
剣兎の争い 剛過剣乱 脱兎
惨月兎×5
Lv.5
MP 40
STR 20
SPD 40
MIN 50
VIT 30
スキル
狡兎三窟 兎起鶻落 兎の登り坂 兎の囁き 脱兎
月兎×10
Lv.5
MP 150
STR 10
SPD 30
MIN 100
VIT 10
スキル
捨身慈悲 滅私献身 脱兎
偵察兎×10
Lv.5
MP 20
STR 20
SPD 100
MIN 50
VIT 100
スキル
兎の円らな瞳 十里耳 兎の囁き 以心伝心 脱兎
伝達兎×10
Lv.5
MP 20
STR 10
SPD 150
MIN 20
VIT 50
スキル
兎の置き手紙 以心伝心 脱兎
総魔力コスト=MP900
部隊設定
指揮・惨月兎 斥候・偵察兎×2 前衛・剣兎×2 中衛・突き兎×4 後衛・弾兎×5 支援・月兎×2 伝令・伝達兎×2
「5部隊設定、召喚。行軍。剣的、いや、見敵必殺。」
<<はい、主コトリ。>>
兎たちは、外に向けて歩いていく。まるで統率された軍隊のように、迷うことなく進んでいく。うさうさ、うさうさ、ウサウサ、ウサウサ。兎が入口を通る度に魔方陣が起動し、魔法陣から兎が召喚される。
「魔方陣で魔力を吸収し、魔法陣への魔力コストにする、無限兎とはこれいかに。」
<<兎だから出来ることですね、兎は低コストが自慢みたいなものですから。それにしても主、初めての魔物を召喚する時は発想が大事ですが、閃きすぎではありませんかね?普通、と言うとおかしな話ですが、スライムやゴブリンなどの、それこそファンタジーの定番を選ぶのでは?>>
「ここはファンタジー異世界なのだろう?そんなファンタジーに合わせたら対処されるだろうに。」
<<確かに。>>
「それに、兎は食用にもされる。人間から見れば獲物だ、それがのこのこ歩いていたら狙うだろう。」
<<ですが、それだけでは相手に食糧を与えるだけでは?>>
「だから、頭、剣、槍、弾、薬、目、口を部隊でまとめて動かしているだろう?兎が役目を持って組織的に動いてるなんて初見では気付きにくいだろう。」
<<なるほど。ファンタジーなのに夢がありませんね。>>
「夢見る乙女は卒業したさ。白馬の王子は必要ない。暫くの間は無限兎を続ける。」
さて、兎たちが出ていった場所はのどかな森といっていい場所だ。緑が豊かでそこまで危険な生き物もいない。いたとしても、兎とか、兎とか、兎くらいなものだろう。枝に留まっているガルーダを撃ち殺す兎、草を食んでいるただの兎、もとい、ホーンラビットを斬り殺す兎、そこそこ出会うゴブリンの集団を背後から刺し殺す兎。なるほど、実にのどかだ。兎たちが戯れているのだろう、微笑ましいではないか。和んだやつ、眼科を勧めて差し上げよう、行ってくるがいい。そんな兎が跳梁跋扈している森に少女が二人やってきた。姉妹だろうか、仲良く手をつないで歌を歌っている。何をしに来たのか、薬草でも摘みに来たのだろうか。無駄だろうが、一応言っておこう。少女たちよ、その森は危険だぞ。
「ねぇねぇおねーちゃん、きょうはどこまでいくの?」
「そうだね、この前は森の浅い所で摘んだから、んー…ちょっと奥まで行こうか。」
「なんで?おんなじところでいいじゃん。」
「だめだよ、同じ所で摘んだら薬草が無くなっちゃうんだ。半分くらい残しておいて別の場所に摘みに行けば、次に来るときはまた増えてるでしょう?」
「ふーん。」
「ふふ、まだわかんないかな。」
彼女の名前は、ラタ。妹の名前は、ユタ。彼女達はこの森に薬草を摘みに来たのだ、いつもなら森に入ってからは慎重に行動するのだが、太陽の日に当てられたのか、妹の様子に微笑ましくなったのか。森の様子が変わっていることに気が付かなかった。
「おねーちゃん、おねーちゃん。」
「なぁに、ユタ。」
「うさぎさんがいるよ、ほら、あそこ。」
ユタが指さす方向に兎はいた。彼女達が気になるのか、ずっと見つめている。ラタが兎を見つめ返していると、兎は居心地が悪いのか森の奥に行ってしまう。
「まって、うさぎさん!」
「あ、ちょっとユタ!あー、もう。奥に行き過ぎちゃ駄目だからね!!」
「わかったー!!」
ユタが兎を追いかけていなくなったため、姉である彼女だけで薬草を摘むことになった。とんだ貧乏くじである。
「まったく、何しにここに来たと思ってるのよ。兎なんて追いかけてないで、薬草を摘みなさいよ、薬草を。」
さて、お気づきだろうか。姉妹は離れてしまい、森の中で孤立してしまったのだ。そう、この森に。森の緑をキャンパスに赤を色付ける、アーティスティックな兎たちがパレードをかましているこの森に。そもそも、人が追いかけられるほど、兎の警戒心はゆるくない。見つからない方が普通だというのに、見つけて追いかける事が出来るなんて野性をなめすぎである。何か裏があるのが定石だろうか。少女と呼べる程にしか生きていない彼女達では、わからなくても普通だが。視点を変えよう、妹はどうしているだろうか。
「………ぁ、ぁぅぁ…………ぁぁ…。」
左腕は捻じ曲がり、右腕や胴体はズタズタに傷つけられて、両足は太腿から斬り飛ばされている。背中にいくつかの弾を受けてうつ伏せで倒れており、涙を流しながら声をあげないように耐えている。手遅れである。誰がこのような惨劇を起こしたのか、問題はそんな事ではない。問題なのは、彼女が今、瀕死の重症、つまり死にかけている事だ。
「……ぃ、ぁぃ………ぃぁぃょ……。」
とうとう耐えられなくなったのか、声をあげてしまう。だが、何故耐えていたのか。簡単なことだ、生きている事が相手に伝わってしまうからだ。そう、兎に。
<<………………。>>
「…ぁ、ぁぁ………ぁぁ。」
少女と兎の目が合ってしまう。
―脱兎・弾―
「ぁぁぁぁああ!!」
技の威力が低いのか、背中を撃たれてもまだ死なない。体に激痛が走り、彼女はそれどころではないが。
「ぁぅぅ、ぁ………ぁぁぁっぁ……。」
<<…………………。>>
「……………………弾兎、引け。ついでに月兎を何匹かここに来させろ。」