怪盗男の娘、野郎が美女っすか……。的な。
すり、当たり屋、よくあることさ。
一人称視点の小説を読んだことがあるだろうか。著者と読者にもよるが当たりと外れがある、日記形式、心情形式、何故か毎回読者に挨拶してくる形式、sideつまり視点変更形式、擬似読者視点形式。多々あるが一人称視点といっても大きな違いがあるもの、逆に言えば同じジャンルでも書き方に違いが出てくる。何故このような雑学の披露じみたことをしているのか。
本題に入る前の、ちょっとした導入部分。メインディッシュはこれからだ、とハードルを飛び越えられない高さにしているのだ。
「なあぁぁぁぁ!!なんっなんすか、この本はぁぁ!!一人称視点だから理解しやすぃ?んな書き方じゃねーっすよ!!どうも○○とか、あっ○○とか、ちなみに○○とか、一人称で使うなら違和感なくやってほしいっすね!!そもそも口語体は会話とか思考で使うから違和感ないんすよ、文語体じゃないんすよっ、地の文に謝れ!!」
司は読んでいた本を床に叩き付けるや体重をかけて踏み始めた。
どうも、他人称視点です。あっ、今は宿の食堂にいるんだよ。ちなみに、本はここに来る前に買ったんだよね~。
つまり、そういうことである。世の物書きとは尊敬に値するということだ。だからこそライトノベルとジャンル分けしているのだが。読み易すぎて、逆に読み辛いとというのも苦労する。三人称視点を書けと言われても難しいもの、ならば他人称視点とラベルを貼れば問題ない、盲点突くこと網目通しの如く。嘘ではない、捉え方が違うだけなのだ。さて、話を変えよう。司は食堂にいる、個室ではない。なので当然、騒げば注目されるのだが、本に夢中のようだ。読書ではないのが残念で仕方ならない、周りからの視線も残念で仕方ならない。
「おらっす、くらえっす、これでもかっす!!」
人間、感情に任せて行動すると、なかなか周りが目に入らないものだ。現に司は未だに本を踏んでいる。本の虫たちには噴飯ものだぞ、物を大事に、合言葉はMOTTAINAIだ。
「ふーっ、ふーっ、ふぅぅ。…………ん?」
興奮して赤かった顔は、朱が入ったような、羞恥に苛まれる顔をして机に伏せた。自分の奇行を見られたのだ、人生の汚点だろう。司は顔を俯けて立ち上がり、食堂を出て部屋へと戻っていく。扉を後ろ手で閉め鍵をかけると、鑑定を使い部屋の隅々まで調べていく。
「ん、怪しい仕掛けはないっすね。食堂で騒いでみたっすけど、残念な目で見られるだけでこっちを窺うような視線はなかったっすね。ステータスを見てもはずればっかっす。やっぱりスラムとか遊郭に行ってみるっすか。」
彼女が、いや彼が何を思ってスラム街や遊郭街に行こうとしているのか。理由は怪盗だからだ、と言えてしまう。隠れ家を探しているのだ、怪盗は怪しいところに隠れるもの、木の葉を隠すには森が丁度いい。だが、馬鹿正直に隠れ家を使うわけじゃない。囮、身代わりとして使うのだ。つまり、灯台下暗しを狙っているのである。
遊郭街。それは花町とも呼ばれる場所、華やかな服を身に纏う女性が道行く男性を誘い、一夜の思い出を提供する場所、もしくはその逆、あるいは同性同士。遊郭の通りを歩いていると客を誘う声があちらこちらから聞こえてくる。まるで誘蛾灯のように誘われてしまう客を見ていると貞操観念が緩そうである。少なくとも遊郭に来るような連中はそうだろう。その様なことを考えていたからか、すれ違う男に体をぶつけられてしまう。前方不注意だ。
「おう、嬢ちゃん。ぶつかっといて無視するたぁ、どういうことだ、えぇ!?」
ぶつかった男が何やら喚き散らし、金を寄越せと叫んでいるが、司は聞いてはいなかった。この男はこの街の裏側の人間か否かを考えていたからだ。鑑定を使っても目を引くようなものはなし、程度の低いお粗末な恐喝で頭が悪そう、怒鳴る、喚く、叫ぶだけで面白味もない。まるで使い古されたテンプレのような展開である、だがテンプレではない、よくあることなだけだ。周りの野次馬は見ているだけで助けようともしない、いや助けないのは当然ともいえる。遊郭などの夜の街では自分の力で片づけなければならない、助けようとして飛び火でもされたら迷惑だからだ。暗黙の了解というやつである。
「聞いてんのか、クソガキ!金が払えねぇなら、その体で払ってもらおうか!じゃなけりゃ、死にさらせ!」
司の腕を掴もうとして伸ばされた手は、掴む前に降ろされることになった。
「死ねって言ったっすね。残念っすよ、ならそっちはずっと寝ててくださいっす。」
司が手首を振るうと竪琴を弾くような音が響きわたり、怒鳴っていた男は糸が切れた様に倒れ伏してしまった。
「転詩の輪、起動。眠れる森の美女。王子様に助けてもらうっすよ、なんてね。……さて、行くっすか。」
魔法陣・眠れる森の美女
睡眠の呪いを相手にかける。かけられた相手は1つの方法のみで解呪出来る。
王子の身分を持つものに、目覚めの口づけをされること。




