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冬の童話祭り参加作品

大丈夫、ちゃんと大好きよ

作者: 水泡歌

「 大丈夫、ちゃんと大好きよ」

 これはけいた君にママがよく言う言葉でした。 今年で5才になるけいた君はいつもとても不安そうにこうたずねてくるからです。

「ママ、ぼくのこと、ちゃんとすき?」

 だから、その度にママは答えてあげました。答えるとけいた君はとてもうれしそうに、にこ〜と笑って言いました。

「ぼくもすき」

 ママはそれがかわいくてたまりませんでした。こんなに幸せなことがあっていいのかしらと思いました。


 でも、ある時からママはその幸せなことを忘れるようになりました。

 けいた君に妹が生まれたからです。

 ママはあかちゃんをそだてるのにいっしょうけんめいになりました。けいた君がたずねても「うんうん」とうなずくだけ。前はきちんと目を見て、にっこり笑って言ってくれたのに。

 パパとママは妹のことばかり話すようになりました。前は帰ってきたらすぐにけいた君のところに来てくれたのに、パパはすぐに妹のところに行くようになりました。

 がまんをしなきゃいけないことがふえました。前はたくさんあまえることができたのに、今はあまえると「お兄ちゃんなんだから」と言われます。

 けいた君はとてもさびしくなりました。

 何度も「さびしい」をくりかえし、いやになって、もう「好き」をたずねることをやめてしまいました。



 クリスマスがちかづいてきました。 ママは今年はどうしようかと思いました。

 お料理は? ケーキは? そして何より枕元は?

 だから、あかちゃんがベビーベッドですやすやねむっている時、きくことにしました。

「ねぇ、けいた君。今年はサンタさんに何をもらいたい?」

 1人でお絵かきをしていたけいた君はクレヨンをとめました。そうして、少し考えると、そのまま画用紙とクレヨンを持ってどこかに行ってしまいました。

「けいた君?」

 ママはあわてておいかけます。

 おいかけるとけいた君の部屋のドアがバタンとしまるのが見えました。

「けいた君、どうしたの?」

 あわててドアをたたくママ。中から声が聞こえてきます。

「いま、サンタさんのじかん!」

 大きな怒ったような声でした。

 ママは「ああ」と思いました。けいた君はプレゼントを考えているんだと小さく笑いました。

 遠くからあかちゃんの泣き声がきこえてきました。

 ママはあわててベビーベッドの方に走っていきました。


 けいた君はゆかにねころんでサンタさんへの手紙を書いていました。

 白い画用紙に黒いクレヨンで力強く、しんけんに書いていました。

 書きおわるとなやみました。

 これをどうやってとどけよう。

 いつものようにママにとどけてもらうのはいやでした。

 考えて手紙でかみひこうきをおりました。

 窓から空にむかっておもいっきりなげました。

 はねのところに「サンタさんへ」と書いて。


 サンタさんはクリスマスの用意におおいそがしでした。

 あの子にはあのプレゼントを、この子にはこのプレゼントを。それぞれのサンタさんへの気持ちを思い出しながら、1つ1つ白いふくろに入れていきます。

 さて、これでぜんぶかな?

 目をつぶって心に手をあててかくにん。

 あれ?

 そこで気付きました。

 ひとりだけ気持ちがとどいていない子がいるぞ?

 その時、サンタさんの背中にこつりと何かがあたりました。

 ふりかえるとそこにはかみひこうきがおちていました。

「サンタさんへ」と書かれたかみひこうきでした。

 サンタさんはじっと見つめ、それからにっこりわらいました。

 よかった、ちゃんととどいた。

 さて、きみは何がほしいのかな?

 ひろいあげ、かみひこうきをそっとひらきました。

 ひらいて「おや?」と思いました。

 こまったようにほっぺたをポリポリ。

 これはなかなかむずかしい……。



 クリスマスの朝。さむいさむい朝。

 目をさましたママは朝ごはんの用意をするため、「えいっ」とおきあがりました。すると、枕元で何かがコトリとうごきました。

「?」

  見るとママの枕元に赤いリボンがまかれた白いはこがおいてありました。ママがまだママでなかった小さなあの頃のように。

  ママはびっくりしながらプレゼントを持ち上げました。おそるおそるあけてみました。

  中にはかみひこうきが1つ入っていました。はねのところに「サンタさんへ」と書かれたかみひこうき。ママはすぐにそれがけいたくんの字だとわかりました。

 はこの中にはいっしょにこんな言葉が入っていました。

『大きくなった良い子の君へ 

 君にしかあげられないプレゼントです。どうぞ、幸せを思い出してください。』

 ママはかみひこうきをひらきました。いっしょうけんめいな字でこう書かれていました。

『ママのだいすきがほしいです。おにいちゃんはさびしいです。』

 ママはじっとけいた君の手紙を見つめました。そして、ちょっぴり泣きました。

 

 クリスマスの朝。

 けいたくんはいつもより少しはやく目がさめました。

 さむいさむい朝。ベッドの中から枕元を見ました。そこには1つの青いリボンがまかれた白いはこがおいてありました。

 けいたくんはびっくりしてうれしくなってあわててはこをひらきました。

 そこには1つのかみひこうきが入っていました。

画用紙でおられた、はねのところに黒いクレヨンで「けいたくん」へと書かれたものでした。

 けいた君はドキドキしながらかみひこうきをひらきました。

 ひらいてみるとそこにはこう書かれていました。

『けいたくん、おてがみ、ありがとう。

 きみのプレゼントはここにはおけません。

 どうぞ、ママにあのことばをいってください。

 きみだけがしっているあのことばです。

 サンタはきみにプレゼントをわたします。』

 けいた君はなんどもなんどもよみました。立ち上がり、そっとドアをあけました。

 ペタペタとろうかを台所にむかって歩いていきます。

 台所をのぞくとエプロンをつけたママがこちらに背中をむけて、朝ごはんの用意をしていました。

 包丁の音とおみそしるのにおいがします。

 けいたくんはぎゅっと手をにぎりました。

 もうさびしくなるのはいやでした。

 ほしければほしいほどもらえないのはいやなのです。

 でも、サンタさんが言ってくれたから――

「ママ、ぼくのこと、ちゃんとすき?」

 あの言葉を言いました。

 ママの包丁の音がとまりました。

 包丁をおいて振り返ります。

 じっとけいた君を見つめます。

 そうして、ゆっくりけいた君に近づくと――

「大丈夫、ちゃんと大好きよ」

 ぎゅっとけいた君を抱きしめてそう言いました。

 けいた君はびっくりしたように目を大きくしました。

 あたたかくてやわらかいママの「ぎゅっ」。

 けいた君は言いました。

「ぼくも、すき」

 いつもならにこ〜っと笑うけれど、それもできないほどうれしくてうれしくて。

 ママにぎゅっとだきつきながらわんわんと泣いてしまいました。

 あたたかくて力いっぱいのけいた君の「ぎゅっ」。

 ママはけいた君の泣き声を聞きながら思いました。

 こんなに幸せなことがあっていいのかしらと。



 それからけいた君はなんどもなんどもあの言葉を言って、たくさんママの大好きをもらいました。

 たくさんもらって心がぽかぽかになった時、けいた君は気付いたようにとても不安そうに言いました。

「ねえママ、これ、きょうだけ?」

 クリスマスがおわればプレゼントはなくなってしまうのでしょうか。

 ママはにっこり笑って言いました。

「サンタさんはけいた君の言葉にプレゼントをおいていったのよ? けいた君があの言葉を言ってくれる限り、明日もその次の日もなくなったりしないわ」

 けいた君はとてもうれしそうに「そっか」とにこ〜っと笑いました。 

 けいた君が大好きをほしがらなくなってしまうその日まで、プレゼントはずっとずっと続くのです。

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