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心に宿る鬼  作者: めぐみ犬之介
第一章
8/52

   7


 花火が終わると、俺たちは旅館へ向かった。男性陣と女性陣で、二部屋に別れる。

 男性陣が「初島」という部屋で、女性陣は「大島」という部屋だった。広めの和室で、新しい畳の香りがした。大きな窓からは、海が見える。明日になれば、青い水平線が望めるだろう。

 部屋に到着すると、池田はいきなり布団に潜ってしまった。仕方なく、男性陣五人で浴場へ行く事にした。

 脱衣所で服を脱ぐ。一日遊んでいたおかげで、足が痛い。ビーチフラッグをやりすぎたかもしれない。田村もふくらはぎのあたりを揉んでいた。

「温泉なんやて?」服を脱ぎながら、水谷が訊いた。水谷の体は綺麗な小麦色に焼けていた。

「そうだよ。もしかしたら、日焼けに沁みるかも」

 浴室へ入ると、温泉の蒸気を含んだ湯の香りが鼻孔をくすぐった。体を洗って、浴槽へ入る。体を大の字にして、湯に浸かる。手足の先から、じんじんと暖かさが広がってきた。気持ちがいい。

「神谷、お前、好きな人おらんの」水谷が突然俺に問うた。

 俺はびっくりして体を跳ねさせた。波紋が慌ただしく広がる。

「ど、どうしたんだよ。急に」

「いや、なんとなく。お前からそういう話しを聞いたことないし」

「どうかな……」

 俺はさりげなく裕太のことを見た。裕太は田村とお湯を掛けあってはしゃいでいた。

「ま、言いたくないならええわ。すまん」

 水谷はくいっと唇の端を持ち上げて、不敵に微笑んだ。

「なんだよ。気になるだろ」

 俺は湯をすくって水谷に掛けた。水谷は面食らったようで、顔を腕でごしごしとこすっていた。それを見て笑っていると、水谷が反撃に出た。

「アホ、何すんねん」

 顔にお湯が降り注いだ。しょっぱい味がした。

 それから、いつの間にか五人のお湯かけロワイヤルが始まった。離れたところでくつろいでいた不二雄も巻き込んでやったのだ。一日中、同じようなことで遊んでいたのに、まだ俺たちには力が残っているらしかった。


 それぞれ違うタイミングで浴室を出た。俺は一番最後だった。少しゆっくりした時間を過ごしたかったからだ。俺が浴室を出る頃には、もう他の男たちは、着替えを終えて部屋に戻っていた。

 浴衣を来て、脱衣所を出る。

 広い廊下を歩いていると、マッサージ椅子に座っている真世がいた。彼女はうっとりとした顔で目を瞑っている。ジャージのズボンに白いTシャツに変わっていて、髪は少し濡れていた。

 俺は隣の空いているマッサージ機に座る。近づくと、真世の椅子からモーターの駆動音が聴こえた。

「マッサージなんて、おばさん臭いぞ」

「いいのよ。うるさいわねえ」

 肩たたきをしているらしく、声が震えていた。

「俺もやろうかな」と思ったが、小銭を持っていなかったのでやめた。「なあ、他の女子は?」

「まだお風呂にいるよ。なんか楽しそうにやってる。わたしだけ出てきちゃった」

「ふうん」

 俺は入浴シーンを一瞬思い描いて、慌てて首を振った。

「ねえ。今日、楽しかったね」

「うん」

「明日、大丈夫かな?」

「大丈夫だろ」

 半ば自分に言い聞かせるように言った。今日一日、とても笑った。明日も、きっと楽しい一日になる。

「大丈夫さ」

 俺はどうしてか、もう一度そう言った。

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