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ファミレスを出ると、蒸した空気がむわりと顔を撫でた。遠くから虫の声が聴こえてくる。夏の夜だった。
砂浜に近づいていくと、驚くほど大勢の人がいた。十一人の集団で歩くには、少々窮屈すぎる。俺たちはそれを避けて、旅館から海へ向かう途中にあった、公園に行くことにした。
公園にも人がいたが、海辺ほどではない。浴衣姿の子供が、母親に手をつないで、今か今かと空を見上げていた。
「あそこでええか」水谷が顎をしゃくって、場所を示した。
公園の隅に、使われていない舞台のようなものがあった。あそこに腰掛ければ、花火も見やすいだろう。
舞台端から足を投げ出して、皆で座った。池田はすっかり酔っ払ったらしく、舞台の中央で仰向けになっていた。恵子が心配そうに、池田の顔をのぞき込んでいた。
俺の隣には葵が座っていた。今日一日、一緒に遊んではいたけれど、ほとんど会話はなかった。訪れたチャンスに、俺は密かに胸を膨らませた。
裕太は田村と水谷と肩を組んで、へらへらと笑っていた。酔っぱらいである。
「皆で花火なんて、素敵ですね」
彼女がにこりと笑った。丸い瞳で見上げてくる。星の光をいっぱいに浴びて、輝いて見えた。
「うん、そうだね」
もっと気の利いた台詞を言えばいいのに、と俺は自分の不器用さを呪った。変に意識してしまって、上手く言葉が出てこない。
「これで終わればいいのに――」
葵が言った言葉の意味を考える前に、別の音が耳に飛び込んだ。甲高い打ち上げ花火の音だ。空を見ると、流星に似た火球が、高く立ち昇っていた。
夜空に華が咲いた。体を震わせる巨大な音が、そのあとに続く。
枝垂れ桜のように、幾数本もの炎が、海へ落ちてゆく。美しい空だった。
皆、花火に見惚れていた。葵も目を潤ませていた。感動しているのだろう。
様々な色の華が、空を彩る。千紫万紅の空だ。生暖かい海風が吹くと、火薬の香りがほのかに漂った。何もかもが、情緒に溢れていた。
俺は葵をちらりと見やる。ぽってりと膨らんだ唇や、あどけない顔つきは、まだ幼さを感じる。なのに、花火に心を奪われている彼女の顔は、大人びていて、どこか神秘的で、神々しくすらあるように思えた。