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心に宿る鬼  作者: めぐみ犬之介
第一章
7/52

   6


 ファミレスを出ると、蒸した空気がむわりと顔を撫でた。遠くから虫の声が聴こえてくる。夏の夜だった。

 砂浜に近づいていくと、驚くほど大勢の人がいた。十一人の集団で歩くには、少々窮屈すぎる。俺たちはそれを避けて、旅館から海へ向かう途中にあった、公園に行くことにした。

 公園にも人がいたが、海辺ほどではない。浴衣姿の子供が、母親に手をつないで、今か今かと空を見上げていた。

「あそこでええか」水谷が顎をしゃくって、場所を示した。

 公園の隅に、使われていない舞台のようなものがあった。あそこに腰掛ければ、花火も見やすいだろう。

 舞台端から足を投げ出して、皆で座った。池田はすっかり酔っ払ったらしく、舞台の中央で仰向けになっていた。恵子が心配そうに、池田の顔をのぞき込んでいた。

 俺の隣には葵が座っていた。今日一日、一緒に遊んではいたけれど、ほとんど会話はなかった。訪れたチャンスに、俺は密かに胸を膨らませた。

 裕太は田村と水谷と肩を組んで、へらへらと笑っていた。酔っぱらいである。

「皆で花火なんて、素敵ですね」

 彼女がにこりと笑った。丸い瞳で見上げてくる。星の光をいっぱいに浴びて、輝いて見えた。

「うん、そうだね」

 もっと気の利いた台詞を言えばいいのに、と俺は自分の不器用さを呪った。変に意識してしまって、上手く言葉が出てこない。

「これで終わればいいのに――」

 葵が言った言葉の意味を考える前に、別の音が耳に飛び込んだ。甲高い打ち上げ花火の音だ。空を見ると、流星に似た火球が、高く立ち昇っていた。

 夜空に華が咲いた。体を震わせる巨大な音が、そのあとに続く。

 枝垂れ桜のように、幾数本もの炎が、海へ落ちてゆく。美しい空だった。

 皆、花火に見惚れていた。葵も目を潤ませていた。感動しているのだろう。

 様々な色の華が、空を彩る。千紫万紅の空だ。生暖かい海風が吹くと、火薬の香りがほのかに漂った。何もかもが、情緒に溢れていた。

 俺は葵をちらりと見やる。ぽってりと膨らんだ唇や、あどけない顔つきは、まだ幼さを感じる。なのに、花火に心を奪われている彼女の顔は、大人びていて、どこか神秘的で、神々しくすらあるように思えた。

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