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心に宿る鬼  作者: めぐみ犬之介
最終章
49/52

   2


「――あなた方は、恐らく、鬼が誰であるのか、もう検討がついていると思います。最終ゲームは至ってシンプルです。……鬼を探し出し、殺してください。……階段を登っていくと鬼を殺す為の道具がいくつか用意してあります。当然、鬼にも身を護る為の道具が与えられます。万全を期して挑んでください」

 俺は階段の上を見上げた。出口は見えない。一体、どこに繋がっているのだろうか。

「この階段の上は――」俺の心を読んだように、声が続いた。「この島の中央に広がる森へ繋がっています」

 森――。葵を見つけ出し、殺す。これが最終ゲームの内容だ。

「さて、説明は以上です。質問はありませんね。それでは、最終ゲーム、頑張ってください」

 まず、池田を探さなければ――と思った。二人で協力して葵を殺すのだ。

 そう自然と考えている自分にふと気がついて、俺は頬に手を当てた。

 俺は、いつの間にか壊れてしまったらしい。

 こんなに邪悪なことを考えているのに、自己嫌悪が全く浮かんでこなかった。葵を殺すことに、何の躊躇いもない。その光景を思い浮かべても、心は全く痛まなかった。

 ふう、と大きく息を吐いた。

 俺は階段を上る。

 階段はコンクリート製だ。登ってゆくと、また落ち葉が目立ち始めた。だんだん幅が狭くなってきた。左右の壁から、地下の冷気が伝わってくる。どういうわけか、地上へ近づいてきたのが実感として湧いた。

 一歩づつ上る。池田と葵も、きっと似たような階段を登っているだろう。葵は今どういう気持ちでいるだろうか。終わるはずだった――鬼の勝利として、生き残れるはずだった――ゲームが続行してしまったことに、絶望しているだろうか。それとも、俺たちを殺そうと息巻いているだろうか。

 途中で少し開けた空間に出た。そこにはテーブルが置かれている。

 拳銃、ナイフ。それら二つが、テーブルの上へ几帳面に並べらている。

 俺は銃を持った。さっきの銃と全く同じ形状である。黒い塊はやはり重たく感じた。

 ナイフは刃渡り20センチ程のものだ。人を殺すには十分だろう。柄の部分は黒塗りになっており、あの砂の魔法陣と同じような意匠が施されている。左手で柄を握ってみると、冷たい感触がした。

 左手にはナイフ、右手に銃を持った。

「葵……」

 俺は気付かぬうちにそう呟いていた。

 階段を更に登ってゆく。

 すると、四角い板のようなものが見えた。あれが出口だろうか。板を持ち上げてみると、簡単に開いた。

 湿気を含んだ外気が吹き込んだ。風の吹く音が螺旋を描いて階段の下へ鳴り響いていった。

 階段を遂に抜けた。

 外は夜である。だが視界は驚くほど明瞭だ。

 見上げてみると、玲瓏たる月光が降り注いでくる。満月らしい。

 それに、星空のその美しさに俺は目を奪われた。幾数の星がこちらに降り注いでいるようだ。こんな状況でなければ、ずっと眺めていたに違いない。

 強い風が吹いた。生暖かい真夏の夜風だ。海に近いせいか、潮の匂いがする。頬にべたついた感触がした。

 風に吹かれて、暗黒の森が雄叫びを上げた。木樹がぶつかり合って、やかましい音を立てたのだ。

 俺は身を低くし、茂みに体を隠した。

 ――どこかに、葵がいるはずだ。

 地下の通路を歩いた感覚だと、地上の出口の位置も、そう変わらないだろう。

 風が止むと、フクロウの鳴き声が聴こえた。

 続けて、草を掻き分ける物音を感じ取る。

 俺はそちらに目を向けた。呼吸を潜め、気配を殺す。

 ――どっちだ。

 目を凝らす。物音の正体は、どうやら何かの動物か、風が吹いただけらしい。

 ――どうする。このまま待つか。それともこちらから動くか。

 俺は茂みに身を潜り込ませるように匍匐前進をした。よっぽどのことがなければ、発見されないだろう。俺は森――高い木の生い茂っている方に向かって進み始めた。


 

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